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フライング☆スカイ☆ハイ! ~フライングレースに青春をかける少女たち~  作者: 三原みぱぱ


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第25話

 その背中を見送っているつばさを、高田部長が追いかけてきてくれた。


「森川は、ハンググライダー部を辞めるときも引き留めたんだが、なんか、飛ぶ事への情熱がなくなったみたいでな。ずっとあんな感じで、のらりくらりとはぐらかされているんだよ。まあ、機会があったら俺からも話しておいてやるから、無理強いしてやるな」


 そう言って高田部長は、つばさの頭にポンと手を置いた。

 その手は大きく、ハングライダーのバーを長く握っているためか少し固く、なんだかお父さんの手のようだと、つばさはなんとなく落ち着いた。

 そんなつばさの耳に千尋の高い声が、飛び込んだ。


「あ! なんで、わたしのつーちゃんの頭に気安く触れているんですか! 奴隷のくせに!」


 廊下に千尋の声が響く。それにつられたのか優香子も廊下に出てきた。


「お兄ちゃん、女の子の髪を勝手に触るのはマナー違反ですわよ」


 ダブルで怒られた高田部長は、つばさの頭から慌てて手を離したのだった。

 その後、結局、つばさはもちろん千尋も優香子も勧誘は上手くいかなかった。

 そうすると残りは中等部の二人だけになる。

 その二人は中等部二年と三年。

 そこで、森川勧誘に失敗した次の日、つばさ達は昼休みにそのうちの三年生の所に行ったのだが、全く駄目だった。

 そもそも、チラシを貰ったのはその人の友達で、友達のタブレットの調子が悪く、タブレットを貸しただけだったのだ。なので、念のためチラシを貰ったというその友達も勧誘してみたのだが、その子は全く空を飛ぶことに興味がなく、ただの興味本位で動画を見ただけだと言う。しかも、高所恐怖症で高いところ自体苦手なのだそうだ。

 放課後になり、つばさ達は最後の可能性を賭けて二年生の所に行くことにした。


「中さん、いますか?」

「僕だけど? 君たちは?」


 つばさたちが教室に行くと、男の子がスポーツバックを持ったまま近づいて来た。

 そのスポーツバッグを見るに、なにかスポーツをやっているようだった。


「中さんは元ハンググライダー部ですよね」

「ああ、そうだよ。ハンググライダー部に入っていたんだけど、やっぱりサッカーがやりたくなって辞めたんだ」

「え、でもサッカー部には……」

「ああ、地元のクラブなんだ」


 地元のサッカークラブか。校外のことはまったく考えてなかったな。

 つばさはがっかりしたが、その一言で明確に目的を持ってハングライダーを辞めた人だと、理解した。そんな人を無理に勧誘するわけにはいかない。誰かの夢を奪って無理矢理人数を集めるような、そんな部を作りたいわけではない。

 夢を笑われ、否定されることが多かったつばさは、人の夢は積極的に応援したい。

 だからこそ、つばさは諦めるしかなかった。


「そうですか。引き留めてごめんなさい。サッカー、頑張ってください」

「ああ、今から練習なんだ。じゃあな」


 そう言って中は教室を出て行った。

 こうして、最後の勧誘も失敗に終わり、つばさ達三人は取り残されてしまった。仕方なく、誰もいない教室に戻り、これからの事を話し合うことにしたのだ。

 つばさはため息をつくように言う。


「どうしようか、あと一人」

「そうね。今日入れてあと、十日しかないのに手詰まりね。そうだ、高田さんの知り合っていないの?」


 流石の千尋も困り果てて、高田に尋ねた。

 千尋に問いかけられて、優香子はなにやら言いにくそうな顔をしていた。

 つばさや千尋と同じように高田さんの小学校から来ている人が、少ないのだろうか。

 つばさが心配そうに見ていると、優香子はおそるおそる口を開いた。


「あ、あの~、私のことは、名前で呼んでくれないのですか?」

「へぇ!?」

「だって、おふたりはお互い呼び名で呼んでいるじゃないですか。私もそういうのに憧れているのです」


 優香子はちょっと上目遣いで、おねだりするようにキラキラした瞳でつばさたちを見つめた。

 予想外な言葉につばさは一瞬、頭がフリーズした。

 呼び名で呼び合っている?

 そう言えばそうだった。あまりに長い間、自然にそう呼び合っていたから何の疑問もなかった。つばさは優香子に指摘されて初めて自覚した。それが、優香子から見たら、仲良く見えて羨ましかったのだろう。


「高田さんの名前って優香子さんよね」


 千尋が名前を覚えていないつばさの代わりに言った。

 優香子か、女の子らしい可愛い名前だな。ボクもチーちゃんもたまに男の子に間違う名前だもんな。ボクはお父さんの仕事がパイロットと言うことと、ボクにサッカー選手になって欲しくて有名なサッカー漫画の主人公からとったって聞いた。チーちゃんの千尋はスキージャンプで千メートルも飛べるようにって名付けたらしい。だいたいスキージャンプって女子だと二百メートル行かないのに超人にでもするつもりだったのかな? まあ、どちらも女の子につける名前の由来じゃないって、昔、笑い合ったなぁ。

 そんなことを思い出しながらも、つばさは優香子のあだ名を考える。


「ゆかこなら、ゆーちゃん……なんか、違うな~」


 つばさはなんだかしっくり来なくて頭を悩ませる。

 ゆかこ、ゆかこ……。


「ゆっこ! 高田さんの呼び名はゆっこでどう?」


 つばさはふと出てきた呼び名を、二人に提案してみた。

 つばさたちの呼び名は小学生の低学年からの呼び名なので、ちょっと幼い感じがしたが、今更変えようがなかった。だから、つばさは優香子をゆーちゃんと呼ぶのはなんか違う気がしたのだった。


「ゆっこ……ですの?」


 優香子はつばさの提案に、ちょっとびっくりした顔をしていた。

 ダメだったかな? でも、そんなに呼び名を考えたことないから、これでダメだったらあとはチーちゃんに任せよう。

 つばさはビクビクしながら優香子の反応を待っていると、優香子はものすごく目を輝かせてつばさの手を取った。


「すごくいいですわ! これから私のことはゆっこって呼んでくださいませ」

「いいんじゃない? 呼びやすいし」


 千尋もすんなりと賛成する。

 ホッとしたつばさは、ふと思い出した。


「そう言えば、ゆっこ。今度の土日の自主練は大丈夫?」

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