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第2話 プロローグ2

「スゴイよ! 最後尾から一気に四位だよ」


 つばさは双眼鏡でモニカの動きを追いながら、隣の千尋の手をぎゅっと握る。

 その千尋は丸眼鏡型のディバイスと巨大ビジョンを使い分けながら、レースを観戦している。

 そんな千尋に、つばさは興奮気味に続ける。


「あと一人抜けば、総合優勝だよね」

「うん、三位以内なら優勝圏内ね。でも、ミスリングやタイム差によっては、まだ総合優勝が誰になるか分からないわよ」

「ミスリングって、選手が通過しなきゃいけないリングを通らないこと?」


 道のない大空で、レースをレースとして成立させるために必要なチェックポイント。それがドローンで浮かぶ鉄製のリングである。そのリングを通過しないことをミスリングと言う。


「そうよ。ミスリングをすれば減点だから、それによって順位が変動する場合もあるの。それに三位の李選手が、簡単に抜かせてくれるとは思えないわよ」


 千尋が言うように、李選手は身長二メートルの大きさを最大限に活かして、身体を左右に振りつつ、モニカの進路を妨害する。そうなれば、誰しもモニカは減速をして、抜くタイミングを見るものと思った。しかし、予想に反してモニカは加速をした。

 その姿に、つばさは思わず悲鳴を上げた。


「ぶつかる!」


 そのモニカの動きを見て、司会者も会場に響き渡るほどの興奮気味な声を上げる。


「おーっと、モニカ選手、タックルにいくのか~!」

「しかし、二人の体重差では弾き飛ばされるのは、モニカ選手でしょう。あっ!」

「あっ!」


 解説者と同じタイミングでつばさも声を上げた。

 なぜなら、ぶつかると思われた瞬間に、モニカの姿が消えたのだ。

 しかし、千尋は慌てずにつぶやく。


「大丈夫よ。つーちゃん、モニカは加速して、李選手の真下に潜り込んだのよ」


 モニカの動きを自動追跡するように設定していた千尋の眼鏡型ディバイスは、その動きを見逃さなかった。

 つばさも、千尋の声に言われるままに確認すると、急降下によって重力の加速を手に入れたモニカは、同じく急降下でその翼にはらんだ一杯の空気を利用してコースに復帰。そして、李選手を一気に抜き去っていった。

 その姿に、司会者と解説者も興奮気味に言葉をかわす。


「さあ、これでモニカ選手の総合優勝が、濃厚になりましたね」

「このまま、大きなミス無くゴールすれば、総合を含む三種目優勝の可能性が高いですね」

「おーっと、モニカ選手、二位の伊吹選手に迫ります。二位まで上がり、優勝を確実なものにするつもりでしょうか?」

「それは無謀ではないでしょうかね。経験豊かな伊吹選手を、そう簡単に抜けるとは思えません。この挑戦の結果によっては、モニカ選手の順位の変動もあり得ますよ。ほら、伊吹選手はチェックリングを塞ぎました」


 見れば、解説者の言う通り、登り龍を刺繍したフライングスーツの伊吹選手は、鉄製の直径三メートルのチェックリング一杯に手足を広げて通せんぼをしている。

 そんな姿につばさは憤慨の声を上げた。


「ねえ、チーちゃん、あんなのアリなの? ねえ、ズルくない?」

「ズルくないわよ。チェックリングを通らないと減点なんだから、他の選手の邪魔をして通過させないようにするなんて基本戦術よ」


 サッカーばかりしていたつばさは、フライングレースにあまり詳しくない。そのため、千尋が説明したように、わざとチェックリングを塞いで、後続の通過を阻止しようとしてもルール違反ではない。と言われても、すぐに納得はできなかった。

 しかし、実際は、逆にそのような行為で選手同士の接触や妨害、駆け引きが生まれるように、チェックリングが設けられていると言っても過言ではない。それこそが、このフライングレースのファイトという種目の醍醐味であるといえる。


「もうダメ」


 つばさはグッと目を閉じた。

 というのも、つばさには、モニカはチェックリングを外して前に出るか、伊吹をタックルで押しのけるかしか手が無いように思われたからだ。

 しかし、そうなればミスリングの減点により、総合優勝を逃す可能性がある。とはいえ、タックルに行けば、身体の小さなモニカに勝機はないだろう。


「だめよ、つーちゃん、しっかり見ていて」


 目を閉じたつばさに千尋が声をかける。

 そして、つばさは恐る恐る目を開いた。

 すると、そこには、その小さな体を逆に生かして、減速することなくほんの小さな隙間をすり抜けていく、モニカの美しい姿があった。。

 その姿を見たつばさは、目をキラキラさせながら叫んだ。


「スゴイ! 本当の鳥みたい!」

「おーっと、モニカ選手、まるでツバメのようだ~!! 身体を縮め、弾丸のように伊吹選手の脇をすり抜けていった~! 何という飛行コントロールでしょうか~」


 つばさの声をかき消すように、司会者のコメントが悲鳴のように響く。

 大ビジョンにはスロー映像が映し出され、モニカとリングとの隙間は一センチもないことが説明される。そんな危険なフライトを時速二百キロメートル以上で行っているのだ。会場は興奮の嵐が巻き起こる。

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