両想いだと思っていた女友達が実は俺の親友のことが好きだったと知ってショックを受けた日から今までツンツンだった幼馴染が急にデレデレになった
俺には最近仲の良い女友達がいる。
同じクラスの曽根 由花だ。
「春吉くん、おはよ」
「おはよう、由花」
「もしかして春吉くん、髪切った? その......か、かっこいいね」
「え? ありがとう」
「あ、そういえばこの前ね......」
顔もタイプ、性格もいいし、由花とはよく気が合う。
俺はそんな彼女に好意を抱いていた。
そして彼女も同じ思いだと信じて疑わなかった。
呼ぶ時だって下の名前呼びだし、バレンタインでは手作りの凝ったチョコをもらった。
2人きりでデートだってした。思わせぶりなことだって言ってくる。
しかし現実は無情である。相手の心の内なんて誰にもわからないのだ。
「篠宮くんってかっこいいよね。やっぱり好き。もうちょっと距離縮めたいな」
「......告るなら......早いうちにした方がいいかもよ?」
篠宮 悠木、俺の1番の親友であり由花の想い人。
由花は俺ではなくて俺の親友に恋している。
胸が苦しい。
「ちょっとトイレ行ってくる」
「あー、うん」
自然と進む足が速くなる。
三角関係......ここまでも胸が締め付けられるのか。
由花が悠木のことを好きだと俺が知ったのはつい最近だった。
***
よし、今日は大切な日。人生の勝負時。
今日は由花へ告白をする日である。
プランはありきたりだが、放課後の校舎裏に誘ってそこで告白。
はぁ、と一息つき、俺は横で一緒に次の移動教室先まで歩いている由花に話しかけた。
「あのさ......」
「あのね......」
偶然にも言葉を発するタイミングが被ってしまった。
多分校舎裏に誘ったらその時から放課後まで気まずくなると思うので、先に由花の話を聞こう。
「あ、先どうぞ」
「えっと、あのね、実はね......私、篠宮くんのこと好きなんだ」
「......え?」
由花は少し前を歩いている悠木の後ろ姿を見ながら言った。
彼女から発せられたのは予想もしていない言葉だった。
......え、悠木が好き?
え、俺じゃ......なくて?
胸から熱いものが込み上げてきそうだ。
この時点で計画は破綻である。告白したところで意味をなさない。
喉元まで出かかっていた言葉が一気に引っ込んだ。
「そ、そうなんだ」
「それでね、紹介してくれないかな? 春吉くんって篠宮くんと仲いいじゃん?」
俺はその言葉を聞いてすぐに悟った。由花は悠木と仲良くなるために俺に近づいたのだ。
......全部嘘、俺の思い違いだったのかよ。
「え、あ、うん、全然いいよ」
「本当!? ありがと! いつかお礼するから!」
「......うん、友人の恋は応援したいし」
きっと両想い。告白だって成功する。
そう思っていた。
でも違った。
現実は告白さえできずに恋は儚く散った。
「春吉、一緒に飯食おうぜ」
俺の事情も知らずにいつも通り悠木は飯に誘ってくる。
「う、うん......あ、えっと、やっぱり1人で食べる」
「えー、なんだよ。最近のお前おかしいぞ? 大丈夫か? 悩みがあったら相談に......」
「......ごめん、放っておいてくれないか?」
「......そうか。すまん。いつでも相談に乗ってやるから、そう1人で抱えるなよ」
悠木に当たることじゃないっていうのはわかっている。悠木とは親友として仲良くしたい。
でもお前の顔を見るたびに嫉妬で胸が苦しくなるんだ。どうして俺じゃなかったんだって。
だから俺は悠木としばらく距離を置くことにした。当たらないために。
***
「あんた、今日一緒に帰れる?」
「え......俺?」
「あんた以外に誰がいんのよ」
そう言っているのは俺の幼馴染の白鳥 美沙希。
幼稚園の頃からずっと一緒である。
最近距離は離れていたが。というか一方的に嫌われていたが。
話しかければ普通に無視されるし、やっとのことで聞いてくれても「あー、そう」と淡々とした会話になる。
昔みたいに仲良くしたいのだが、どういうわけか嫌われているらしい。
なのでこうして美沙希自ら一緒に帰ろうという誘いが来たのは久しぶりだった。
昔はよく一緒に帰っていたが、まあお年頃なのでそれもなかった訳である。
「ちなみに言っとくけどあんたに拒否権なし」
「......いやまあいいけど」
***
「最近暗い顔してるけど大丈夫?」
「もしかして心配して誘ってくれた......?」
「い、いや、そんなんじゃないし、べ、別に最近のあんたの様子がおかしかったから慰めてあげようとか思ってないし」
いちいち反応がわかりやすい。
......なんだろう。はぁ、ずっと気が抜けた感じだ。
この際話してみようかな。
「恋の悩み?」
「......ご察しの通りです、はい」
「ふーん、そう、あ、ちょっと自販機寄ってっていい?」
「どうぞ」
美沙希は自販機で何故かジュースを2本買った。
そして俺に1本を投げて渡した。
「ほい」
「うおっと......」
「ナイスキャッチ、ちょっと公園で話しよ。時間あるでしょ?」
俺はこの際なので公園へ行き、全部話すことにした。
なんだかんだ言って美沙希は結構人のことを見ているので、こうして心配して気にかけてくれるのは嬉しい。
普段もこんな感じに優しくしてくれたらいいのだが。謎である。
***
「それでそんな暗い顔してんの?」
「......はい」
「なるほどね。私から見ても両想いだって思ってたし、いつか付き合うんだろうなとか思ってたけど......女って怖いわね。って女の私が言っとくわ」
はぁ、と俺はため息をこぼした。
それを見た美沙希は俺の頭を叩いた。
「いてっ......何して......」
「でもあんたくよくよしすぎ、いつまで引きずってんの? ばっかじゃないの?」
美沙希はそう言って俺の悩みを一蹴した。
「次の相手探せばいいじゃない。その子が親友のこと好きだから何? そんな腹黒い女と付き合わなくて良かったって思っときなさいよ」
もう一回頭を叩かれた。
そして何故か撫でられた。
「(私も気持ちはわかるわよ)」
「え? なんて?」
「あ、いや別に何も」
結構あっさりと一蹴された。でもそのおかげで俺の心は少し軽くなった。
いやまあそうか。いつもまでもくよくよしていてもしょうがないか。
ていうか別にフラれたって訳じゃないし。そこまでダメージは大きくない。
そりゃあ精神的ダメージは大きいけど。
「なんかありがとうな。元気出たわ。やっぱり長年一緒にいるだけあるな」
「当たり前でしょ。あ、あんたのこと一番知ってるのは私なんだから」
***
「はーる! 一緒に帰ろ!」
美沙希が後ろから俺を驚かすように肩を掴んだ。
あれから結構な日にちが経った。
それからというもの流石に由花とは距離を取り、美沙希との距離がまた元に戻った。
悠木との関係も変わることはなかった。
あの頃のような由花への熱は冷めていた。何故あんなに熱中していたのだろう。
「そういえば何で前はあんなに冷たかったか聞いてもいいか?」
「んー、内緒」
「俺なんかした?」
「うん、したわよ。私に大いに迷惑をかけたわよ。まったく......」
「迷惑?」
「(私を嫉妬させた罪)」
そう言って美沙希はニコッと笑った。急に来るから心臓に悪い。
時々美沙希は聞こえるか聞こえないかのラインで小声でデレてくるようになった。
笑顔もセットで。
俺がそれに心動かされてしまっていることは黙っておこう。
「あの、聞こえてますけど」
「うん、知ってる」
しかも本人は何かありましたか? とでも言いたげな何食わぬ顔をしている。
大有りだよ大有り。こっちの心臓のことも考えてくれ。
おそらく俺がそういう思わせぶりなことを言われて騙された経験をおちょくっているのだろう。
「あのな、そういうの好きな人にやった方がいいぞ」
「好きな人だからやってる」
「なっ......え、ガチ?」
「嘘」
「流石にな」
「やっぱり本当」
「え!?」
「ぷはっ......さ、さあどっちでしょう。ていうかいちいち反応しすぎ」
案外俺って騙されやすいのだろうか。というか単純?
幼馴染にこうしていいように手のひらでくるくると遊ばれている。
振り回されっぱなしだ。デレ系統の小悪魔かよ。
美沙希はそんな俺を見て笑っている。完全にモテ遊ばれてるな。これ。
これは仕返ししなければ気が済まない。うん。
俺は美沙希の横腹を軽く摘んだ。
「ふえっ......!?」
そしてモミモミとやっていく。長年一緒に過ごしてきたのだ。
弱点スポットくらいわかる。
「ふはっ、ちょっ、あはは、やめっ......うっ」
やっぱりここが弱い。うん、これからデレられたらこれやろう。
「ちょ、ちょっと何するのよ」
「え、デレられたから仕返しにと思いまして」
「うぬぬ......」
ああ、そうだ。こちら側からもデレてみようか。
「(まあデレるところも可愛いから良いんだけど)」
「......ふえ!? 今、か、可愛いって言った?」
「ああ、言ったな」
「は、はるの、ば、ばかー! そういうの好きな人に言いなさいよ」
「好きな人だからセーフ」
「私のセリフパクってんじゃないわよ!」
こういう反応を見ると本当可愛いなと思う。
可愛いと思っているのは本心なのだ。
美沙希といると安心できるし楽しいし俺をたまに気遣ってくれて......おっちょこちょいな部分もあってツン要素もあるけどたまにデレてきて可愛いし、もっと一緒にいてほしいなって思えて、美沙希のことを考えると胸が熱くなって......。
って、あれ? これの感情ってもしかして......。
「どうしたの?」
「え、あー、いや何でもない」
「あ、私のこと考えてたでしょ?」
「うんまあ考えてたな」
「は、はあ!? え、ちょっ、ばっかじゃないの!? 嘘でしょ!?」
「自分で質問しておいて返り討ちにされてますがな」
美沙希は顔を赤くした。
......もうすぐこの時も終わりか
目の前のT字路で美沙希との会話も一旦は終了。
明日も会えるけど......な。
しかし美沙希は足を止めた。
「ねえ、そういえばもうすぐ誕生日だったよね。誕生日何がほしい?」
「え、ああ、そういえばそうだったな。え、くれるのか?」
「もちろん」
「何でも?」
「高すぎるやつは無理だけど基本何でも。この前の私の誕生日でちょっと高いのくれたでしょ? だからお返しに」
「なるほど」
さて、何にしようか。買ってくれるとなればありがたい。
貰える物は何でも嬉しいが、選択制となるとほしいものがない。
お任せでって言ってもいいけど......。
ん、あっ、そうだ。冗談半分である。だけどくれたら嬉しいモノ。
「......じゃあ、美沙希が欲しい」
「え、わ、私が欲しい? それってどういう......」
「美沙希の彼氏の座を俺にくれ」
さらっと言ったが俺は今とんでも発言をした。
告白と何ら変わりない。
しかしいつも通り軽く受け流されるだろうと思っていた。
たが、違った。
「......いいよ。あげる」
美沙希は気恥ずかしそうにしながらもニコッと笑った。
「自分で言ったんだから、ちゃんとプレゼント受け取ってよね?」
最後まで読んでいただきありがとうございました。