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フライング☆スカイ☆ハイ! ~フライングレースに青春をかける少女たち~  作者: 三原みぱぱ


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第37話

「……ボクには三つ下の弟がいたんです。岬って名前なんだけど。いつも出来もしないのにボクの真似ばかりして……だから、ボクも両親もいつも言っていたんです。『もう少し、大きくなったらね』って。ボクが水泳を始めたら、出来もしないのに岬もしたいって言って困らせたり、サッカーチームに入ったら、入りたいって言ったりと本当にボクの後ろばっかり付いて来ようとしたんです。それで……その弟が死んじゃったんです。交通事故で突然」


 つばさの話を桜子先生は、静かに聞いていた。一切、瞳をそらさず。

 隣にいる千尋はぎゅっとつばさの手を握っていた。つばさを励ますように。


「ボクたちは後悔したんです。なんでいつも『もう少し、大きくなったらね』て言って、岬のやりたい事をさせてあげなかったんだろうって。それからすぐにボクはサッカーを辞めちゃったんです。元々、お父さんがボクたちにサッカーをさせたかっただけで、ボクは全くやる気がなくなったんです。サッカーだけじゃなくて、何にもやる気が無くてどうしようもない日が続いていたときに、チーちゃんに言われたんです。岬の事で後悔したのなら、これから後悔しないように生きなきゃって」


 つばさは千尋の言葉で少しだけ、前を向くことが出来た。でも、その時はまだ、何が後悔しない生き方なのか分からなかった。


「そんな時に、チーちゃんがあのレースに連れて行ってくれたんです。チーちゃんと一緒に初めて見たモニカ・シューティングスターのフライングレース。その姿は、願いを叶えてくれる流れシューティングスターに見えたんです」


 千尋の手の温かさを感じながら、つばさは話を続けた。


「ボクはあのレースを見て、これだ! って思ったんです。だから、一分一秒も後悔しないようにしたいんです。あれから三年間、ボクとチーちゃんはずっと練習して来たんです。それをまた一年なんて待てないんです」


 桜子先生はつばさの話を聞くと、ひとりひとりの顔を静かに見た。

 付き合いの長い千尋は、つばさの思いを知っていたのだろう。落ち着いた顔をしていた。

 初めてこの話を聞いた優香子は驚いた顔を見せている。しかし、決してその思いを否定するような顔をしていない。

 そして、最後にモニカを見た後、桜子先生は口を開いた。


「空野はシューティングスターに憧れて、そして彼女になりたいのか?」


 つばさと千尋は顔を見合わせて、微笑み合った。桜子先生の言葉がおかしくて、たまらないように。


「ボクたちはモニカ・シューティングスターに憧れています。でも、ボクはシューティングスターを越えるんです。今はまだ、目指すべき目標ですが、抜き去る通過点なんです。ボクは日本一だけじゃなく、世界一のフライングレーサーになるんです」

「そうか、大きく出たな。それで高田も橘もそんな空野達の考えに賛同しているのか?」

「わたしは初めて聞きましたし、何が出来るか分かりませんが……目標は高い方が良いと思いますわ」


 桜子先生の問いに、優香子が先に口を開いた。

 そして、みんなの視線は興味がなさそうにしているモニカに注がれた。その顔は話を早く切り上げて、帰りたがっていた。


「ワタシはどうでも良いですヨ。練習試合までの入部ですから」


 モニカは床を見て、ぼそりとつぶやいた。

 そしてしばらく沈黙が続いた後、桜子先生が言った。


「……わかった。とりあえず、これで部員が四人そろったな。部創立の手続きはしておく。ただし、あたしから連絡があるまで、自主練でも空を飛ぶなよ」

「分かりました!!」


 一番、その約束を守りそうにないつばさが、職員室には不釣り合いな大きな声で返事をする。

 しかし、そんなつばさの大声を注意する声はどこからも聞こえてこなかった。ただ、その明るい声に、温かい視線が向けられているような、そんな雰囲気だけが、そこにはあったのだった。


~*~*~


 職員室でのつばさの告白から少したった、4月の最終日。

 金曜日の朝一番に桜子先生が教室にやってきた。


「空野、創部が認められたぞ」

「本当ですか、すごい! 桜子先生えらい!」


 ある程度予想はしていたと言っても、やっとかなった創部の知らせに、つばさは桜子先生に抱きついた。その隣で千尋も小さくガッツポーズをしている。

 しかし、桜子先生の顔は決して明るい物ではなく、まるで二日酔い明けのような顔をしていた。


「ああ、本当だ、一応な」

「何で、そんな困った顔をしているんですか? それに一応って?」

「ああ、条件付きの創部だ。その話の前に、浅間山高校から来ていた提案を受けておいたよ」


 そう言って、桜子先生はタブレットに出しているメールを見せてくれた。

 浅間山高校フライングレース部顧問竹本先生への返信メールだった。

 それを見た千尋が、驚きの声を上げる。


「先生、これって練習試合じゃなく、合宿じゃないですか」

「ああ、五月の四、五日の合同合宿のお誘いだ。当然受けておいたぞ」

「合宿!!」


 つばさと千尋は同時に叫んだ! スポ根漫画の定番! レベルアップイベント!

 二人は顔を見合わせて、思わず抱き合った。

 そして、つばさは不思議そうに言った。


「あれ? でも合宿イベントって、ライバル校に負けてから発生するんじゃない?」

「何、わけのわからないことを言っているんだ? こちらは部が出来たばかりだと話したら、向こうが合同合宿の話を持ちかけてくれたんだよ。まだまだフライングレーサー部なんて珍しいから、普及のためにも、一緒に練習をしようと言ってきてくれたんだ。ありがたいだろう」

「そうですね、でも、もしかして合宿のときに試合も?」

「もちろんだ、一石二鳥でお得だろ?」


 桜子先生は感謝しろとばかりにドヤ顔をしていた。しかし、つばさ達は喜びとともに戸惑っていた。親に話をしないといけないし、女の子である以上色々準備も必要だ、しかしなにより、モニカが、了解してくれるかが不安だったのだ。

 合宿と試合が一緒に行われるなら、合宿にモニカが参加しないということは試合ができないということ。そうなれば、部の存続は事実上消滅する。

 しかし、その不安も、桜子先生の一言ですぐに解消された。


「ちなみに、橘は参加するらしいぞ」

「え! 本当ですか?」


 その言葉に、つばさも千尋も決心した。一番、参加しなさそうなモニカが参加するというのだ。それならば、是が非でも参加する以外に選択肢はない。つばさはその場で参加することを約束した。

 しかし、不安も残っている。

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