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転生少女は救世を望まれる〜平穏を目指した私は世界の重要人物だったようです〜  作者: 蒼井美紗
1章 環境改善編

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63、料理と肉団子

 私はダスティンさんが料理をするところを、テーブルに座って大人しく待つ……つもりだったけど、どうしても気になって後ろから手元を覗いた。


「それ、なんのお肉ですか?」

「ハルーツのヒレだ」

 

 ヒレは確か……牛肉に近い味の部位か。それをミンチにしてるってことは、もしかしてハンバーグとか?

 やばい、テンション上がってきた。レーナになってミンチにしたお肉を食べるのは初めてかも。


「……そんなに気になるか?」

「はい。食材も普段は扱えないものばかりですし、調理器具もとても便利そうで気になります」


 この家は魔道具師の特権なのだろうけど、普通は貴族の屋敷にしかないのだろう魔道具がそこかしこで当たり前のように使われていて、見て回るだけで楽しいのだ。


「ではレーナも手伝え。ナイフは使えるか?」

「もちろんです!」

「凄い勢いだな……あそこの台を持ってきて、その板の上で野菜を切って欲しい。切る野菜はオニー、キャロ、アネだ。全てこの肉ぐらい細かくしてくれ」

「分かりました!」


 私は仕事がもらえたことが嬉しくて、意気揚々と台を運んでその上に立った。そして私の手には大きなナイフを使って、怪我をしないように気をつけて野菜を切っていく。


 まず私が手に取ったのはアネだ。アネは日本にあった野菜に例えると……パプリカかな。瑞々しいけど苦味があって、火を通すと甘くなる。でも日本のパプリカより小さくて、色のバリエーションも多い野菜だ。


「ダスティンさん、今日は何を作ってるんですか?」

「肉団子だ。その野菜を炒めて味付けして、この肉と混ぜ合わせる。そして……そうだな、親指と人差し指で作れる輪と同じぐらいの大きさに丸めるんだ。それを焼いてからソースと絡めて完成だ」


 おおっ、それって肉団子だ。絶対に美味しいやつ!


「ラスタも炊きますか?」

「もちろんだ。肉団子にはあれがないとな」

「ダスティンさん、分かってますね」


 やっぱり肉団子にはラスタだよね。この国ではラスタ派とラスート派に分かれるらしいけど、今までの感じからしてダスティンさんはラスタ派な気がする。

 日本で言うところの米派とパン派の論争と全く同じだ。やっぱりどの世界でも同じようなことをやってるよね。まあこの国にはパンと呼べるようなものがないから、ちょっと違うかもしれないけど。


 パンって作り方はそこまで難しくないと思うし、少なくとも一般に普及してないってことは、ラスートからだと作れないのかな……それか美味しくならないのか。


「レーナ、そこにあるボウルを取ってくれ」

「はい」


 それからも私はできる範囲でダスティンさんを手伝い、ちょうどお腹が鳴り始めた頃に全ての料理が出来上がった。


「食べるか」

「はい! ありがとうございます……!」


 目の前で艶々と輝きを放ちながら良い香りを発している肉団子に誘われて、私はフォークを持つ手を伸ばした。そして肉団子にプスッとフォークを刺して口に運ぶと……口に入れた瞬間に、肉団子からはジュワッと幸せな肉汁が溢れ出る。

 その肉汁は肉団子が纏っていたソースと絶妙に絡み合い、口の中でこの料理の美味しさの最大限が作り出された。


「お、美味しすぎます……!」


 濃厚な旨味に支配された口の中にさっぱりとしたほのかな甘味のラスタを入れると、これがまた合いすぎる。もう幸せだ……ダスティンさん、めちゃくちゃ料理上手い。


「それは良かった。……うん、美味いな」


 ダスティンさんは自分が作った料理の出来栄えに満足したようで、うっすらと頬を緩めて一度だけ頷いた。


 それから私たちはたまに言葉を交わしながらも、ほぼ無言で美味しい食事を楽しんだ。そして肉団子も半分ほどがなくなり、少し空腹感も落ち着いてきた頃、私はふと思い出したことを口にした。


「そういえば、染色の魔道具はどうですか?」

「ああ、そちらの話をしていなかったか。実はそちらの方が上手くいっているのだ。やはり元々ある技術を応用するというのは失敗が少ない」

「そうなのですね。では一時的に染色させることには成功したのですか?」

「今は一週で消えるところまできている。あとは布の痛み具合に関しての実験や、色むらをなくす改良、それから染めたくない部分をどうするのかについて、もっと利便性が高いものにできないかを考えているところだ」


 もうそんなに進んでるのか。やっぱりダスティンさんって優秀なんだね。いつも爆発ばかりしてるから、ちょっとだけ腕を疑ってたんだけど……それは内緒にしておこう。


「完成を楽しみにしています」

「ああ、まだ先になるが、完成したらレーナにも試してもらいたい」

「もちろんです」

「染色の魔道具に目処がついたら、四つの魔石を使った洗浄の魔道具開発に着手するか……」


 私はダスティンさんがボソッと呟いたその言葉を聞いて、思わずダスティンさんをじっと見つめてしまった。


「――さっきの惨状を忘れたんですか?」


 そしてポロッとそう溢すと、ダスティンさんは気まずそうに私から目を逸らし……落ち込んだ様子で、


「しばらくはやめておこう」


 と呟いた。絶対にそれが良いよ。二つの魔石と魔法の組み合わせだけであんな変なことになるんだから、四つとかほぼ不可能だ。


 染色の魔道具は奇跡の産物だと思う。


「私が言うのも微妙ですが、少なくとも洗浄の魔道具が完成してからが良いと思います」

「……そうだな、そうしよう」


 ダスティンさんは、難易度が高い研究に挑戦したいんだろう。本当に研究者気質だよね。


 それからはしばらくやめておこうと言いつつ、どうすれば四つの魔石を組み合わせた魔道具が偶然ではなく作れるのかに関するダスティンさんの仮説を聞きながら、残りの肉団子を味わった。

 話は難しくてよく分からなかったけど、ダスティンさんの楽しそうな年相応の笑みが印象に残った。

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