神子を召喚した。国が無くなった。 1-2
「……おいっ! どうなっている!」
スベンは執務室で苛立ちの声を上げた。
彼が怒りをぶつけているのは目の前にいる男――
雇った冒険者に少年を預けるため、ギルドに送り届けた侍従。
「あの子供を冒険者に奪われたとはどういうことだ!!」
厄介ごとだと悟られないため、最後まで気を抜かずに少年を丁寧に扱うよう指示してあった。
なのに少年をギルドに連れていき、受付を通して冒険者を紹介された瞬間、冒険者に襲われて昏倒させられ、縛られて裏通りに捨てられていたらしい。
そのせいで報告が遅れ、宰相の元に戻ってきて報告し、兵を差し向けた時には冒険者どころかギルドは空、追加の報告で教会からも人が消えたと知らされた。
「申し訳ございません。現在調査中ですが、どうやら教会とギルドは繋がっていたようです」
「……」
宰相は歯ぎしりしながら考える。
教会が敵ということは民に真実が伝わってしまう可能性が高い。
そうなれば国民からの反発は免れない。
だが、このまま手をこまねいているわけにもいかない。
「至急。捜索隊を編成しろ」
「かしこまりました」
宰相の命令を受けて動き出した部下を見て、スベンは小さく息を吐く。
宰相は焦っていた。
なにもかもが上手くいっていない。
こんなはずではなかった。
こうなる前に対策を打つのが仕事だが、その時間すらなかったのだ。
(どうしてこうなった? 何が起こった?)
答えの出ない自問を繰り返しながら、スベンは窓の外を見る。
そこには雲一つなく澄み渡る青空――から伸びる白く美しい手。
伝承に残される女神の手。
またの名を裁きの手。
「……あぁ、そうか」
スベンは理解した。
この世界は常に魔物の脅威にさらされている。
国を守るための手段は様々。
勇者、聖女、神子――。
ビケイラ王国は禁術として伝わる召喚術を使い、一人の少年を召喚した。
彼は、何も持たなかった。
武力も、巨大な魔力も、癒しの力も何一つ。
この世界に住まう者なら必ず一つは持っているはずのものを何一つ持っていなかった。
持つ必要がなかったのだ。
なぜなら彼は
「女神の、愛し子」
白い手が国の上に振り下ろされる。
そこで王国の歴史は終わった。
一人の少年の扱いを間違えたためにここでまた一つ、王国の歴史が幕を閉じた。
END
召喚された少年:樹
強制召喚を第三者から見たらこんな感じ。
少年を強奪した冒険者「神子様だーー!」
冒険者B「保護しろ!」
冒険者C「こいつは縛って裏にでも転がしておけ!逃げるぞ!」
教会「女神様、転移発動をお願いします」
女神様「OK、ついでに国潰しておくわ」