第13話
「え!? だって、部活創立には顧問の先生と二名以上の部員がいれば成立するはずですよね。桜子先生」
部の創立の条件は、すでに入学が決まった時点で千尋と一緒に確認をしている。自由な部活動を校風に掲げている彩珠学園の校風を繁栄するように、部活創立に関する条件はゆるかった。顧問一名、部員二名以上。それ以上の条件は特になかった。
それには桜子先生も太鼓判を押してくれる。
「ああ、部の創立条件は満たしているぞ。ただ、なぁ高田」
「はい、これは部の創立の話じゃなくて、大会の参加人数の話だよ。昨日の夜、学生フライングレースについて調べたんだが、大会に参加するのには最低四名必要だろう」
高田部長は昨日の夜にわざわざ、学生フライングレースの事を調べてくれたのだろう。自分に関係ないことなのにそんな事をしてくれるとは、やはり高田部長は真面目で律儀な性格なんだろう。
そんな高田部長は心配そうに、つばさに訊ねた。
「お前たち、参加資格はちゃんと調べたのか?」
「ああ、知ってるよ。いま、ボクとチーちゃんの二人だけど、部が出来さえすれば、あと二人ぐらい、すぐだよ。だって、フライングレースって、あんなに人気じゃない。みんな、フライングレースをしたいにちがいないじゃない」
そう、部がないから部員が入らない。フライングレースをしたいのに部が無くてあきらめた人だっているはずだ。だから、まずは創部をする。それがつばさと千尋がスタートラインだった。
だから、千尋も慌てることなく、高田部長に言った。
「ハンググライダー部が盛んな学校だから、フライングレースに興味はある人だって多いでしょう。明日から部員捜しを始めますよ。本当は賭けに負けた高田部長が入ってくれると、あと一人なんですけどね」
「……うっ、すまん」
「もう、チーちゃん。その話はおしまい」
つばさはまだまだ問題が山積みなフライングレース部のこれからのことを考えていた。
まずは、創部したことをみんなに知らせないといけないし、練習場所も考えないと……
そんなことをつばさがとりとめなく考えていると、千尋はある画面を出して桜子先生に見せていた。見れば、どうやらそれは部活勧誘のチラシで、そこにはすでに顧問の名前と部長の名前が入っていた。
桜子先生とつばさの名前が、だ。
それを見て、つばさは不満の声を上げる。
「部長はチーちゃんがやってよ。ボクは部長って柄じゃないよ」
「実務はわたしがするから、部の顔役はつーちゃんがやるんだよ」
「え、やだよ。ボクは飛びたいだけなのに」
「や・る・ん・だ・よ」
千尋の顔の表面には、笑顔が張り付いていた。
こういうときの千尋は絶対に折れないと知っているつばさは、諦めるしかなかった。
「わかったよ。でも、本当に名前だけだからね」
部活勧誘のチラシも決まったあと、桜子先生と高田部長が帰っていった。
その後、つばさの検査結果も出て、無事に退院し、その帰宅の途中につばさはふと千尋に確認したい事があった。
「ところでチーちゃん。遭難した子が高田部長の妹なのは、偶然だよね」
「そりゃそうよ。まさか、わたしが仕掛けたなんて思ってないでしょうね。まさか~、わたしは魔女じゃないんだよ。ふふふ」
そう言って眼鏡の奥で笑う姿は、小説に出てきそうな妖艶な魔女の笑みそのものである。
やっぱり、千尋だけは逆らっちゃいけないと、つばさは再確認したのだった。




