第53話
つばさは三人の先頭に立ち、最速でファーストリングを目指す。
ちなみに、三つのチェックリングを通過後、ゴールリングに向かうのが、学生フラングレースである。
その際、リーダーが各チェックリングを先に通過したチームに五ポイント与えられる。
その五ポイントを先制するために、つばさは空色のウィングスーツで空を舞う。その後ろから、千尋、モニカの順番でつばさを追う。
風閒部長のチームは、まるでファーストリングを諦めているかのように、つばさたちから遅れていた。
AR(拡張現実)で空中に浮かぶリングをつばさが通過すると、彩珠チームに五ポイントが入り、セカンドチェックリングが現れた。
フライングレースでは、ファーストリング以外の二つのチェックリングとゴールリングは事前に設置されておらず、どちらかのリーダーがチェックリングを通過すると、次のチェックリングが現れる。
そのため、つばさがファーストリングを通過直後、ナビゲーターのモニターにセカンドリングの位置が表示された。
「セカンドリングは後ろです。Uターンしてください」
「ゆっこ、どっち回りで行ったら良い?」
「え、あ、左、いや、右回りで」
ナビゲーターのもたつきが、チームのもたつきにもつながる。
ファーストリングを通過する前に、次のチェックリングの位置が分かった風閒部長チームは次を見越したルートでファーストリングを通り、つばさたちに詰め寄る。
その時、なんとかつばさを守ろうとするモニカと千尋に、王とキャンディが襲いかかった。
千尋は、キャンディがつばさにいかないように、ガードに回る。
すると、キャンディはつばさではなく、千尋の後ろに回り込むとその背中にタッチした。
「しまった」
千尋が悔やむ。
というのも、このファイトレースにおいて、もう一つ得点するチャンスが、飛行中相手に触れる、タッチというものだからだ。
そう、ファイトレースでは、手のひらで、相手の胸と背中にあるマークのどちらかにタッチをすると、ポイントが加算されるのだ。
ちなみに、同じ選手に対して、タッチはリング間で一回のみである。そのため、同じ選手をタッチできるのは最大で四回である。
また、得点は相手リーダーをタッチすると三ポイント。それ以外では一ポイントとなる。
つまりこれで、つばさが稼いだポイントが五,奪われたポイントが一。
「さすが、ですわね」
相手のプレーに優香子は感嘆のため息を漏らす。
と、その時、モニカが王からのタッチを逃れようとすると、モニカが守っていたつばさに隙が生まれた。その隙を突いて風閒部長がつばさにタッチすると、そのままの勢いでセカンドリングに向かう。
結果、現在、つばさ達が五ポイントに対し、風閒部長チームは四ポイント。レース自体は風閒部長が先行して、セカンドリングに向かっていた。
慌てて、つばさたちは風閒部長チームを追う。
スピードでは負けないはずだ。つばさの目は風間部長の姿を捉えて離れない。
しばらくして、その目にセカンドリングが見えてきた。追い上げてきているが、このままでは追いつかない。しかし、ここで諦めるわけにはいかない。
つばさがそう思ったそのとき、なんと、つばさが追い上げてきているにも関わらず、風閒部長チームはスピードを上げることなく、逆に少しスピードを落とし始めたではないか。
「いける!」
つばさは必至で追いすがった。
あと少し!あと少し!
だが、ギリギリで追いつけない。
「くそぉっ!」
つばさの目の前で、風間部長が悠然とセカンドリングをくぐった。
これで、彩珠学園が五ポイントに対し、風閒部長チームは九ポイントで、簡単に逆転されてしまった。
「はぁはぁ、ゆっこ。次のリング!!」
「ちょっと、待って……あ、えっと、そのまま、右の九十度!」
優香子の指示よりも先に、つばさの目には風閒達が移動を始めていて、その後ろを追いかける形となった。
「次を取らないと」
「つーちゃん、ちょっと待って。この区間は捨てよう。最終区間で抜いてファイナルポイントを取りに行きましょう」
先行する風閒部長を追いかけようとするつばさを千尋が止めた。
現状、五対九で次のチェックポイントを取られると五対十四になる。しかし、ファイナルでは、最後のゴールはファイナルポイントと言って十ポイントになるのだ。そのため、次を捨てて、最終ゴールを取ると逆転できる計算になる。
「ね、最後にかけてみよう!」
そう、千尋は風閒部長チームがファーストリングで行ったように、ここは後ろから様子を見て、ラストに全てを賭けようと提案しているのだった。
それに対して、いつでも全力勝負が身上のつばさが文句を言おうとする。
「でも……」
「でも、じゃない。さっきのアタックでつーちゃんの体力落ちてる。ここは回復に当てて、最終に備えるべきよ。こんな所でつまづいてる暇はないでしょう。岬君に約束したんでしょう」
「……分かった」
亡くなった弟の名前を出されては、つばさは従うしかなかった。
先ほどまでつばさが単独先行していたのを二人が追いかける形だったのを、つばさは二人の後ろについて、サードリングに向かう。
サードリングを通過する前に、ゴールリングの位置が判明する。そこに向かって、最短ルートで風閒部長チームをぶち抜くのだ。
「どこ、ゴールリング!」
その時、優香子の声がインカムから飛び込んできた。
「見つけました、ゴールリング!左後方四十度!!」
優香子の指示に全員の視線が同じ方向を向く、三人の視界にサードリングが見えた。
「つーちゃん、ゴー!」
言われてつばさは、サードリングからゴールリングまで最短のルートを取る。しかし、さすがというかなんというか、ゴールドリング発見はつばさたちが早かったはずなのに、すでに風閒部長たちもゴールリングに向かっていた。
その差は僅差。僅差でつばさが有利だ。
このまま行けば勝てる。




