とある生徒の、普通とは少し違った日常。 1-1
この大陸には、身分の関係なく入れる学園がある。
ただし身分は関係なくても入学資格を得られるのはその国の国民だけ、他国の人間がどれだけ脅そうが金を積もうが入学を許されることはなかった。
その噂の学園が数年前から他国に対し門戸を開いた。
話を聞いた各国の王侯貴族は次々と入学を申し込んだという。
きっと平民には関係のない話だろうと思っていた。
それでも、一匙の奇跡にすがって入学を申し込んだら受かってしまった。
手には合格通知が書かれた上質な紙。
兄や両親は食い扶持が一人減ることを喜ぶ半面、入学にかかる費用を負担することを酷く嫌った。
「お前みたいな穀潰しが通ったところで無駄になるだけだ」
僕だってこの家にいたいわけではない。
だから僕はこっそり家を飛び出したのだ。
金も持たず、向かった先は町にある小さな教会、学園に通う道を示してくれた場所。
「おやおや追い出されてしまいましたか、それも仕方ない事です。家族のことはすっぱり忘れ、学園で新たな縁を結びなさい」
穏やかな笑顔で家族を捨てろと言い切る司祭様、これでも町の人からの信頼は厚く、様々な相談に乗ったりもしている。
そして僕が捨てられたこともあっさり見抜き、捨てられたのではなく、捨てたのだと言い換えた。
「さて、それではもうさっさと学園に向かった方がいいでしょう」
「……でもお金がありません」
「学園がある都市に向かう冒険者がいるので、彼らのグループに同行させてもらえるよう手配済みです。彼らはかの国出身、学園につくまでたくさん話を聞くといいでしょう」
「……どうしてそこまでしてくれるんです?」
「優秀な人材を母国にもたらすためですよ」
司祭様に背中を押され、僕は新しい人生へと歩み始めた。
道中聞いた話ではその国出身の人は皆優秀だという、身分に関係なく誰もが学べるのは真実だが、逆に言えば嫌がっても通わされるということ。
義務教育と呼ばれる制度、国民の識字率は100%。
「それだけじゃねぇぜ」
リーダーと呼ばれる男がニヤリと笑う。
「他国の人間こそ学費はかかるが――」
「自国民なら学費は無料!」
「食費無料!」
「それを知らずに高級定食頼んでドヤ顔する貴族いるかと思うと笑える」
学生生活の中で狙うべきは日替わりスペシャル定食。
一日限定十食しかないという。
「限られた学生時代にしか食べれない幻の定食」
「大人になったら二度と味わえない」
「ロマンっす」
「席は入り口に近い一番後ろの席、授業終了とともにダッシュを決め、トップスピードで食堂に行けば食べれるはず!」
学園のことは確かに話してくれた。
ただしほぼ学食についての熱い思いばかりだった。
学業は?
だが僕は本当に運が良い。
こうして僕は憧れていた学園生活を手に入れたのだ。
学園に到着した僕は、まず初めに冒険者たちによって職員室に連れていかれた。
そこで担任となる先生に挨拶、冒険者たちは先生から任務完了のサインと食堂利用券を受け取ってそこで別れた。
「食堂利用券……?」
「ああ、あれね、学生時代を懐かしむ連中の声に応えて理事長が作った制度だよ。学園に関する事を一つ解決すると一枚」
「そんなものがあるんだ……」
「外には同等に美味い物があるんだけどね、学生気分を味わいたい連中に大人気なんだよ」
有効期限なし、人数制限無し、ただし一度に使えるのは一回のみ、使う時は注文時に見せればいいらしい。
「まあ、入学式までまだ日付もあるし、校内を見て回るといいよ。その前に一度寮に荷物を置いてくること」
「はい!ありがとうございました!」