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43、家族への授業

 制服から私服のボロいワンピースに着替えた私は、裏にいる従業員とギャスパー様に挨拶をして帰路に就いた。明日の授業のことを考えながら外門を通って外に出ると……門のすぐ近くにお父さんがいた。


「レーナおかえ……そ、そんな厳しい表情をしてどうしたんだ! 何かされたのか!?」

「え……」


 私は突然お父さんに肩を掴まれて、心配そうな表情を向けられる。


「別に何もされてないよ? そんなに厳しい表情だった?」

「ああ、何かあったのかと心配になったぞ」

「大丈夫、心配しないで。ただ明日は私が考えた計算方法を他の従業員の人たちに教えて欲しいって言われて、そのことについて考えてたの」


 私のその言葉を聞いてやっと安心できたのか、お父さんは私の肩から手を離して「はぁ」と力を抜いた。


「なんだ、それならいいんだ」

「うん。心配してくれてありがとう」


 お父さんの子供愛はちょっと重すぎるけど嬉しくて、大きな手をぎゅっと握って顔を見上げながらお礼を言った。するとお父さんは、感極まったように瞳を潤ませて空を見上げる。


「俺は今、世界一幸せかもしれない」

「……大袈裟じゃない?」

「いや、全く大袈裟じゃない」

「そっかぁ……」


 それからお父さんはしばらく感動していて、数分待っているとやっと普段通りに戻って口を開いた。


「それで、今日はどうだったんだ? ちゃんと仕事できたか?」

「うん。商品の配達と売り上げの計算をしたよ。それにすっごく可愛い制服をもらえたの! お父さんに見せたいなぁ」

「な、なんだと……! それをスラムに着てくる……ことはできないよな。うぅ、レーナの可愛い姿を親である俺が見れないなんて!」


 今日のお父さん、なんかテンション高いね。というかよく考えたら、私とお父さんが二人で話すことってあんまりないんだよね。お父さんもこの時間が嬉しいのかな。


「皆が街中に来られたら、その時は見れると思うよ。もうちょっと待っててね」


 お父さんに屈んでもらってそう伝えると、お父さんの瞳は輝いた。キラッキラだ。


「楽しみだな」

「そうだね。そのために今夜からさっそく勉強する?」

「おうっ、まずは敬語だったな」

「頑張って教えるね!」


 それから家に戻った私は、いつも通りにお母さんと近所の人たちと一緒に夜ご飯を作って、日が暮れる前に寝る準備を済ませた。


 今まではこのあとの時間で特にやることはなく、道具の手入れをしたり少し話をするだけですぐ寝床に入ってたんだけど……今日からは勉強の時間だ。


「レーナ、今日から頼むわよ」

「うん、任せて。まずは敬語からね。敬語っていくつか種類があって、貴族様や偉い人に向けて使うものともう少しフランクなものがあるんだけど、皆が必要なのはフランクな方だからそっちを教えるね。貴族様向けの敬語が必要になったら、それはその時に教えるよ」


 私のその言葉に皆が頷いてくれたのを確認して、私は皆がよく使うだろう挨拶から教えることにした。


「例えば皆が仕事を見つける時、雇ってもらいたい工房やお店の偉い人に最初にする挨拶ね」

「それは大切ね」

「うん。じゃあいくよ? 初めまして、レーナです。よろしくお願いします。……これが一番基本の挨拶かな」


 とりあえずこれが言えれば、第一印象が悪くなることはないはずだ。こうして少しずつよく使う言葉から覚えてもらうしかないだろう。

 〜です。って言葉はたまに市場でお店の人が使ってるから、皆にも覚えやすいかな。


「初めまして、ルビナです。よろしく……お願いね? だったかしら」

「ううん、よろしくお願いします。だよ」

「よろしく、お願い、します?」

「そう」


 慣れない言葉は発音しにくいらしく、皆は何度も言葉を口にして覚えようと頑張っている。


「じゃあお母さんから立ってやってみようか。ニコって笑みを浮かべながらさっきの言葉を言えば良いよ」

「分かったわ。――初めまして、ルビナです。よろしくお願いします」

「おおっ、完璧!」

「さすがルビナだな」

「次はお父さんね」


 それからお父さんとお兄ちゃんも挨拶を練習して、とりあえず挨拶は全員クリアだ。


「じゃあ今日はもう一つ。お礼の仕方も覚えようか。ありがとうって皆は言うと思うけど、敬語だとありがとうございます。って言うよ」

「ありがとう、ござ、います?」

「そう。ありがとうございます」

「最後が『す』で終わることが多いんだな?」


 お父さんがありがとうございますと呟いていたら、突然そんな言葉を口にした。


「そう、お父さん凄いね!」


 そういう規則性に気がつくと習得はめちゃくちゃ早くなるだろう。お父さんは意外と頭の回転が早いのかも。


「〜です。〜ます。とかで終わることが多いよ」

「アクセル、凄いじゃない」

「さすが父さんだな」


 お父さんは皆から褒められて相当嬉しかったのか、鼻の穴をひくひくと動かしながら得意げな笑みだ。


「お父さん凄いよ。じゃあもう一回、さっきの挨拶をやってみようか」


 私もお父さんを褒めてやる気にさせて、さっきの挨拶を覚えてるか確認してみた。すると……予想通り、ほとんど忘れていた。

 まあそんなものだよね。何回も繰り返してればいずれ覚えるだろう。


「じゃあ皆、敬語はこの辺にしてあとは私の話を聞いてくれる? 街中のことで話したいことがたくさんあるの」


 常識については雑談として話すのが一番だろうと思ってそう聞くと、皆は覚えることに飽きたのかすぐに頷いてくれた。私はそんな皆の切り替えの速さに苦笑しつつ、話をする内容を考える。


「今日は……魔法使いのことを話すね」


 それから私は皆に街中での魔法についてと魔道具についての話をして、今夜の家族への授業は終わりとした。

 そして皆でベッド代わりの木の板に横になってから、明日の筆算の授業をシミュレーションして、納得できたところで目を閉じた。明日は上手くできると良いな。

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