271、初日の祈りを終えて
初日の祈りは、創造神様から何の反応もなく終わりとなった。私としては全く手応えがなかったので、多分私が祈っても意味がないんだろうなと思ったけど、教会の人たち的にはまだこれに意味があると信じているようだ。
特にティモテ大司教は、ひたすら私を持ち上げてくれる。
「レーナ様、とても素晴らしい祈りでした! 必ず創造神様に届いていることでしょう。もしかしたら創造神様から直接の反応がなくとも、その願いを聞き届けてくださっているのかもしれませんっ。早急にゲート出現率の調査をいたします!」
何だか興奮しているティモテ大司教の言葉を受けて、リンナット教皇も告げた。
「近隣の街に調査人員を送りましょう。ではレーナ様、本日はお休みください。また明日もよろしくお願いいたします」
「……はい。調査をよろしくお願いします」
興奮して騒がしいティモテ大司教とは対照的に、リンナット教皇は本当に感情が揺れ動いていないようだ。
リンナット教皇は自分の感情をコントロールできる優秀な人なのか、それとも教皇という立場だけど私の祈りが届くかどうかにあまり関心がないのか。
気持ちの読めないリンナット教皇を少し不気味に思っていると、教皇はすぐに大聖堂を退出してしまった。
「では、私も戻ります」
その言葉にアレンドール王国の皆さんが動いてくれて、私も大聖堂を出る。ティモテ大司教からの食事の誘いを、大切な祈りのために体を休めたいとか適当なことを言って何とか断り、やっと少し安心できる宿泊所に戻った。
宿泊所内の応接室のようなところにダスティンさん、お養父様と集まり、今日の話をする。
「それで、手応えは本当になかったのか?」
ダスティンさんの言葉に、私はしっかりと頷いた。
「はい。手応えがなくとも私の声が届いてる可能性を否定はできませんが、確率は低いかと……。祈りが届かないのであれば、早めに帰って私は物理的にゲートを消す方向で動いた方がいいですよね」
その意見に、お養父様が眉間に皺を寄せる。
「レーナの祈りによって何かが起きる可能性もあると考えていたが、そう簡単にはいかないか……」
「はい。私が分かるような何かは起きませんでした」
「あとは数日続けた結果と、ゲート発生率の調査結果次第だな」
ダスティンさんの言葉に頷きながら、私は不安になる。
「あの、数日続けても何の手応えもなく、ゲート発生率も変わっていなかった場合、私は帰路に就けるでしょうか」
この心配はずっと付き纏っていたけど、大聖堂に到着した今、まさに直近の大きな心配事として私の心の大部分を占めているのだ。
私の声が届かないと分かった時に、ティモテ大司教がどう変わるのか怖いし、その変わる方向性によっては帰してもらえない可能性もある。
そしてリンナット教皇も、ティモテ大司教と同じようなタイプの人だと思っていたから、全く違って逆に困惑しているのだ。
普通に常識人で何もないかもしれないけど、何を考えてるか分からないので底知れない怖さがある。
「……そこは正直、分からないとしか言えないな。しかし何かと理由をつけて引き止められたとしても、レーナがこの場に留まる正当な理由がなければ帰ることはできるはずだ」
「私もそう思うな。引き止められたとしても、少し無理をしてでも帰ってしまえばいい。さすがに武力行使などはされないだろうと思うが……」
お養父様は最後に言葉を濁した。やっぱり武力行使はされない! と断言はできないんですね!?
騎士たちも同じ宿泊所に入れてもらえてるから大丈夫だと思いたいけど、やっぱり不安だ。
「とにかく今は、祈り続けるしかないですね」
「そうだな。短くとも数日は祈るべきだろう。一週間を越えれば、私たちとしても帰還要請ができる」
一週間、長いな……。普通にずっと祈り続けてるのも辛いのだ。何の反応もないからやりがいがないし、もう今日だって後半は覚えてる歌を脳内でエンドレス再生していた。
「……何とか頑張ります」
私がその言葉を絞り出すと、嫌だという気持ちが滲み出ていたのか、ダスティンさんが珍しく労うような柔らかい笑みを浮かべてくれた。
「大変だったら合図をしてくれ。レーナの体調に問題がありそうだと止めに入ろう」
「私も手伝おう」
「ダスティン様、お養父様、ありがとうございます……!」
二人の存在はとても心強く、私はやっと自然と笑うことができる。
それからはカディオ団長やシュゼットとも護衛に関する話をして、自室に戻った。そしてパメラたちとの会話で癒されながら、疲れを癒すために早めに眠りについた。