裏切られ系主人公
今回のお話の内容はAI3:私7ぐらい。
主人公が瀕死で、あとはもうすぐ死ぬのを待つばかりという時。
その状況から逆転して、主人公を救い出すのが、ヒーロー。
尊厳を踏みにじり、心身を折った上で力が欲しいかと囁くのが敵のボス。
「……力が、あれば、裏切られない、のか」
思わず呟いてしまう。
もし、俺が力を手に入れたら。
俺が勇者だったなら。
アイツらは俺を裏切らなかったのだろうか。
「裏切ったと思うよ! そもそも異世界から召喚した人間に世界の命運押し付けるのもどうかと思う」
仲間は逃げた。
魔王の配下である四天王の圧倒的な力を前に慄き、俺を囮に、逃げた。
瀕死の重傷を俺に負わせて、囮に使ったんだ。
あの時は怒り狂ってそれどころじゃなかったけど。
今思えば、俺は最初からアイツらの仲間じゃなかったんだろうなぁ……。
「うわああああん!!!!」
「おおお!? どうしたどうした!!」
いきなり大声で泣き出した俺を見て慌てるおじさん。
ただのおじさんじゃない、四天王の一人でデュラハン、その中の人だ!
喋っているのは鎧が持っている首の部分だから、傍から見たら結構ホラーだと思う。
でも仲間に捨てられた俺を助けてくれたのも、手当てをしてくれたのもこの人。
薬草を持ってきたのは馬だったけど。
「ありがとうございます……」
「お礼言われるようなことは何もしてないんだけど……」
ぐすんと鼻を鳴らす。涙はまだ止まらないけれど、少し落ち着いた気がする。
「いいえ、俺を助けてくれました」
「泣いている子供を助けるのは当然のことだよ?」
うん、そうだ。
裏切るとか裏切られるとか。
そんなことはもう考えなくて良いんだ。
だって今の言葉から分かるように、魔物の方が常識がある。これは間違いない。
それにこの人は俺を助けてくれた。
こんなに優しくて強い人が味方なんだぞ? 何を恐れる必要があるんだよ。
そうさ、俺は一人ぼっちなんかじゃない。人間がだめなら闇落ちして魔物側になればいい。
「……俺、決めました!」
「決めた? 何をだい?」
「俺、冒険者になります! そして、勇者を倒してやります!!」
勇者を倒す。
それは即ち、人間の敵になるということ。
だけどそれで構わない。
「え、人殺しのために冒険者になるの? それはだめだよ、冒険者の名が傷付くから」
真顔で常識を説かれた。……ですよねー!!
「大丈夫です、誰も殺さないし、悪事にも加担しません。ただちょっとだけ、悪の道に逸れるだけですから……!」
「全然大丈夫じゃないよね!? そのセリフは完全にアウトだよ!!」
俺の発言を聞いて、デュラハンさんは思いっきり突っ込んでくれた。
やっぱり良い人だなぁ。
「お願いします、冒険者にしてくれないと、俺……!」
「ちょっ、泣かないでくれよぉ~!……ああもう分かった、分かったから!ギルドに案内するよ」
そう言って本当にそのままギルドに案内された。
魔物の馬だから普通より足が速くて、内臓がやばかった。
ギルドではデュラハンのおじさんが受付に「街中では頭部をつけてくださいと言っているでしょう!」と説教されたり、色々あったけど、何とか登録してもらうことができた。
そしてこの日から俺は、冒険者になったのだ。
◆◆◆
──それから五年。
俺は魔王軍にいた。
ただ予定と違って兵士としてではない、魔王軍にいた女騎士と恋仲になって結婚したんだ。
子供も生まれて幸せです。
END
BL好きの方へのお願い:
最後の女騎士をデュラハンのおじさまに変えてお読みください。