吾輩は傭兵である 1-2
そして次の日、吾輩たちの元に来たのは何故かボロ雑巾になったおっさんであった。
「お前らのせいだぞ! あいつのせいで俺は―――」
「子犬ちゃん?」
「きゃいん!」
受付嬢なにしたの?
貴族のおっさんがおびえきって犬のような悲鳴あげたけど?
吾輩たちが唖然としていると、彼女は何事もなかったかのようににっこりと笑った。
「さあ、皆さん今回の慰謝料を渡しますね。あ、そうそう。貴族の方の利用制限を厳しくしますので、次回から同様の状況になったらその時点で帰ってきていいですよ」
「え」
「冒険者に対し、権力を振りかざしたり暴言を吐いた時点でペナルティ対象になるんです。前金は戻しませんし、慰謝料も発生するようになるので、悪質な貴族からの依頼はこれで激減! 私たちも仕事がしやすくなります!」
「それ大丈夫なのか?」
「俺ら闇討ち受けない?」
「大丈夫です、闇討ちを受けるのは制限レベルを上げる原因になったこの犬です、ね」
「ガタガタガタガタ」
怯えていて話が出来ないようだ。
なお、慰謝料を踏み倒そうとするとギルドの上の方でクジ引きが発生、落とし前付けに行く役の奪い合いが始まるそうです。怖い。
吾輩の故郷にあったギルドこんなんだったか?
受付もおばあちゃんが編み物しながらやるような、もっとアットホームで和気あいあいとしていた気がするのだが……。
もしやいつも使っていた杖は仕込み杖だったりするの?
「というわけで、今後とも貴族に舐められないよう熾烈に対応していきましょう!」
にこにこと笑う彼女に、吾輩たちは苦笑いを返すしかなかった。
先祖代々の恨みでもあるのかな、触らんとこ。
***
おまけ
とある騎士の話 私の名前はアーサー・ドノバン。
栄えある近衛騎士団に所属する若き精鋭だ。
私の生家は代々王に仕え、国の守護者として国のために尽くしてきた由緒正しい家柄である。
私はその家の跡取りとして生まれ、ゆくゆくは父と同じようにこの身を王家に捧げるつもりで日々励んでいた。
そんなある日の事である。
私が所属していた部隊が、魔物の襲撃により壊滅した。
その時私はまだ入団して数年しか経っておらず、実戦経験の少ない若手ばかりだったため、敵うはずがなかった。
皆散り散りになり、必死に逃げ出した。私自身も逃げ惑っていた所を一人の騎士に救われた。
しかしそこで限界が来て動けなくなった私に、騎士の人は「君だけでも生きてくれ」と言い残し、私を置いて一人で戦おうとした。しかしそれは叶わない夢に終わった。
何故ならそこに更なる援軍が現れたからだ。
釘バットを振り回す可憐な少女、指示にひたすら「はい!」と答える軍隊のような冒険者たち。
凶悪な顔で笑いながら魔物を屠る姿に心が高揚した。
「おお! 勇者様が助けに来てくれた!!」と誰かが言ったがそれも無理はないだろう。
その後の戦いぶりを見て、ますます興奮した。
戦いが終わった後に、あの方々がギルドの者であると聞いた時に迷わず騎士を辞め、冒険者になる決意をした。
いつか、いつかあの釘バットの隣に立ちたい。そして罵られながら戦いたい!!
アーサーは新しい扉を開いた!!