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第三話 バンシー

 カツン…カツン…と、足音が反響する。


 水滴の落ちる古びた地下道。

 最奥部からさらに伸びていた小部屋へと足を踏み入れる。


 最奥部には握り拳一つ分ほどの赤黒い光が鎖で繋がれていた。


【応えよ。汝、我が力……邪神の力を求めんとする者か】


 荘厳な声が光から響き渡る。


【力を欲するのならば、良いだろう。我に触れるがいい…さすれば汝のぶっ!!なっなひっ!?】


 邪神の力とやらの話しを遮り、むんずと鷲掴みした。


「あなたはいったいどんな味がするのかしら?」


【味っ!?う、うわ〜〜〜!?!?へっ変態ですうぅう〜〜〜!!誰か助けてえぇ!!!】


♦︎♢


「それで貴方が世界を滅ぼす五つの神秘なのかしら」


【そうですぅ。だから恐れ敬うべきなのですよ!!

平伏するのです!!あっちょっとごめんなさい

あぁあ!掴まないで!むにむにしないでぇ!!】


「……」


 なんだか想像していたものとはだいぶん違うものが出て来た。

 最初の方こそ厳かな声で威厳を保とうとしていたが、化けの皮もすぐに剥がれてしまったし。


「でも瘴気だけは本物ね。どのみち放置は出来ないわ」

【お前らが封印したクセに随分と酷い言い草ですねぇ!?ほっといてくださいよぉ!!】


 光は鎖に繋がれながらくねくねとその身を捩らせた。

 ……それにしても。


「……じゅるっ」

【僕を見て涎を垂らすなですよぉ!?お前ちょっと不敬すぎるんじゃないですかぁ!?】

「あらごめんなさい。それじゃあ本題なのだけど、貴方ここから出たい?」

【……何?】


 場の空気が一変した。この赤黒い光が渦巻かせる力が空間を拗らせている。


【何が目的ですかぁ?見たところお前、僕の力を求めて無い気がするんですけどぉ】

「貴方を食べたい。それだけよ」

【それだけだから問題なのですよ!!さてはお前

神託者ですねぇ!?神のおこぼれに群がる下賤な人間が、あぁああ!!ちょっと!!まだ話してるんですよおぉお!むにむにするなぁぁあ!】


 鼻についたので赤黒い光をむにむにする。


【はぁっはぁっ……お前の要求は呑まないですぅ。

そもそも僕を体に取り込める人間なんて存在しないですしぃ】

「じゃあ私、試してみてもいいかしら?」

【……別に構わないですよぉ。そう言って爆散した人間どもなんていくらでも見てきたのでぇ】

「決まりね。【呵責弾丸クーロンディア】」


 光を縛り付けていた鎖を全て撃ち抜く。

 自由を得た光は次第にその姿を大きくし、小部屋を覆い尽くすほどの大きさまで膨れ上がった。


【じゃあ契約を交わすですぅ。お前が爆散しなかったら僕が渋々力を貸してやるです】

「えぇよろしく。貴方の名前は?」

【お前が生きてたら教えてやるですよぉ!えいっ!】


 光が、私の体へ入っていく。

 途端、ヒビが入ったような激痛が身体中に走った。


「〜〜〜〜っ!!〜〜〜っあぁあ!!」


 痛い。痛い痛い痛い。

 思考が全て塗り潰される。痛い。それ以外に考える事が出来ない。


「ぁあ"あ"あ"っ!!!あ"あ"あ"あ"!!!!」


 痛い痛い痛い痛い痛い痛い!痛い!




 ーーーーでも




【おぉ〜?中々耐えるですねぇ。でもいつまで保つですかぁ?】

「……ぁあ"あ"…………ぃ」

【……ん?】


 身体に神秘を初めて取り込んだあの日。

 あの日が私の絶頂だった。

 それ以来どんな呪詛を吐かれても、どんな神秘を口にしても、あれ以上の快感は得られなかった。

 しかし世界を滅ぼすほどの力。これはーーー


「美味し……い…あ……ぁあ…ふ、ふふふ」

【……ひっ!?お、お前。何で目を輝かせているんですかぁ……!?】


 痛みはもう収まっていた。


「……それで貴方、名前は?」

【…………ちぇっ……人間に呼ばれたいちばん新しい名前だと、バンシーですよぉ】

「私はリザイア。リズでいいわ。

よろしくね、バンシー」

【うぅ……とんだ狂信者ですよぉ……契約なんて、口にしなければよかったですぅ……】


 水たまりに写った私の瞳には、鮮血のような赤が煌々と輝いていた。


♦︎♢


「っ!お姉ちゃん!!」

「あら待っててくれたの?こっちは終わったわ」


 教会に戻るとずっと待っていたのであろう

 フィーナが血相を変えて駆け寄って来た。


「大丈夫だった!?……なんかお姉ちゃん目の色が違う……?」

【おぉー!久しぶりの外ですぅ!!……でもここ、あの愚神信仰の教会じゃないですかぁ!?】


 私の胸からバンシーの声がする。それを聞いたフィーナは目をパチクリとさせて私の方を見つめた。


「ちょっとバンシー。フィーが混乱するから喋らないでちょうだい」

「えっ?えっ?お姉ちゃんから知らない人の声がする!?」

【リズの妹はあ〜んな愚神の信者なんですかぁ?

見る目ないですねぇーー!!】


「バンシー、またむにむにするわよ」


【あぁー、まぁ?僕の事も敬えば?特別に認めてやらないこともないですよぉ?】

「えっ、どういう事?お姉ちゃんこの声ってどなたの?」


 動揺を隠せないフィーナの頭を軽く撫でながら

私は口を開く。


「世界を滅ぼす神秘の声よ。何故か喋るの」

「ぇ、えええ〜〜〜!?!?」

【こういう反応がリズにも欲しかったですぅ】


 確かに私、そういうもんだと完全に受け流していたわ。

 フィーナは少し驚きすぎな気もするけれど。


「それとフィー。今ここで大事な話しをしたいから結界を張ってくれないかしら」

「え、ここで?う、うん。分かった。

ーーー【霧恵天蓋フォルカストール】」


 教会を覆うようにして美しい光の天幕が張られる。これはサンフィティーヌ神による神の威光を賜った結界だ。


「もう大丈夫だよ。それで話しって?」

「フィオ家の当主の事よ」

「……!」


 地下通路にいたガーゴイルの殆どは破壊されていた。

 おそらく先行していたお父様が砕きながら奥へと進んでいったのだろう。

 だが奥まで進んで行くとガーゴイルの残党が群れを成して通路を塞いでいた。

 しかも最奥部まで辿り着いてもお父様の姿は無く、ハーラン家の者もお父様の事を口にする事は無かった。

 ここから導かれる答えはつまり、


「お父様は亡くなったわ。次代の当主は、フィー

貴方よ」


 教会は結界と、静寂に包まれていた。

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