185、創造神様の加護持ちとしての功績
研究室の仲間にアナンが加わって、教室ではメロディとオレリアと、それからたまにアンジェリーヌにも声を掛けられるという穏やかな日々を過ごしていたある日。
私はお養父様と共に、王宮に呼ばれた。
案内された応接室に足を踏み入れると、そこにいたのは国王陛下と、王太子殿下でダスティンさんの兄であるベルトラン様、さらに王族らしく着飾ったダスティンさんだった。
このメンバーに、特に陛下がいるところに呼ばれるという事態に、嫌な予感しかしない。
「堅苦しい挨拶はいらない。座ってくれ」
陛下にそう言われたので、私とお養父様は入室して略礼をすると、すぐソファーに腰掛けた。
「突然呼び出してしまってすまない」
「いえ、陛下がお呼びとあらば、すぐに参ります」
「いつも助かっている。……ではさっそく今回の本題に入りたいと思うのだが」
そこで一度言葉を切った陛下は、私の瞳をまっすぐ見つめて口を開いた。
「教会が、レーナを取り込もうと画策している」
教会という言葉を聞いた瞬間に、私の体はビクッと僅かに跳ねる。もう教会って名前がトラウマレベルになってきた気がする……
それにしても私を取り込もうなんて、まだそんなことを考えてたんだ。もうほっといて欲しい。
「レーナが貴族として国に縛られていては存分に力を発揮できないだとか、創造神様の加護を得たということは神々に仕えよという啓示ではないかなど、そのような内容を広めているのだ」
はぁ、別に私は力なんて発揮できなくても良いのに。それにこの世界は全員が神様から加護を得るけど、神に仕えてるのなんてほんの一部だ。
「これから予想される教会の動きは、この広めた噂によってレーナが教会に入るべきではないかという考えが世間に浸透したところで、国に提案してくるものと思われる」
「その提案は、断れるのですか?」
私のその問いかけに、陛下はすぐに頷いてはくれなかった。
「――断れないことはない。しかし世論に反する形を取るのは、王家であっても難しいことだ。他の貴族の動きにもよるが、押し切られる可能性もある」
「そうなのですね……」
確かに国民が望んでいることに反するのは、国にとって良いことじゃないよね。そして創造神様の加護を得た私が教会に入ることに、反対する人はあまりいないだろう。
結局、教会からは逃げられないのかな。
私がそう考えた時、陛下がまた口を開いた。
「レーナは今でも教会に入るのは避けたいと思っているか? 今なら君はレーナ・オードランだ。公爵家子女という立場で教会に行くのは、一平民として行くのとはまた違うだろう」
確かにそっか。今の方が教会に行ったとしても、待遇は良くなるのかな。
でも自由がないことは変わらない気がするし、そもそも教会が好きじゃないんだよね……あの最初のトラウマもあるけど、この前教会に呼ばれてもっと近づきたくなくなった。
「できれば避けたいです」
すぐにそう答えると、陛下はしっかりと頷いてくれる。
「分かった。では一つ提案だが、何かレーナに功績を作ってもらいたいと思う。それも国に所属しているからこその功績が良いな。それによって教会が広める噂の前半部分は意味がないものになるだろう。また国にいなければできなかったことを成し遂げることで、後半の噂への賛成意見も減らせる」
国に所属してるからこそできた、創造神様の加護を得た私の功績。
すっごく難しいことを提案してくれるね……どういうのが良いんだろう。やっぱりルーちゃんに手伝ってもらう感じのがいいのかな。
私が悩んでいると、ダスティンさんが口を開いてくれた。
「陛下、それをレーナに考えさせるのですか?」
「できればそれが望ましい。我々が考えたのでは、やはりそれが滲み出るからな」
陛下の返答に、ダスティンさんは眉間に皺を寄せながら私に視線を向けてくれる。
何か私らしいこと、インパクトがあって分かりやすい功績になること、ルーちゃんも活躍できること――
あっ、これはどうだろう。
私はずっとやりたかったことを思い出した。
「陛下、一つ考えがあります」
「なんだ、言ってみよ」
「ありがとうございます。――スラム街の解体を、功績とできないでしょうか」
私の言葉を聞いた陛下、ベルトラン様、ダスティンさん、そしてお養父様も、全員が同じように驚きを露わにした。