第60話
これで、ナタリーとつばさをタッチしたドラゴン伊吹は七点を追加して十五点となったのに対し、つばさたちはナタリーのタッチ三点の追加の十一点で四点の差が付いたことになる。
ドラゴン伊吹は、ゴール位置を確認のために円を描きながら上昇する。
それに対して、サードリングを取れず、ゴール位置を確認することも諦めて、勢いのまま、真っ直ぐ飛んでいたつばさに対して、千尋の叱咤が飛ぶ。
「つーちゃん、諦めるな! そのまま、右に四十五度! ゴールはそっち!」
「え! わかった」
ゴールも他のリングと同じようにひとつ手前のリング通過後、ランダムに位置が確定する。
つまり、リング通過した向こう側に現れる場合もまれにある。
ゴールを諦めて減速しなかったつばさが、どの方向でも向かえるように減速したドラゴン伊吹よりも先行したのは、なんとも皮肉なことだった。
レースの魔物は風だけではない。
一言で言えば、つばさにとって運が良かった。
千尋の言葉に、力を取り戻したつばさは千尋の指示にしたがって飛ぶ。
そんな、つばさを追うドラゴン伊吹は、誰に言うでもなくつぶやいた。
「運って物はな、降ってくるのを待つんじゃないんだよ。必死にたぐり寄せて、強引につかみ取った者だけに与えられる物なんだ。良かったな、諦めの悪い嬢ちゃん」
通常であればサードリングを諦めて、ゴールを狙いにいく場面だろう。それでも最後まで諦めなかったつばさがもぎ取った運。
位置的にナタリーとモニカは戦線から外れてしまっている。
つばさ有利での一騎打ち。
「だがな、運だけで生き抜ける程、プロは甘くねえし、その運をひっくり返すために俺達は死ぬほど練習してるんだよ。虎之助、風を読み間違えるなよ」
スピード勝負。
トッププロの本気のスピードが、サードエリアに全てを賭けたゆえ、体力が落ちたつばさに迫る。
ゴールまであとわずかで、ドラゴン伊吹が追いついた。
「悪いな、嬢ちゃん。こんなところで満足してもらっちゃ、困るんでな」
サードエリアと同じようにタッチと同時につばさのフライトを妨害すべき、ドラゴン伊吹は斜め下からつばさに近づく。
インカムから、千尋の悲壮な叫び声が響く。
「つーちゃん、伊吹さんが迫ってる! 避けて!」
「頑張って、つーちゃん。あともう少しですわ!」
そして、優香子の応援の声も。
「どうにか、逃げ切れ! おまえなら行けるだろう、チビ助!」
ナタリーの叱咤激励の声が届く。
ゴール直前で、ドラゴン伊吹が追いついた。
「じゃあな。嬢ちゃん」
そう言って、ドラゴン伊吹はつばさにタッチしようとした時だった。
モニカが叫んだ。
「今よ! つばさちゃん!」
その瞬間、ドラゴン伊吹の視界から、つばさが消えた。
モニカ・クラッシュ。
ドラゴン伊吹の背中に倒立して、三点を手に入れる。それでも一点差。ゴールを取らなければ逆転無い。
つばさはドラゴン伊吹の背中を蹴るべく、足を振り下ろす。
勝った!
勝ちを確信したつばさの瞳には、夕日に染まる空がグルグルと回っている。背中を蹴ったはずの足は、何の感触もなく空を切っていたのだ。
訳の分からないつばさは背中が引っ張られる衝撃で、緊急パラシュートが開いたことを理解したのだった。
ドラゴン伊吹は、つばさが足を振り下ろすタイミングに合わせて、自分の足を勢いよく抱え込み、蹴りを避けるとともにつばさを振り落としたのだった。
そして一回転をして、フライトに戻ると、悠々とゴールに向かう。
ドラゴン伊吹がモニカ・クラッシュ対策に考え、身につけた技。
モニカ・クラッシュすかし。
それを初めて受けたつばさは、訳が分からないまま回転しながら落下していたのを、千尋が緊急パラシュートを開いた。
そして、パラシュートの下で、ドラゴン伊吹を睨んだ翼は驚いた。




