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184、研究室のメンバー

 教会を訪れた日からしばらく経過した、ある晴れた日の放課後。私はダスティンさんの研究室で、一人の男の子と向き合っていた。


「レーナ、残ったのはこのアナンだけだ」


 私はダスティンさんのその言葉に、思わず呆れた表情を浮かべてしまう。


 ダスティンさんの研究室への入室希望者は、私の予想通りそれはもう殺到した。ノルバンディス学院の女子生徒の八割近くが応募して来てたんじゃないかと思う。


 さらに男子生徒もダスティンさんとの繋がり欲しさにかなりの数が入室を希望していて、ダスティンさんはあまりの多さに選抜をするとか言ってたけど――


「さすがに少なすぎませんか?」


 あの大量にいた女子生徒たちはどうしたんだろう。一人も入れなかったとなると、唯一この研究室に所属する女子生徒となる私が、目立って恨まれたりしそうで嫌なんだけどな……。


「他全員は、私の基準に達しなかった」

「いや、それは基準が高すぎるんじゃ……」


 絶対に無茶な要望をしたに違いない。というかその選抜って、私も受けたら普通に落ちる気がするのは気のせいかな。


 いや、これは考えないことにしよう。精神衛生上良くない。私は研究室に所属してるっていうのが事実だ。


 そう切り替えたところで、目の前のソファーに座るアナンと呼ばれた男の子に視線を向けた。


 かなり無茶な選抜をしたとなると、逆に一人だけ残ったこの子が気になるよね。選抜は私が関わることなく別室でやってたから、会うのは初めてだ。


 見た目は……凄く真面目そうという印象を受ける。緑色の髪を前髪が重ための髪型にしていて、丸メガネをかけている。あまり背は高そうじゃなく、細身で猫背……というよりも俯きがちだ。


「レーナ・オードランよ。一年Aクラスに所属しているわ。よろしくね」


 私から笑顔で声をかけると、男の子はビクッと体を揺らしてから、それは小さな小さな声で答えた。


「……アナン・ブルジェ、一年Bクラス、です」

「同級生なのね。これからよろしく」


 なんだか怖がられてるような気がしたけど右手を差し出すと、アナンは恐る恐る手を伸ばして、そっと指先だけで握手をしてくれた。


 人と接するのが苦手なのかな……ダスティンさん、なんでアナンを研究室に入れたんだろう。


 そう不思議に思っていると、ダスティンさんはさっそくとソファーから立ち上がり、いつも研究しているテーブルに向かった。


「二人ともこちらに来い。今日からはさっそく、魔道具研究を進めていくことになる。特に力を入れるのは、飛行の魔道具だ」


 楽しげな表情のダスティンさんがそう告げると、さっきまでは俯いてビクビクしていたアナンが、突然瞳を見開いて顔をガバッと上げた。


「さっそく飛行の魔道具開発に携われるのですか……!」

「もちろんだ。アナンが今まで独自に研究を重ねてきた知識を、ぜひ借りたいと思っている」

「もちろんです! 飛行の魔道具はやはり形が何よりも重要だと思っていまして、最初は円盤型で何度も試行錯誤しましたが、円盤型では不可能だと思います。また鳥のように羽を作って、その羽を上下に動かす形も考えましたが、こちらも難しく……」

「やはりアナンも円盤型は難しいという結論になったか。私もそう考えていて、今はこの形で開発を進めている」


 そこでダスティンさんが取り出したのは紙飛行機だ。


「この形を考えたのは、そこにいるレーナなのだが、これはこうすると……前に飛ぶのだ」


 部屋の端まで飛んだ紙飛行機を見て、アナンは瞳をこれでもかと輝かせた。


「鳥型の羽を固定したような形ですね! レーナ様、あのような形を思いつくなんて素晴らしいです……!」


 アナンは私の手を握って尊敬の眼差しを向けると、紙飛行機を拾いに向かった。その動きは俊敏だ。


「どのように風を当てると飛び続けるのでしょうか。先ほどの様子では前にしか飛べないのですか?」

「そうなんだ。真上や後ろ、さらには同じ場所に留まることは難しい構造だな」

「そうなのですね……しかし移動手段としてはかなり画期的ではないでしょうか!」

「ああ、したがってまずはこの形で成功を目指したい。また、いずれは自在に空を飛び回れる魔道具も開発しよう」


 それからもダスティンさんとアナンは、幾つもの素材を手にしてあーでもないこーでもないと、難しい話を楽しそうにしていた。


 これはダスティンさん、アナンの入室を許可するね……ここまで魔道具開発に熱量があって、ダスティンさんと対等に話ができるほどの知識があるのなら納得だ。


 そして他の人たちが落とされたのも納得してしまった。このレベルが求められてたら、それはちょっと勉強したぐらいじゃ無理だよね……


「これってワイバーンの皮膜ですか?」


 アナンが机の端に置かれていた素材に瞳を輝かせた。


「そうだ。それを飛行の魔道具で羽となる部分に使おうかと思っていたのだが、魔物の被膜は風圧で少し伸びてしまうし、やはり強度に問題があるということで不採用とした」

「そうなのですね」


 ダスティンさんが難しい表情で皮膜を広げる様子を見て、私の中でふとある光景が頭に思い浮かんだ。


 それは、気球だ。


 今思えばこの世界って、飛行機どころか気球もない気がする。少なくとも私は一度も見たことがないし、話に聞いたこともない。

 やっぱり精霊魔法っていう便利なものがあることで、発達しない部分があるのかな……


「あの、空に飛ぶだけならその皮膜で出来ませんか?」


 思いついたら実践してみたくなり、思わず口を開いていた。


「それはどういうことだ?」

「えっと……その皮膜を何かの籠みたいなものにこうしてくっつけるんです。そしてこの皮膜の下で火魔法を使えば、宙に浮かぶかなと……」


 あれ、でもなんで気球って熱があると空に浮かぶんだろう。深く考えたことなかったな……でも火を付けてたのは確実だ。テレビで絶対に見た記憶がある。


「風魔法ではないのか?」


 ダスティンさんの疑問は最もで、私もなんで火なのかは知らない。


「風魔法でも飛ぶと思いますが、前に似たような構造のものを作って遊んでいて、空気を温めることで宙に浮いたんです……」


 偶然を装うには無理やり感があったような気がするけど、創造神様の加護を得たからか、ダスティンさんもアナンも疑問に思う様子なく私の説明を受け入れてくれた。


「ほう、面白いな。こうして作った皮膜内の温度を高めるということだな」

「はい。多分そうではないかと」

「それも試してみる価値があるな。まずは小さいものからこの部屋で検証だ。アナン、そこの棚にある箱を取ってくれないか? 中に様々な種類の被膜が入っている。あっ、その隣もついでに頼みたい。そちらには皮が入っている」

「分かりました」


 それからは私の何気ない言葉によって気球の再現実験が始まり、その日の放課後はあっという間に過ぎていった。


「レーナ様、そっちを押さえてください」

「分かったわ」


 一緒に魔道具研究をしたからか、アナンと結構距離が縮まったのは良かったかな。

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