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第二話 お家騒動

「ガーゴイルの発生した原因はここからみたいね」


 地下には砕け散ったガーゴイルがあちらこちらに散乱していた。

 この道はサンフィティーヌ神由来の結界が幾重にも重なって塞いでいる。魔物であるガーゴイルは普通であれば通る事が出来ないハズだ。


「ともすれば、何者かの手引きでしょうね。

それも恨みによるもの」

「ご明察。さすがフィオ家の長女、リザイア殿だ」

「……黒幕の登場にしては、少し早くないかしら?

話しが早いのは私としても嬉しいのだけれど」


 気がつくと私は最奥部にまで来ていたらしい。

 目の前には礼服を来た黒髪の男が、ローブの隙間から私を睨みつけていた。

 儀式でもしていた?……いや


「あなたハーランの者でしょう。フィーを放しなさい」

「ほう。一目見ただけで俺が誰か見抜くとはな……

神託者という立場に甘んじているだけのバカな愚妹よりもよっぽど明瞭というワケだ。

ふっふっふ……ははははは!!」

「その妹に直接手を掛ける事も出来ていない貴方はピエロかしら」

「っ貴様……!誰に向かっての狼藉だと!俺はハーラン家の長男だぞ!!」

「あらそう。従者も連れずに大層なご高説ね」

「貴様の愚妹に皆やられたのだ!何とも野蛮!

後継のいない貴様らに代わり爵位を継ぎ、フィオ家を取り込むつもりが……貴様らが!神託者として生まれた貴様ら双子が俺の人生を全て狂わせたのだ!!」


 なるほどね、理由は分かった。

 ハーラン家……フィオ家から生まれた分家のその長男か。

 神託者は女性でも嫡子になれる。彼の野望に私たちが邪魔だったから暗殺を企てた感じでしょう。

 普通こう言った謀略に本人が手を下す事って無いと思うのだけれど。生真面目なのか馬鹿なのか。


「その余裕そうなツラもどこまで保てるかな?

使役魔法スレイヴァイツ】!ガーゴイルよ!

我が声に応えよ!!」

『グギギギャ!!』

『ギギギャー!!』

『カギギグギギャ!!』


 彼の呼び声に応じて唸り声が響き出した。


「使役魔法、それも自己流。ガーゴイルを操っていたのは貴方の魔法によるものだったのね。中々いい腕してるじゃない」

「え?あ、あぁ!そうだろう!!偉大なる我が魔法に震えるがいい!!」


 彼の近くの石壁からガーゴイルが生み出される。

 数にしてざっと20体程度……上限は彼の魔力が切れるまでかしら。


「本当に偉大になれたかも、それだけに残念だわ。……【雅糸マリロージュ】」


 ガーゴイルに向かって手を伸ばす。

 私の手に意識を向けたガーゴイル達が歩みを止め、魂を抜かれたように静止した。


「自壊しなさい」


 支配魔法によって使役されていたガーゴイルたちは私の一言で、ガラガラと音を立てて瓦礫へと姿を変えてゆく。


「何!?俺の魔法がーー」

「【崩影錐クライズ】」


 私の影が彼を包みこみ、バツンと左腕を食いちぎった。


「ああっぎやあぁああぁああ!?!?

ぐうあぁぐぅぅうう!!!」

「私流の使役魔法よ。貴方の魔法と違って、叫び声しか再現出来ていないけれど」

「お前っ……!」


 彼の左手を抱えた影は暗い地を這いずりながら私の足元へと混ざり合っていく。


「ん…はぁ……っ貴方とっても美味しいわ。私たちに向ける憎悪も呪いも全て一級品ね」

「あぁあ"っ……はぁ…てめぇイカれてる……俺を殺したら……この事態は"…誰が発端だと思われ"るんだろうなぁ……!?呪われだ神託者さんよぉ…」

「関係ないわ。貴方は愛する私の妹を傷つけた。お父様も……」

「まっ待でっ!!俺の"」

「貴方は私の腹の中がお似合いよ。何より、こんなご馳走逃すわけないでしょう」


 パチンと指を鳴らす。

 壁に灯っていた火は全て闇へと姿を消し、パキパキと骨の軋む音だけが五感に響く。


「……ぁ…ふふ。ご馳走さま」


 私は、禁忌を犯した。それは人としての禁忌。人を殺めた禁忌だ。


「うーん。もう少し性根が腐ってる方が私の好みかしら」


 胸からちょうど成人男性一人分の骨を吐き出す。

 骨の落ちる音は、人も獣も同じ。

 ただ人は神秘と違って骨が多いから、呑み込むのが少し大変だった。


♦︎♢


「う……ん?お姉…様?」

「おはようフィー。よく眠れたかしら」

「えっええ!?私どうしてお姉様に膝枕をされてるの!?

がっガーゴイルは!」

「フィー落ち着いて、全部片付いたわ。貴方のおかげよ」

「……よかったぁ。あの、ハーラン家のご子息様はどこに……?」

「あぁ、あの不貞腐れなら私が案内しといたわ。

今頃泣き寝入りでもしてるんじゃないかしら」

「……ありがとうお姉様」

「いいのよ。でも根本的な問題はまだ片付いて無いわ」


 最奥部の壁に張り巡らされた結界にヒビが入っている。

 どこかの馬鹿がこの騒動を焚き付けたせいで、世界を滅ぼす力を持つ神秘の封印が緩んでしまったのだ。

 最も、彼はその真意に気づいていなかったようだけど。


「フィー。結界を張り直す事って出来る?」


 そう問いかけるとフィーナは結界を一瞥し、複雑な表情を浮かべた。


「無理だと思う……。凄い複雑な結界だし。この結界と似たものを張る事は出来るけど多分時間が足りない」

「そう。フィーが無理なら誰に頼んでも無理そうね」

「……ごめんなさい」

「フィーのせいじゃないんだから、謝る必要なんてないわよ」


 それに、これはチャンスだしね。


「ねぇフィー。もし良かったらこの神秘、私に任せてもらえないかしら」

「駄目」


 即答。フィーは私の言葉の意味をすぐに汲み、その提案を断る。


「絶対駄目!お姉ちゃ…様がパンサストゥーラ神を信仰してるからってこの神秘は……」


 確かに、結界越しでも分かるほどこの神秘は異質だ。

 禁書庫に保管されていた神秘を全て足しても尚届かない程の禍々しい気配、フィーはここにいるだけでも辛いんじゃないかしら。


「こうするしか手立ては無いんでしょう。確認も取れたし、フィーはもう上に戻りなさい」

「でもお姉ち…様が」

「……お姉ちゃんでいいわよ。大丈夫、フィーは妹なんだから。面倒事はお姉ちゃんに任せとけばいいの。

焔悲哀眼アシアンサス】」


 私はヒビ割れた結界を破壊して、奥の小部屋へと進んだ。

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