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とある生徒の、普通とは少し違った日常。 1-8


 その後しばらくして学園中に広まった噂によると、その少年が纏うオーラは禍々しく、見るだけで寿命が減るだとか、近づくと血まみれになる、目が合うと石になる、呪い殺される等々……。


「とにかく良くない話ばかりだねぇ」

「邪神に関する良い話があったらそっちがビックリする」

「禍々しい?」

「俺……入学してから鼻提灯か食堂のおばちゃんを口説いている姿しか見てない」

「食べる速度速すぎて見えないもんな」

「おばちゃん達は眼福だとか寿命が延びるとか言ってるけど……」

「近づくと血まみれはあれだろ、粛清中に通りがかった一般人のただの感想」


 そもそも目が合って石になるなら、今頃クラス全員が石になっていると思う。

 

「呪い殺されそうというのは……」

「何か相当悪いことしたんじゃねぇの?」

「やっぱりそうだよねぇ、普通に悪いことしただけなら食われて終わりだもん」


 基準が分からないのは僕がこの国の人間じゃないからだろうか。

 ん?

 つまり噂を流したのは僕みたいな他の国から来た人間ってことか、元々この国に住んでいる人間からすればただの日常みたいだし。

 うーん、まぁいっか、気にしないでおこう。


「さぁ諸君!いよいよ実習の時間だ!!気合を入れていくぞ!!」

「おぉー!!」

「まず最初は、ワクワクドキドキ、学園外で採取!!」

「ぼ、僕採取初めて」

「薬草採れるかな」

「薬草か……あれって孤児院が独占してるから冒険者ですら手が出せないんだろ」


 外から持ち込んだ価値観がここでは通用しない事が多々ある。

 孤児院もその一つ。

 どうやらこの国の孤児院は国営されているだけでなく、ポーション市場を独占しているらしい。

 森で採取したものだけでなく、孤児院で薬草を栽培、ポーションも子供達が作っていると聞いた。

 あと国外からきた貴族が慈善事業だと驕って孤児院に行った場合、運用できる全財産を奪われる勢いだという話も聞いた。

 さすがに誇張しすぎだと思っていたけれど、邪神が日常にいるような国だし、ありえそうなんだよね。


 そんな事を考えながら先生の引率の元、外の森へと向かうことになった。

 ちなみに移動は馬車。

 勝手な行動をして迷惑をかけたり遭難した場合、すぐに助けてはもらえるけど鬼の形相をした教師に滅茶苦茶怒られるらしい。

 気を付けよう。


 学園を出てから30分ほど、目の前に広がるのはのどかな草原。

 もふもふの羊が群れをなして草を食べたり眠ったりしている。


「えーそれでは本日のミッションを説明する。採取目標は麦だ。相手はああ見えて魔物だからな、乱暴に扱うと怪我じゃすまされない、あくまで優しく、ふわっとした感じに撫でるように採取するのがコツだ」


 ……薬草でも何かの実でもなく、麦の採取?

 しかも畑から収穫するんじゃなくて魔物から採取って??

 麦と言えば大体パンや麺類に使われる小麦だよね?

 それを魔物から集めてくる?

 謎は深まるばかり。


「うむ、まずは誰かやったことある奴はいるか? 手本を見せてくれ!」

「普通は先生が手本を見せる場面だと思います」

「俺は下手すぎて嫌われてるんだ! 確か孤児院の奴がいただろう、頼むわ!!」

「はい」


 指名されたのは一緒に食堂に行く仲間の一人、筋肉ムキムキな上に僕らのクラスで一番背が高い。

 よく見たら装備がすでに違っていた。

 革のジャケットに手袋、腰にはブラシとハサミ、なんの職人だろうか。


 とりあえず見ていると、彼は羊の群れに近付いて行き、一番手前にいた個体に何かを渡して、次に優しい動きで毛並みをブラッシングし始めた。

 流れるような手つきのブラッシング、同時にハサミを動かして羊の毛をカットしている。


「ありゃぁだめだな」


 ボソリと教師が呟いた。


「匠すぎて素人に真似できん、お前ら、ブラシとハサミ同時にいけるか?」

「ちょっと……」

「ブラシは得意ですけど、ハサミは無理かな」

「自分の手を切りそうです」

「先生、終わりました」

「マジかよ」


 指名された子が腕いっぱいの麦の穂を抱えて戻ってきた。

 え、もう終わったの?

 早くない??


「はっや! 何だその速さ、まだ開始5分経ってねーぞ」

「慣れればこんなものです」

「腕前が神がかってて誰も真似出来ねぇぞ、どうすんだ」

「僕に言われましても」

「せんせー、屋台のおっちゃんスカウトしてきました。あと授業料は麦でいいそうです」

「……俺の立場」

「形無しですね、じゃあお願いします」

「おう!」


 呼ばれた屋台のおっちゃんはかなり体格が良くて顔も厳つかった。

 なのに教え方も指導方法も素晴らしく、もたついて魔物に嫌がられそうになった生徒のフォローもしてくれた。


「先生、適材適所、ですよ」

「おう」


 ちなみに先生は近付こうとした時点で威嚇され、ちょっと可哀想でした。


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