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192、初めてのゲートへ

 スラム街の視察など、私の功績に関する諸々の予定をこなしてから約二週間が経過したある日。


 今日はノルバンディス学院が休みの日で、私はリオネルとアリアンヌ、そしてエルヴィールとのんびりお茶会を楽しむ予定を立てていたんだけど――


 その予定は早朝に崩れた。


 まだ薄暗い時間帯に王宮からの使者がやって来たのだ。それによって私は急いで起きて準備を整え、今はリューカ車に揺られている。行き先はもちろん王宮だ。


「レーナお嬢様、やはり私も同行させていただけないでしょうか」


 リューカ車の中で眉を下げながらそう願ったのは、私の侍女であるパメラだ。


 使者としてオードラン公爵家の屋敷にやってきたのは第一騎士団の団員で、ここ王都からノークに乗って約半日ほどの場所に、ゲートが出現したと連絡に来てくれたのだ。


 そこで私も事前に決めていた通り、ダスティンさんと共に同行するんだけど……パメラが難色示している。


「パメラは危ないからダメよ。戦闘は得意じゃないでしょう?」


 理解してもらえるように丁寧な口調でそう伝えると、パメラはぐっと言葉を詰まらせるようにしながらも、また口を開いた。


「しかしノークで半日の場所ということは、十中八九泊まりになるでしょう。そのような場所で、侍女の一人もいなく過ごされるというのは……」


 確かに私は公爵家の子女だからね、その心配は分かる。毎日侍女として私の生活を支えてくれているパメラにとって、受け入れ難いことなんだろう。


 でもそもそも、普通の公爵家子女はゲートに行くことなんてないだろうし、私の行動に貴族令嬢としての正しさを求めても仕方がないよね。


「数日ぐらいなら、一人でも大丈夫だから心配しないで。それにゲートへ向かう時には私も騎士団の一員として向かうことになるのだから、私だけ特別扱いはいけないわ。他の騎士は侍従や侍女なんて連れていないのだから」

「それはそうですが……」

「それに騎士の中には貴族子息や子女も多くいるはずよ。その方たちも、侍女や侍従は連れていないと思うわ」


 確かシュゼットだって伯爵家の出身とかだよね。多分騎士団にはそんな人ばかりなのだろう。


「……仰るとおりです」


 パメラはやっと納得してくれたのか、まだ躊躇いながらも頷いてくれた。


「差し出がましいことを申し上げました。大変失礼いたしました。……しかしレーナお嬢様、油断せず十分にお気をつけください」

「ありがとう。パメラの心配は嬉しいわ。でもレジーヌとヴァネッサは護衛として付いてきてくれるし、ルーちゃんもいるから大丈夫よ。パメラは心配せずに、体を休めていて。帰ってきたらまたよろしくね」


 護衛の二人はノークにも問題なく乗れて戦力になるということで、元々同行が決まっていたのだ。それを伝えるとパメラは安心したのか少し頬を緩める。


「……そうでした。ではレジーヌ、ヴァネッサ、レーナお嬢様のことは頼みましたよ。絶対にお守りしてください」


 今日は一緒に車に乗っている二人にパメラが真剣な視線を向けると、二人も同じように真剣な眼差しで頷いた。


「分かっています」

「任せてください」


 そうして四人で話をしていると、いつの間にかリューカ車は騎士団の詰所に着いたようで、少しずつ減速して動きを止めた。


 リューカ車から降りるとそこには第一騎士団の騎士団員がたくさん集まっていて、忙しそうに出立の準備をしている。

 カディオ団長は皆に指示を出していて、シュゼットが私に気づいてこちらに笑顔で手を振ってくれた。さらに皆が集まっている場所の端には、すでに準備を終えた様子のダスティンさんとクレールさんがいる。


 クレールさんは一緒に行くんだね……さすがダスティンさん第一の人だ。


「レーナ、早朝だったが大丈夫か」


 シュゼットが笑顔のまま私の下に来てくれた。


「ええ、問題ないわ。私が準備するべきことはあるかしら」

「そうだな……全体の準備は大丈夫だから、レーナには自分が乗るノークの準備をしてほしい。そこだけは乗る本人がやるべきだからな。同行する護衛二人のノークも厩舎にいるから、一緒に準備をしてくれ」


 ノークの準備。何だか急に緊張してきたかも……


「分かったわ」

「分からないことがあったらすぐ呼んでいいからな。他の騎士団員でも」


 私の緊張が伝わったのか笑顔でそう言ってくれるシュゼットに、心から感謝の気持ちが湧いてくる。

 なんかシュゼットっていてくれると安心するというか、周囲を和ませる力があるよね……だからこそちょっと礼儀作法が適当でも、皆に愛されてるんだと思う。


 シュゼットは副団長として、結構慕われてるのだ。騎士たちの中にはシュゼットに惹かれてる人も結構いるらしく、私はニマニマと楽しくその様子をいつも見ていた。


「ではレーナ様、厩舎に向かいましょう」

「ええ、そうね」


 ヴァネッサに声をかけられ、私はノークのところに向かった。


 それからしばらくして全員の準備が整い、後は出発を待つだけとなった。私は隊列の真ん中より少し後ろ側で、目の前にはシュゼット、そして両隣は護衛であるレジーヌとヴァネッサ、そして後ろはダスティンさんとクレールさんという、周囲に知り合いしかいない状態となっている。


「では皆、街中では民たちの迷惑にならないよう静かに素早く動くこと。しかし間違っても走ってはいけない。そして外門を通ってからは速度を一気に速めるので、こちらには遅れないように」


 先頭でカディオ団長がそう指示を出すと、さっそく隊列は動き始めた。王宮の敷地内をしばらく進み、城壁を抜けて街に出る。

 そこからは街に住む人たちに視線を向けられながらも、素早く街の外門前にある広場に到着した。


 レーナになってすぐの頃。初めて外門を外から見に行った時に、門が開いて騎士たちがたくさん飛び出してきたんだよね。

 まさか今度は私が、騎士側になるなんて思ってなかった。


 そんなことを考えていると、焦燥感を煽られるような懐かしい鐘の音が響き渡り、大きな門がゴゴゴゴゴ……と重い音を響かせて開いていく。


「では皆、行くぞっ」

「はっ!」


 団長の声に騎士たちが一斉に答え、一気に先頭から街の外に飛び出した。

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