吾輩は傭兵である 1-10
吾輩はどうするべきだろうか。
温泉プールに興味はあるが、この大浴場を独り占め気分も捨てがたい。
うぅむ。
っは、もしや今なら先輩たちに遠慮せず好きな味の牛乳選べるんじゃ!!
よし、そうしよう。
「すみません、コーヒー牛乳とイチゴ牛乳を一本ずつお願いします」
「ミックスもあるよ!」
番台に座っていたオークに注文すると、まさかの返答。
どうする、どうする俺。
「じゃ、じゃぁそれで」
「はいよ!」
オークが差し出した飲み物を受け取ると、脱衣所のベンチに腰かけた。
まずは一口、ごくり。
「うまっ!!」
この甘さと酸味のバランスが絶妙です。
もう一口。牛乳とはこんなにも美味しかったのか! これはもう止まらない、ゴクゴク飲み続け、あっという間に一本空になってしまった。
「ぷはー」
「牛乳くださぁい、イチゴがいいな」
「粒入りあるよ!」
「ジョッキで」
「あいよ!」
とんでもない注文をしたのは受付君だった。
しかもその場で腰に手を当てての一気飲み。とてもいい飲みっぷりですね。
何でも出てくる番台と、男の娘キャラを脱ぎ捨てておっさんモードな受付君、どっちにツッコミを入れたらいいのだろうか。
いや、見ないふりが一番かもしれない。
「あちぃ、死ぬ」
「ビールくれぇえええ!」
「ウォータースライダーこえぇぇえ」
「一生出れないかと思った」
「もう通う、俺通う、むしろ住む」
「本来の利用料ってどのくらい?俺の稼ぎで足りるかな」
先輩たちのテンションがヤバい。
「魔王牛乳一本」
「はいよ」
「なぁ魔王牛乳と普通の牛乳、どこが違うんだ?」
「普通の牛乳はうちの母ちゃんたちが世話してる牛からとれたもの、魔王牛乳は帝国にある牧場から仕入れたもんだ。食堂に行けば魔王コロッケもあるぞ」
「文化レベルが違うんだが」
「え、ここって俺ら平民が利用して大丈夫?」
先輩の一人が震えながら受付君に視線を向けると、力強い頷きが返ってきた。
「問題ない。平民がだめなら冒険者ギルド直営の保養地としての活用を申請する」
この子、自分が利用するために力技で行くつもりだ。
しかもあわよくば職員割引とか使うつもりなんだろうな。
「それなら安心だ」
「俺らも使えるってことだよな」
「もしそうなったら家族もギルドに登録すれば利用できるってことか?」
「その辺は調節してくれるんじゃねぇか?」
その後、吾輩は先輩たちとともに食堂に移動。
バーベキューなるものを体験した。
「焼いて食べるだけでも食材が違うとうめぇ」
「これ、温泉に力入れてて料理まで手が回ってないだけらしいぞ」
「あっちが終わったら料理にも本気出すってことっすよね、楽しみ」
温泉を堪能し、うまい物を食い、上等な布団で眠った吾輩たちは翌日、渋々施設を後にすることにした。
村人よすまない、オーク退治は不可能だったよ。
ちなみに受付君の村人への説明は「そのうち領主から説明があると思うので、それまでオークには手出し無用」それだけ。いいのかな?
もしかしてギルド統括って領主よりさらに上の権力者なのか?謎が多いよ冒険者ギルド、吾輩の傭兵道が地味に遠のいている気がする。