193、ゲートの様子
隊列の先頭が街の外に飛び出してから次々と後続の騎士たちが続き、すぐに私の番がやってきた。
「ノーク、よろしくね」
一度だけ背中を撫でて声を掛けてから、皆と同じようにノークに走れと合図をする。すると問題なく、ノークは周囲と同じ速度で駆けてくれた。
ノークは集団で生活する動物だったから、そこまで指示をしなくても前のノークに付いていってくれるって話だったけど……これは凄いね。本当にほとんど指示はいらないみたいだ。
正直一人で練習してた時よりも、ずっと楽に乗っていられる。あとは私がこの体勢を、どこまで保っていられるのかだ。
「ルーちゃん、私への風の抵抗を減らしてね」
周りをふよふよと飛んでいたルーちゃんに声をかけると、ルーちゃんは待ってましたとばかりに張り切って私の周囲を素早く飛び回った。
するとその瞬間に、さっきまでビシバシ顔に当たっていた風がほとんど来なくなる。
ふぅ、これだけでも本当に楽だ。私は皆よりノークに長時間乗っていられるだけの体力がないから、こうしてルーちゃんに助けてもらう工夫を色々と考えたのだ。
魔力については高速で移動してるから尽きる心配はないし、ずっと精霊魔法を使ってもらえる。
「ルーちゃん、ありがとう」
そうしてルーちゃんに助けてもらいつつ、それでも痛くなるお尻や足をなんとか座り方を変えて誤魔化しつつ、半日に及ぶ移動に耐え切った。
ついに目の前にはゲートが見えてきて、騎士たちの表情にも緊張が滲んでいるようだ。私にもその緊張が伝わり、無意識のうちに体に力が入ってしまう。
今回のゲートは草原の中にあるらしく、少し離れたここからでも全貌がよく見えた。ゲートは例えると何だろう、真っ黒な……ブラックホール? いや、でも渦を巻いてる感じはないんだよね。
本当にゲート、門という言葉がしっくりくる外観だ。今回のゲートの大きさは、巨大なお城の無駄に広い入り口に匹敵するぐらいで、形は門らしくアーチ型。
見る限り大きいけど厚さはなくて、真横から見るとそこにゲートがあるというよりは、凄く細い線があるという感じに見えると思う。
事前に教えてもらっていたけど、真っ黒な中に揺らぎがあるというか、動きが見える方が正面らしい。必ずそちら側にゲートは開くのだそうだ。
「減速ー!」
ノークに乗りながらゲートを観察していると、カディオ団長の声が聞こえてきた。それから少しずつ隊列は速度を落とし、最終的にはゲートから少し離れたところで停止する。
止まってから改めてゲートに視線を向けると、なんだかゾワッと肌が粟立つような感覚を覚え、見上げるようにしていたからか、僅かに体が傾いてよろけそうになった。
ただの黒い門と言えばそうなんだけど……存在感というか、何か普通とは違う感じがする。
「今回のは大きいな……」
私の前にいたシュゼットの呟きが聞こえ、思わずシュゼットの肩をガシッと掴んでしまった。
「大きいって、もっと小さなゲートが普通なの?」
「いや、ゲートの大きさは元々まちまちなんだ。……ただここまで大きいのはかなり珍しい」
第一騎士団で副団長としてゲートに対応してきているシュゼットが珍しいと言うほどってことは、相当に大きいゲートってことじゃないのかな。
それって、何か原因があるのだろうか。というかちゃんと魔物を討伐し切れる……?
そう不安に思っていると、シュゼットは他の騎士に呼ばれて先頭の方に行ってしまったため、私は護衛であるレジーヌ、ヴァネッサに視線を向けてから、じっとゲートを見つめるダスティンさんを見上げた。
「ダスティン様は、ゲートを見られるのは初めてですか?」
「ああ、ここまで近くで見たことはない。しかしゲートに関してはさまざまな話を聞いていたが……その話と比べてやはりこのゲートは大きいな」
やっぱりそうなんだ……
「最近はダンジョンの数が増えているという話も以前に聞きましたが、大丈夫なのでしょうか」
こんな質問をしてもダスティンさんだって答えられないだろうと思いつつ、不安感からその質問が口をついて出た。
しかし予想通り、ダスティンさんから明確な答えは返ってこない。
「……何も起きなければ良いが」
そう呟いたダスティンさんは、雰囲気を変えるように少しだけ声を張って、ゲートから私に視線を向けた。
「とにかく私たちは、目の前のゲートに対処をするのみだ」
「そうですね。皆さんのお役に立てるよう頑張ります」