とある生徒の、普通とは少し違った日常。 1-17
魔法の授業の後は武術の授業、今日は体術。
この国ではとりあえず何でもやってみる方向性なのだろうか、幅が広すぎて魔力も体力も追い付かない。
ただクラスメイトは「俺は魔法剣を習得してみせる!」ととても張り切っている。
魔法と剣術の融合はロマンだよね。でも授業内容は体術だけど。
僕も魔法は頑張っているんだけど、どうしてもクリーンが上手くならない。
先生にコツを聞いてみたら、先生の答えはシンプルに「慣れるしかないですね」だった。
「体術の担当誰だっけ」
「ラグだけは嫌だ」
「生徒が担任とか意味が分からん、ポーションで治せるからとかそういう問題じゃない」
「あいつに捕まったら地獄を見る」
「俺らの年齢で対等に行けるのってエースぐらいじゃないか?」
「さすがエース、今度から英雄って呼ぶか」
ラグ君の実力を知っている人たちは震え上がっている。
理不尽なまでの強さ、正直人間の域を超えている……人間じゃなくて邪神だった。
「さて、今日の訓練は模擬戦だ。相手はくじ引きで決めるぞ」
先生が箱を取り出した。
悲鳴を上げる生徒を無視してルール説明を続ける武術の担当。
「当たりを引いた奴はラグの相手だ」
「横暴だ!」
「体力も基礎も出来てないのになんで模擬戦!?」
抗議の声が上がる中、先生が笑顔で答える。
「安心しろ、模擬戦するのはうちの国民だけだから、他国から来た連中はどうすっかなー、時間いっぱい走らせとくか?」
サラッと恐ろしいことを言う鬼がいる。
無理です、そんな長時間走れない、皆と同じ授業内容がいいです。
先生の言葉に一部の生徒たちの顔が絶望に染まる。
「先生、走らせるのはよその国から来た貴族だけにしようぜ」
「そうそう、普通に溶け込もうと努力している奴もいるんだからさ」
「相手をするの諦めるのちょっと早いです」
クラスメイトだけでなく、合同授業の生徒もそうだそうだと抗議してくれている。
うぅありがたい。
貴族と走るなんて絶対に嫌だったんだ!
「お前らは優しいな、よし、そいつらも入れてやる」
「ほらこっち!」
「うわーんありがとー」
「先生の気が変わらないうちに!!」
死にそうな顔をしていた生徒が涙目で仲間と合流している。
当然僕もいつものメンバーと合流した。
「おい待て、おかしい、エースがいないぞ!」
「ラグもいない、さぼるような奴じゃないし、どこに」
「あ、あーー!!」
悲鳴を上げた生徒が何かを見つけて悲鳴を上げた。
その視線の先にいたのは口が裂けるほど大きな欠伸をするラグ君と、孤児院のエースと皆に呼ばれているモテモテ君だった。
「あー……お前らのエースだが、成績が良いのでSクラス行きを打診したんだが断られた!才能を放置しておくのはもったいないと教師陣の間で話し合いが行われた結果、こいつには魔法や武術など、授業内容によっては教師の助手を務めてもらう事が決定した!」
エース君凄い。
またモテモテ度が爆上がりしちゃうね。
「じゃぁ始めるか」
先生の合図と同時にラグ君が消えた。
「ぎゃぁああああ!!!!」
直後、輪の中に入っていなかった男子生徒の腕が、消えた?
「ほら、組手しない連中は早く走り始めろ、遅れるとラグに食われるぞ」
「ひぃぃ!!」
「やだ、助けて!!」
泣きながら走り出す貴族子息達、それを牙をガチガチ鳴らしながら追いかけるラグ君。
「先生ポーション」
「おう」
流れる血に動揺して固まっていたら、エース君が先生からポーションを受け取って腕を食われた子にかけていた。
そして何事もなかったかのように生える腕。
え、ポーションにそんな作用あったっけ?
どれだけランク強いんだろう。
「そんじゃ改めて始めるか、みんな並べー」
こうして恐怖の武術の授業が始まったのだった。