174、本格的な訓練
いくつもの炎の矢が降り注ぐ魔法や水弾、風の刃や風によるプレス、さらには石弾など、次々と攻撃魔法を試していく。
一つの魔法を放つごとに騎士さんたちからの歓声が届き、ダスティンさんの考察の声がぶつぶつと聞こえてくる中で十分ほどが経過し、私は威力や狙いの調整も完璧にルーちゃんと意思疎通できるようになった。
またルーちゃんは私が興奮してると強い魔法を放つ性質があるようなので、攻撃魔法を頼む時には平常心が大切だと理解した。
実際に戦ってる時は興奮しちゃうだろうけど……まあ相手が魔物なら問題ないよね。訓練とか、対人の時には気をつけよう。
「レーナ、そこまでで良い。とにかくレーナにかかれば攻撃魔法は自由自在だということが分かった。狙いも威力も信じられない精度で調節できている」
ダスティンさんがそう言って止めてくれたところで、私はルーちゃんにありがとうと感謝を伝えてから、皆がいる後ろを振り返った。
「はい。気をつけなければいけないのは、力が入ると威力が強くなりすぎてしまうことですね。それ以外はあまり心配事もなく使えそうです」
そう答えると、シュゼットが私の両肩に手を置いて瞳を輝かせた。
「本当に素晴らしい逸材だな……!」
「実際に攻撃魔法を見ていたのに、信じきれないほどの光景だった」
カディオ団長も半ば呆然とそう呟くと、私にじっと視線を向けてくる。他の騎士さんたちも尊敬の眼差しだったり、得体の知れないものを見る眼差しだったりと種類はそれぞれだけど、全員が例外なく私を穴が開くほど見つめていた。
こんなに見られるのは……ちょっと恥ずかしいね。でも褒めてもらえるのは素直に嬉しい。
「ありがとう。この力を国のために役立てられるよう頑張るわ」
万が一にも怖がられないようにそう宣言すると、カディオ団長は表情を今度は真剣なものに変えて口を開いた。
「レーナのその言葉は本当に心強い。ぜひこれからもよろしく頼む。……では次に騎士たちの精霊魔法を見てもらっても良いだろうか。一般的な攻撃魔法の強さや精度も知っておくべきだろう。それを把握できたら連携の練習だな」
「分かったわ。よろしくね」
私が頷くと、団長の号令で騎士さんたちが一斉に動き出した。ダスティンさんと共にその場から離れると、騎士さんたちは的に向かって一列に並ぶ。
「ではいつも通り火魔法から、始めっ!」
カディオ団長のその号令が響き渡った瞬間、右端の騎士さんから続けて十人程度が、一斉に詠唱を始めた。
『『火を司る精霊よ、我の手から岩壁に向け、リードスの木の如くまっすぐと炎弾を放ち給え』』
その号令によって、十個の炎弾が的に向かって飛んでいく。しかしその大きさや速度、強さなどは全員が同じではないみたいだ。数人だけ炎が大きすぎたり的まで届かなかったりしている。
「リー、ナッド、アレイク! まだまだ規程から外れているぞ!」
騎士たちと一緒に炎弾を放っていたシュゼットが、三人に名指しで喝を入れた。
「はっ! もう一度お願いします!」
「今度はシュゼットと三人だけだ」
団長のその言葉に四人は真剣な表情で頷くと、また同じ詠唱をして魔法を放った。すると今度は三人の魔法がさっきよりはシュゼットに近づいている。
「ダスティン様、これはどういう訓練なのでしょうか。同じ詠唱でも威力が変わったりするのですか?」
目の前の訓練を理解できなくて隣にいたダスティンさんに問いかけると、ダスティンさんは騎士にも詳しいのか迷うことなく答えてくれた。
「ああ、精霊魔法は精霊との意思疎通がどれほど上手くいくかどうかで精度が変わる。基本的にはその精度を高めるために詠唱を工夫して細かな部分まで指示をするのだが、戦闘中に長い詠唱を、それもその場に合わせて中身を変化させて行うのは難しいだろう? そこで最低限必要な部分のみの詠唱をして、後は精霊に無言の意思疎通のみで汲み取ってもらうという練習だな」
「そんなことができるんですね」
「一応できる。ただもちろん余裕があれば、詠唱をした方が良いのは確実だ」
そんな説明をダスティンさんから聞いていると、今度は的の中心に当てるように、しっかりと詠唱をして行う訓練に変わったようだ。
的には番号が振ってあり、団長が直前に指定した的の中心に当たるよう、瞬時に詠唱を組み立てるらしい。
精霊魔法って、頭の回転が速くないと難しいね。
騎士さんたちの努力と練度に目を奪われていると、水魔法、土魔法、風魔法まで一通りの魔法訓練が終わった。
「レーナ、どうだった?」
騎士さんたちが少し楽な姿勢をとる中で団長に問いかけられ、私は団長とシュゼットのところに向かう。
「凄くカッコよかったわ。何よりも複雑な詠唱を覚えていて、さらにはそれを臨機応変に組み替えているところが凄いわね」
その言葉を聞いた団長は、少し誇らしげな表情だ。
「ありがとう」
「ははっ、そうだろ! うちの騎士たちは優秀なんだ」
シュゼットは機嫌良く笑いながら、私の背中をバシバシと叩いている。多分シュゼット的には軽く叩いてるつもりなんだろうけど……ちょっと痛い。
それに気づいたのか団長がシュゼットの手首を掴んで止めると、反対の手でシュゼットの頭を叩いた。
「公爵家の子女を叩くなっ!」
「ちょっ……団長! 私も伯爵家の子女ですよ!」
シュゼットの抗議の言葉を完全に無視した団長は、私に笑顔を向けた。
この二人、なんだかんだ仲が良さそうで微笑ましいね。