吾輩は傭兵である 1-5
場所は変わりとある商会の前。
吾輩の前には荷台を引く馬が二頭おり、荷物の詰まった木箱が積まれており、それを吾輩が運んでいる。
配達と言っても護衛を兼用したお仕事でした。でも馬が引いてくれたので楽だった。馬さんありがとう。
「いらっしゃいませ!」
商会の中に入ると受付があり、そこに一人の少年が立っていた。この子が届け先の子だろうか。
「こんにちは。頼まれた品物を届けに来た」
「あ、はい!」
荷車に積んでいたものが書かれたリストを受付の子に手渡す。
中身を確認してもらいながら手続きをしている間、周囲を観察していると、後ろの方で何やら騒ぎがあったようで受付の子が何事かと振り返った。
吾輩も釣られて振り向くと、そこには恰幅の良い中年男性がいた。
「そこの兄ちゃん!ちょっと顔貸せや」
男が受付の奥に向かって怒鳴ると、従業員らしき青年が現れた。
受付の子は男性の威圧に押されてどうすれば良いのか分からずオロオロしている。これはまずい状況になった。吾輩、荒事は苦手なんだけどなぁ。
「さぁ来い!こっちだ!」
とりあえず様子見して、荒事になりそうだったら止めるということで。
だって、中年おっさんといっても俺より筋肉がぶっといんだ。
そう考えながら男と従業員の後をこっそり追いかけ、着いた先は倉庫だった。
そして倉庫前には数人の男たちがいる。
……なんか怖いんですけど。
従業員が倉庫の扉を開けると男がリストらしきものを渡すのが見えた。
「はい、確かに」
「おう、てめぇら納品したれや!」
「おお!!」
男が合図すると一斉にこちらへ襲い掛かってきた。なんて事はなく、男たちはそれぞれ肩に荷物を載せて倉庫の中に運び始めた。
…………もしかして、態度が悪くて声がでかいだけの商売相手だったりしますか?
結局、男たちはトラブルを起こすことなく荷物を全て搬入し終わり、男とともに満足そうな顔をして去っていった。
吾輩の心配は何だったんだ。
受付君が涙を浮かべながら男に連れていかれた従業員の人に抱き着き、無事で良かったとわんわん泣いた事から事情が判明した。
彼らはギルドから派遣された力自慢の男衆で、海の荒波に揉まれているせいか言動がちょっと荒いだけの頼りになる取引相手だとか。
その証拠に商品が壊れていた事は一度もないし、期限が過ぎた事もない、ギルド推薦の優良団体……わぁ吾輩とは格が違うや。
吾輩、見た目でビビった自分を殴りたいです。
そんなこんなでギルドに戻り受付嬢に依頼完了報告をして報酬を受け取りました。