第54話
全国三位のチームに一勝でも出来れば、創部数週間にしては十分な実績のはず。さすが、千尋が立てた作戦だ。
つばさは勝利を確信した。
が、しかし、勝利を確信した瞬間。それは、一番危険な瞬間でもある。
そして、そのとおり、まるでこの瞬間を狙い澄ましたように、優香子の悲鳴にも似た声がインカムに響く。
「突風が来ます!」
「どっちから!?」
そんなつばさの問いに答えたのは、風だった。
優香子の返事を待たずして、突風が、横からつばさを叩いた。
横風に煽られて体勢を立て直そうとするつばさ。
そんなつばさに、横風を上手く捕らえて加速する風閒部長が斜め後ろから迫ってきた。
「つーちゃん、避けて!」
優香子の声が響く。
そう、タッチをされれば五対十七となり、たとえゴールリングをつばさが取っても逆転はできない。
と言って、経験に差がある風間部長とタッチで争うなんて、技術的に無理なはずだ。つまり、万事休すである。
「お願い、逃げきって!」
優香子の祈る声が漏れる。もう、こうなってはどうにかしてタッチされずに先にゴールするしかないのだ。
……いや、もう一つ手がある。
優香子は、とっさにひらめいてディスプレイを見た。
「チーちゃん、モニカさん……は、遠いですわ」
ディスプレイを見ながら、優香子は聞こえないようにつぶやく。
この場合、千尋かモニカが盾になれば、五対十五で、最悪同点となる。そうなった場合、最終ゴールを取った方の勝利になる。優香子はそう思って千尋とモニカの姿をモニターしたのだが、二人はつばさに全てを託し、タッチされないようにすでに散開しているため、間に合わない。
最後まで勝利を諦めなかった優香子も、天を仰いだ。万策尽きた。
誰もが、風閒部長の勝利を確信していた。
たった一人を除いて。
「え!」
突如、見守っていた全員の口から声が漏れる。
そして、その声の先に、信じられない光景が広がっていた。
「嘘でしょ……」
その声は、驚きの声。中でも、モニカがひときわ大きな声を上げた。
「あれは、ワタシの!」
そう叫んだモニカの視線の先、なんと、タッチに行った風閒部長の手は空を切り、代わりにその背中につばさが倒立をしていたのだ。
あの伝説のレースでモニカ。シューティングスターがタックルに来たトムをかわした、あの動きだ。
「どこだ?!」
風間部長は叫ぶも、背中にいるつばさの存在に気づかない。
それをいいことに、つばさはモニカ・シューティングスター同様に、その状態から風閒部長の背中を蹴り下ろした。
「くらえ、必殺モニカ・クラッシュ!」
そう、技の名前はモニカ・クラッシュ!
あのレースの後、マスコミが付けた名前である。
モニカ・クラッシュを喰らった風閒部長は一気に落ちると、緊急用パラシュートが開き、ゆっくりと地上に降りていった。
その間につばさは悠々とゴールしたのだった。
「やった! つーちゃん、勝った! 勝ったよ!」
オペレーターの優香子が大きく弾んだ声で騒ぎ、三人が降りてくると、涙を浮かべながら三人に走り寄っていく。
そんな優香子に、つばさは喜びを全身にまとって抱きついた。
「やったよ。ゆっこもすっごい頑張ってくれて、ありがとう!」
つばさもヘルメットを外して、二人して大喜びする。
そんな二人を見ながら、千尋は冷静にレース結果を待っていた。
風閒部長チームも降りてくると、竹本先生が先ほどのレースの結果を発表する。
「勝者は風間チーム」




