終章
夏休みは終わっても、僕らの日常は続く。
その日常にどんな変化があるのか。それが重要だ。
新学期の始めはいつだって、気怠さと不安に苛まれる。
けれど、そこに変化が少しでもあれば、期待と希望を抱けることもある。
昭雄とはあれからも親友として、学校生活と放課後の時間を共に過ごしてきた。
たまに狩野川付近に釣りに行ったり、あいつのバスケの練習に付き合ったり、どちらかの家でゲームをしたり。そんな変わらない関係が続いていた。
ちなみに、夏休みが終わる前くらいに、冴島がゲームセンターの件で僕に謝りに来た。
どうやら、昭雄は冴島との関係を修復しようと動いていたらしく、彼も昭雄の言葉に少しずつだが動かされるものがあったらしい。
氷のように頑なだった彼の心も溶け始めているが、長い時間にできた溝は早々埋まらない。
時間は必要だろうけれど、きっとうまく収まるような気がしている。
美咲とは、お互いの気持ちを改めて打ち明けて、僕らはれっきとした恋人同士になった。
とはいえ、肩書が恋人となっただけで、一緒にいる時間はそこまで大きく変化はない。
ただ、二人きりになる時間は増えたと思う。昭雄も真白も、変に僕らに気を使って、二人きりにさせてくれる。
キスをしたのかとか、その先のことはしたのか、なんて、ここでは話すつもりはない。
まあ、うまくやっていると思う。
特に大きな変化があったのは、やはり真白だった。
あれから、僕らと一緒に行動することが増えて、少しずつ他のクラスメイトとも打ち解けられるようになった。
上野たちは相変わらず真白の陰口を叩いているようだが、クラスメイトたちはそんな上野たちに冷めた態度を見せるようになった。
クラスでもそれなりの立ち位置にいる僕らと一緒にいるというだけで、真白の株も上がったのかもしれない。でもそれ以上に、真白がよく笑うようになったからだろう。
彼女はマスクを外す事が増えて、僕らにその笑顔を晒した。
これまでの冷たい雰囲気から、垢抜けたように笑うことが増えたのだから、クラスメイトとしても無視できないし、笑顔が多い人には近寄りやすくなる。
そんな彼女が笑顔を増やしたのも、昭雄と一緒にいる時間が多くなった、からかもしれない。
僕のことについてだが、祖父との関係は少しずつ良くなっていると感じている。
たまに怒られることはあるけれど、以前よりも会話する時間は増えたと思う。
安住さんと真白の件が、祖父にどういう心境の変化を与えたのかはわからないけれど、祖父としても僕との溝を少しでも埋めたいと思っていることがわかった。
霊視については、あれからたまに霊を目視することは増えたものの、今のところ身近な人に関わる霊とは出くわしていない。
他の人には僕の力のことは話してもいないから、この力を使うことはもうないと思う。
その方がいいかもしれない。ただ、もったいないと思うことは増えた。
兄の死があってから、力を忌み嫌っていたのに、この夏を経て、心境に少しだけ変化が出てしまった。
この力を使って商売をすることは考えていない。誰かに敢えて話すつもりもない。でも、なんだかもどかしさもあったりして、少し厄介だと感じている。
まだ自分が何をしたいのかはわからないけれど、もしかしたらこの力がまた役に立つ日が来るかもしれない。それくらいの心構えは持つようにしている。
それらが僕らに起こった変化だ。変化といっても大小様々だし、これからその変化が、さらにどんな形に変わっていくのか。
夏休みが終わると、いつも切ない気分になるのに、今年の夏休みだけは違っていた。
夏が終わって、これから何が始まるのか。少し楽しみで仕方がない。
完