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188、久しぶりのスラム街

「街の外に出たな」


 ダスティンさんの声に従って窓の外に視線を向けると、そこには懐かしい光景が広がっていた。


 この茶色の感じ……なんだか凄く落ち着く気がする。土の茶色と木の茶色と、スラムにいた時には茶色ばっかりに囲まれてたけど、貴族街では逆に茶色を見つける方が大変なんだよね。


「スラムの中は歩いて巡るのですよね」

「そうなるな。……そういえば、レーナはどの辺りに住んでいたのだ?」

「私はもう少し奥ですね。街の外門を出て右手側にしばらく歩いていくと、私が住んでた地域があります」

「では本日はそちらへ向かおう」

「はい! 皆に会えるのが楽しみです」


 ダスティンさんにそう答えたところで、リューカ車のドアがノックされて、外からパメラによって開かれた。


「レーナお嬢様、スラム街に到着いたしました」

「パメラ、ありがとう」


 基本的に身分が高い人の方が車から降りる順番は遅いので、私はダスティンさんより先にリューカ車から降りる。


 うわぁ、この香り懐かしい。全くいい香りじゃないんだけど、何なら臭いんだけど、これが懐かしいと思えるほどに、私はスラム街に馴染んでいた。


「なんか綺麗な人たちが来たぞ」

「あれ誰だ?」

「街の中の人だろ?」


 私がリューカ車から降りると、一気にスラム街の人たちから注目を浴びた。


「それにしては綺麗すぎるって。市場の店員たちとも全然違うぞ」

「今はああいうのが流行ってるんだろ」

「私知ってるわ、貴族って人じゃないの? 凄いお金持ちなのよ」

「周りにいるのは騎士よね」

「何だお前ら、物知りだな」


 次々と声が私の耳にまで届いてきて、私は少しでも安心してもらおうと、こちらを見ている人たちに笑顔を向けてみた。

 しかし集まっている人たちは困惑するだけで、全く安心はできていないようだ。


 突然リューカ車でドレスや騎士服を着た人が現れたら驚くよね……スラムの人たちはほとんどが、貴族制度さえ知らないんだから。


 ダスティンさんが私の隣に並んだところで、カディオ団長とシュゼットが、第一騎士団の代表として口を開いた。


「こちらにおられるのは、レーナ・オードラン様である! オードラン公爵家の御息女であり、創造神様より加護を賜ったお方だ」


 カディオ団長の前半の言葉には首を傾げていたスラム街の人たちも、創造神様の加護という言葉には一気にどよめいた。


 スラムでも神様や精霊のお話は、広く知られてるからね。


「レーナ様はスラム街で生まれ育ったという経歴を持つ。スラムの現状を嘆かれ、改善しようと考えられての今回の訪問だ!」


 次に口を開いたシュゼットの言葉に、どよめきは一気に何倍にも広がった。街から来た綺麗な服の人がスラム出身なんて、かなりの衝撃だろう。


「レーナ・オードランです。皆の生活の苦しさはよく知っているわ。私は創造神様の加護を得たことにより立場を得たけれど、それを皆を救うことに使いたいと思っているの。今日はスラム街の各地を視察したいからよろしくね」


 私が挨拶をして少しの沈黙が場を満たし、堰を切ったようにその場がどっと沸いた。


「も、もしかして、俺らの生活は変わるのか!?」

「街の中に行けたりするのか!?」

「うおぉぉぉぉ!」

「女神様は俺らを見捨ててなかったんだ!」


 もちろん困惑している人も多くいるけど、半数以上の人が喜びを爆発させ、さらにはそこかしこに祈りを捧げているような人も散見された。


 そんな中で私は騎士団の皆に周囲を守ってもらいながら、スラム街の中に足を踏み入れる。


「スラム街とはこのような場所だったのだな」

「はい。ダスティン様は大丈夫……みたいですね」


 この匂いや所々のドロドロした地面、汚い調理場などを見て不快に思ってないかと心配したけど、見上げたダスティンさんの表情は興味深げにきらりと輝いていた。


「レーナの発想力がどのようにして育まれたのか、今回の視察でキッカケぐらいは掴みたい」

「あぁ……そ、そうですね。私でもよく分かりませんから、頑張ってください」


 私は苦笑しつつそう返すことしかできなかった。スラム街で育まれたんじゃなくて、前世の記憶なんだけど……それを伝えることはできないから、ダスティンさんの無駄な努力を止められない。


 ダスティンさん、なんかごめんなさい。


「レーナ様、そちらお足下お気をつけ下さい」

「ええ、ありがとう」


 パメラにそんな注意を受けつつ、スラム街の住民たちに囲まれながら奥へと進んでいくと、だんだんと見知った景色になってきた。


 私が住んでいた場所のすぐ近くまで来たところで声を掛けると、騎士たちは足を止める。そこで私はヴァネッサとレジーヌを伴い、騎士たちの円の中から抜けて前に進み出た。


 開けた視界の先に見えたのは……凄く懐かしい、ピンク色の髪だった。

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