君を愛することはない系 1-4
「……婚約者だと?」
「そうだ!」
あぁ~はいはい、このパターンですか。
これはあれだな、ピンク髪がヒロインでこいつが攻略対象だな。
そんでもってここ乙女ゲーム系の世界だったのか、せっかく「君を愛することはない」って宣言してフラグ折ったのにな。
うわぁ、めんどくせぇ。
「……それで?」
「貴様には相応しくないということだ!さっさと婚約破棄しろ!」
はい来たぁ! 俺は心の中で目の前の男の首をギロチンに設置した。
「それは出来ない相談です」
「な、何ぃ!?」
「俺は彼女と結婚する」
「な、何を言って――」
「彼女は俺を愛してくれている」
「な、なにを……」
「だから俺は彼女ことを必ず幸せにしてみせる」
「……」
「それが俺の誓いであり、俺の生きる理由でもある」
「……」
「邪魔をするなら容赦はしない。次は首を落とす」
「……」
俺は無言になった男を睨みつける。
すると男は一歩後ずさり、そのまま踵を返して走り去っていった。
よし、一件落着。
これでようやく食堂に向かえる。
俺は再び歩き出そうとしたが、腕を掴まれた。
何だよ、まだ何かあるのかよ。
俺の唯一が食堂で待っているのだよ!
待ち合わせだぞ待ち合わせ!
天下無双の恋人の待ち合わせ!!
止める奴は全員馬に蹴られておしまい!
「待って!」
「?」
声のする方へ顔を向けると、桃色髪の美少女がいた。
走って来たのだろうか、息が乱れていた。
「貴方、一体何者なのよ……」
「ただの学生だが」
「そんなわけないでしょうが!!」
桃色髪の美少女が叫ぶように言った。
うるさいなぁ。
「私の調べによると、貴方は貴族ではない。なのにあの態度、おかしいわ!」
「……」
「貴方、本当は何処の誰なのよ!」
「……」
しつこいな。
「君が何を疑問に思おうと俺には関係ない」
「関係なくないわよ!」
「何故?」
「私はアリス・ロベルト!由緒正しき公爵家の令嬢なのよ!」
何だ電波系か。
「貴方みたいな平民とは違うの!」
「……」
「だから、貴方なんかより私の方が――」
「はぁ」
俺は溜息をつく。
「俺は貴族とか平民とか興味がない」
「は?」
「俺は俺だ。そして俺にとって一番大切なものは婚約者だ」
「あの女は平民の男と付き合ってるって噂もあるのよ!」
「それがどうした」
「え?」
「お前らは俺を平民と思っている、そして彼女が平民の男と付き合っていると言う、ならば恋人は俺ということだろう」
「な、何なのよ、その理屈は!?」
「お前は俺と彼女の仲を引き裂きたいのか?」
「そ、そういう訳じゃ……」
「ではもういいだろう。失礼する」
そう言うと俺は再び歩みを進めようとするが、またもや呼び止められた。
今度は何だよ! 俺は早く婚約者に会いに行きたいんだよ!
苛立ちながら振り返ると、桃色髪の少女は顔を真っ赤にしていた。……熱中症かな?
「貴方の名前を教えなさい!」
「断る」
「っ!どうして!」
「俺の名はただ一人の心に刻み込まれればいい」
……自分で言ってて恥ずかしいんだけど! 俺のツンデレ婚約者も「何それ寒い」ってドン引きしそう!
「な、名前くらい教えてくれたって良いじゃない!」
「嫌だ」
「っ!!」
桃色髪の少女の顔がさらに紅潮していく。
何だ?怒りのあまり倒れるんじゃなかろうか。
もう行こう、全てにおいて時間がもったいない。まだ待っててくれてるよねマイハニー?
「……貴方、名前は何ていうの?」
そもそも本日のランチは残っているのだろうか。
「……答えてくれないのね」
え、凄い楽しみしてたんだけど。
婚約者を膝にのせてあーんは諦めたけど、同じもの注文してイチャイチャしたかった。
「分かったわ、勝手に呼ばせて貰うから!」
何気に甘いもの好きなんだよね彼女、俺のを譲ってあげた時の嬉しそうに目を細めるのが好きです。
けど太るからと悲しそうに断る姿が切なくて、前世の知識をフル活用しておからクッキーやおからドーナツとか開発しました。
……気づいたらピンクが目の前から消えていた。
何か言ってた気がするけどまぁいいか、ご飯、ご飯。