第48話
その日の夕食時、千尋はチキンサラダを食べながら、つばさと優香子に提案する。
「夕飯の後にミーティングに開きましょう。このままだと、明日のレースはまずいことになるわよ」
「ひひんじゃない?」
「私も賛成ですわ」
ハンバーグを口に含んだままのつばさと、明太子スパゲティを飲み込んだ後の優香子が千尋の提案に賛成した。
千尋だけで無く、二人とも浅間山高校の実力は想像以上だと痛感している。さすがは全国三位だと。
この練習試合で実績を残さなければ部の存続が危ういことは、三人とも分かっている。シミュレーターでのつばさの結果だけで実績と呼ぶのには弱いだろう。スピードでは思った程の結果が出せなかった。明日の二種目でなんとしても結果を残さなければならない。
そんな中、千尋は二人に無情な提案をする。
「テクニカルは捨てましょう」
千尋ははっきりと言った。三種目の中で、レーサー三人の連携度が一番問われるテクニカルは、急造チームで上位を狙うのは難しいだろう。そうであれば、最後のファイトに絞って作戦を練った方が良いと考えたのだった。
千尋の言葉につばさは文句を言う。
「え! テクニカルを捨てるの? 楽しみにしてたのに」
「楽しみにしてたって、準備してないでしょう」
「チーちゃんとボクなら即興で、どうにかなると思ってたんだけどな~」
「つーちゃん、テクニカルを甘く見すぎ。他のはレース展開や、風などの要素が大きいけど、テクニカルは他からの妨害が無い上に、よほどの風でなければ影響を受けないから、練習量がもろ演技の精度に出るんだよ。だから、この合宿が終わったら、テクニカルの練習に多くを割く気だけど、今はまだその時じゃ無いの」
千尋はとりあえず、何でも簡単に考えてしまうつばさを説得するために、ゆっくりと説明する。つばさはその千尋の言葉に口を挟むことなく、じっくりと聞いたあと、口を開いた。
「ナタリーちゃんに残り二種目は勝つって宣言しちゃったけど、ちーちゃんがそう言うなら、テクニカルは捨てよう。それで、ファイトはスピードと同じメンバーで行くんでしょ」
「それしかないわよ。ゆっこはまだ、フライトできないんだから」
「ごめんなさい。私も早く皆のように飛べるように、なればいいのですが……」
優香子は申し訳ない様子でうつむいた。
シミュレーターでフライトしたとは言え、まだ実際のフライトをする資格がない。
優香子は、この大事な時に力になれない自分を恥じた。
そんな優香子をつばさと千尋は元気づける。
「大丈夫だよ、ゆっこ。今はナビゲーターとしての経験を積んで欲しいな。それは絶対にボクたちのチームの力になるから」
「そうよ。この合宿が終わったら、ゆっこにも嫌というほど飛んでもらうからね」
「分かりましたわ。明日はナビゲーターを頑張りますわ……ところで、モニカさん、遅いですわね」
夕食後にモニカは『用事がある』と言って、どこかに行ってしまった。明日の試合、千尋とつばさは長年一緒にいるため、多少のアドリブは効く。そのため今、一番打ち合わせが必要なのがモニカのはずなのだが、その当人は帰ってくる気配がなかった。
「メールはしているんだけど、返事が無いのよね」
千尋はタブレットを見ながら、ため息をついた。




