とある生徒の、普通とは少し違った日常。 1-18
「な、なんだよ、それ」
目の前で繰り広げられているのは一方的な蹂躙。
魔法で強化されているはずの同級生達が、まるで赤子のようにあしらわれている。
魔法を使おうとした瞬間、詠唱をする前に距離を詰められ、首を掴まれて地面に叩きつけられる。
強化も何もされていない純粋で圧倒的な暴力。
「やべぇ……やばいやばいやばすぎる!」
「あいつ化け物だ! 俺たちの常識が通じねぇ!」
「止まるな! 殺される!」
「おいっ! あいつを見捨てるのか!?」
「お前だって逃げてるだろうが!」
次々と脱落していく中、俺と数人が何とか持ち堪えている。
「くそ、くそくそくそ!」
必死になって魔法を唱えるも、発動するより前に魔法がかき消される。
「なんなんだよこれ!」
足止めにもならない。
魔法が使えない俺らじゃあいつに勝てない。
「先生! あいつ強すぎます!このままじゃ殺される!」
先生ならあいつを止められるはず。
「いや、なんで? 体力作りに走れっていったでしょ?」
「先生!?」
「あいつ、魔法をかき消すんです! 俺らじゃ太刀打ちできません!」
「いやだから、なんで戦ってるの? 真面目に走れば襲ってこないでしょう?」
「は?」
先生の言葉の意味が分からない。
「先生、冗談言ってる場合じゃ」
「現に真面目に走っている子は襲っていないでしょう?足を止めて攻撃してくるんだからそりゃぁ襲われるよ、それが役割だから」
「そんな……」
「ほら、走って」
そう言われても信じられない。
あんな化け物にかなうわけがない。
「ぐっ」
背後で悲鳴が聞こえた。
振り向くと一人のクラスメイトの首根っこを掴み、もう片方の手で拳を作っているのが見えた。
「ひっ」
「うわぁああ!!」
「来るな! 来ないでくれ!!」
恐怖に駆られた仲間が走り出す。
その背中を追う気配はない。
「ほら、君も行かないと」
「う、うぁあ」
俺は、動けなかった。
「そう、じゃぁ仕方ないね」
その声を最後に、意識を失った。
次に目を覚ました時は救護室で、Eクラス落ちだという通知が枕元に置いてあった。
もう、留学を切り上げて帰国したい。
けれど貴族としての矜持と、送り出した家族がそれを許さないだろう。
ここで生き延びるしかない。
この、権力も何も通じない異国で。