聖女を倒そう! 1-5
通路をひたすら進むと外に出ることが出来た。
無事に戻れたことを喜び合い、皆で抱き合う。
本当に一時はもうダメだと覚悟したがなんとか生きて帰れた。
俺たちは奇跡の生還を果たしたのだ。
さてこれからどうするかという話になったが、結論はすぐに決まった。
聖女を追う。
あんなヤバイ奴を野放しにする訳にもいかない。
問題なのはアイツは異常に強い。
正直言ってレベルが違いすぎる、戦うのは無謀だろう。
だからといってこのまま放置するのは絶対にまずい。
何か手を打たないと。
とりあえずギルドに行って相談しよう。
方針が決まった俺たちは、疲れた体を引きずりながらも冒険者ギルドへと向かった。
「なんか賑やかだな」
「なにかのお祝いでしょうか」
ギルドの前に人が集まっている。
一体何事だろう。
近づいてみるとギルドの中から歓声が聞こえてきた。
「勇者様、ばんざーい!」
「「「勇者様にかんぱぁーい!」」」
ギルドの中に入るとそこにはギルドマスターをはじめ受付嬢に、見たことのある職員たちが揃って笑顔を浮かべている。奥の方からは楽器を演奏する音まで聞こえてくるではないか。
そしてそんな彼らの中心に祝福されている勇者と呼ばれた男――先ほど聖剣を抜いたおっさん――がいた。
おっさんの両脇には護衛の二人が並んでおり、さらにその後ろでは神官らしき男がニコニコと笑っている。
どういう状況なんだろう。理解が追いつかないぞ。
俺たちに気付いたギルドの職員が「いらっしゃいませぇ~、こちらをどぉぞぉ」と言いながら飲み物を勧めてきていた。
どうしたものか迷ったが、取り敢えず話を聞いてみることにする。
案内されたテーブルについて、注文した飲み物を受け取った後で気付いた。…………俺ら金持ってねぇじゃん。聖女に穴に落とされた時に所持金を失ったんだよ。
どうすんだよ、奢れって? 俺が悩んでいるうちに他のみんなはギルドの用意した酒を飲み始めていた。
「おいお前ら、俺らは金持ってないんだぞ」
「いいじゃない、こんな時ぐらい」
「よくねぇよ、食い逃げする気かよ」
「まあまあ、固いことは言いっこなしで」
「そうよそうよ、ケチ臭いわね」
くそ、好き勝手言いやがって。
しかしどうする? ここで逃げたら完全に食い逃げじゃね? あああぁぁ、仕方がない。今は手持ちが無いが後日返すことにしてギルドに借りるか。
それにしても……あいつ、おっさんはいったい何を成し遂げたのだろうか。
酒場が盛り上がる中、ギルドマスターが挨拶を始めた。
「偽聖女は倒された!故郷を燃やされた者もいるだろう、犠牲者の魂は輪廻の輪に戻された!追悼の意を込めて今日は飲むぞ!」
拍手が巻き起こり、それに応えようとおっさんがグラスを掲げて見せた。するとさらに歓声が上がり会場は盛り上がりを見せた。
……どうもあのおっさんが偽聖女を倒したらしい。
まさかとは思うがアレか、あれに勝ったということなのか?
嘘だろう……冗談だよな。
俺は自分の頬をつねってみた。痛い。
夢ではないようだ。ということはつまり……。
おっさんを見る。
おっさんはギルドの人たちに囲まれ、酒を注がれていた。
「素晴らしいお力です、まさに神の御使い」
「さすが勇者殿だ」
「素敵です!」
しかもその輪の中にサラッとうちの僧侶が紛れ込んでいた。
いつの間に!? というかさっきまでの敬語はどこ行った!! おっさんはまんざらでもなさそうな顔をしながら僧侶の肩を抱いている。
はぁぁぁぁん!?
おっさんテメェこの野郎!! 僧侶がおっさんにしなだれかかるように腕を組んで寄り添うと周囲の男たちから歓声が上がった。中には泣き出す者も現れる始末だ。
ふざけんじゃねえ、なんだこの光景は!
許せん、断じて認めてなるものか。
俺が怒りに身を震わせていると、隣に座っていた魔法使いが声をかけてきた。
「偽聖女を倒した勇者のもとに現れた神の祝福を受けた真なる聖女……つまり、民の理想のカップル」
諦めなさいと静かに諭された。
僧侶だぞ、僧侶!
回復役の美少女!!
俺は泣いて朝まで飲んだ。
戦士は「俺らだけ幸せで悪いな」と笑いながら魔法使いと田舎に帰って結婚する話をしていた。
ちくしょう、ちくしょおおおお!!
Happy END
今回の転生者:白い鎧
イネスの神火を与えられた時に前世を思い出した精霊。
前世はフラワーコーディネーター。