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197、治癒魔法の効果

 騎士団と一緒に訓練をしていたとはいえ、酷い怪我なんて見たことがなくて怖いと思う気持ちが湧いてくるけど、なんとかそれを押さえ込んで怪我人に駆け寄った。


 すると救護班の人たちによって担架に乗せられている騎士の胸元は、真っ赤に染まっている。

 鋭い爪を持つ魔物に、肩の方からお腹にかけてを深く切り裂かれたようだ。もう騎士に意識はなく、荒い息を吐くのみとなっている。


「頼む! なんとか助けてやってくれ……!」


 そう懇願した騎士の言葉に、救護班の人たちが唇をグッと引き結ぶのが見えた。


 ここまで怪我が酷いと、助けられないんだ……。


 その事実が分かった瞬間に、私は口を開いていた。


「この方が通常の救護で治せないのであれば、私が治癒魔法を使うわ。もしかしたら、怪我が軽くなるかもしれないから」


 私の言葉を聞いた救護班の男性は、驚きの表情で私をガバッと振り返る。私の顔をじっと見つめ、ルーちゃんに視線を向けて、それから小さな声で告げた。


「そんなことが、可能なのでしょうか」

「どこまでの怪我なら治せるかは分からないけど、治癒魔法が使えることは確かよ。魔力は消費してしまうのだけれど」


 その言葉が聞こえていた騎士の一人が叫んだ。


「この場所なら戦場から少し外れてるから、そこまで影響はないはずだ! どうか助けてやってください……!」

「分かったわ。では皆、少し離れて」


 ここまでの酷い怪我を治したことはないので、一応皆には距離を取ってもらい、ルーちゃんに頼んだ。


「ルーちゃん、この方の怪我を治して。命を繋いであげて」


 そう伝えた瞬間にルーちゃんは騎士の上をふわっと飛び回り、それと同時に騎士の体が光に包まれ――


 十秒ほどでその光は消えた。そしてそれと同時に、意識を失っていた騎士が目を覚ます。


「う、うぅ……」

「おいお前! 大丈夫か!?」


 騎士は不思議そうな表情で体を起き上がらせると、自分の血濡れた騎士服に恐る恐る触れ、破れた部分から直接肌を確かめた。


「傷が、ない……?」


 その言葉に騎士たちからは安堵の声が上がり、それと共に全員が私に感謝を伝えてくれる。


 まさか、ここまでの効果があるなんて……。私は治癒魔法の効果に驚愕と少しの怖さを感じながら、なんとか笑顔で口を開いた。


「助けられて、良かったわ。でもたくさんの血を失っているでしょうから、しっかりと休んで」


 そう伝えると唖然としていた救護班の人たちが動き出し、怪我をした騎士は救護所に向かっていった。他の騎士も戦場に戻り、私たちは休憩所に戻るために歩き出す。


「……あそこまで一瞬で、完璧に怪我が治るなんて」


 思わずそう呟いてしまう。凄い能力だと思うけど……あまりにも力が強すぎて、それを持っていることが怖くなってしまう。

 ルーちゃんの力が強いのは分かりきってたことだけど、さっきの光景は衝撃だった。あれは、この世の理に反する能力だよね。


 そんなことを考えながら、無意識のうちに唇を引き結んでいると、レジーヌとヴァネッサが静かな声で口を開いた。


「……あそこまで素晴らしい効果を発揮するとは、正直考えておりませんでした」

「簡易な怪我を治せることは分かっておりましたが、まさか命の危機を救えるとは」


 やっぱり驚くよね……。


 治癒魔法は実際に怪我人がいないと試せないから検証が進んでなかったけど、とりあえず切り傷や擦り傷を治せることは分かっていた。

 でも病気、たとえば軽い風邪は治せなかったから、酷い怪我には効果がないか、あるとしてもなんとか命を繋げる程度で傷は残るんじゃないかと予想してたんだけど……


 一瞬で完璧に治せるなんて。治癒魔法は病気には効果がないけど、怪我はどんなものでも治せるのかもしれない。


「魔力をどれほど消費したのかは分かりますか?」


 そう聞いたヴァネッサに、私は考え込みながら答える。


「実は治癒の後すぐに、ルーちゃんに風を起こしてもらおうと思って頼んでみたんだけど、それはできないみたいだったの。でも少し移動したらできたから……私の足で数歩分の範囲の魔力が一気になくなる感じかな」

「それは……大量の魔力を消費してはいますが、効果を考えると少なく思えてしまいます」

「そうね。私もそう思うわ」


 自然に囲まれた外で数歩の範囲なら、例えば街中であの規模の怪我を治したら、貴族の屋敷分の広さの魔力がごっそりなくなるぐらいかな……いや、もう少し少ないかも。


 でもそのぐらいだ。つまり街中でも、狭い室内じゃなければ酷い怪我も治せることになる。


「今回のような戦場では、誰もが望む力ですね……」


 レジーヌの呟きに、私はゆっくりと頷いた。


 それからは誰も言葉を発さなくなり、無言で休憩所に戻っていると、私たちの方にじっと視線を向けている人がいるのが目に映った。


 ダスティンさんとクレールさんだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] あれは本当に治癒魔法だったのか?実は夢見てただけとかないよな?ってきっと騎士さんは思ってるんじゃないかな?レーナ自身も予想を遥かに上回る効果に驚いてる様子だしw
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