173、やらかしの顛末
魔法を放ったルーちゃんは自慢げにふよふよと周りを漂っていたけど、私は何が起こったのか理解するのを頭が拒否していて、全く動けない。
しばらくルーちゃんと、土煙が晴れたことで明らかになった悲惨な状況を交互に見つめていて……何とか頭が動き出したところで、大変なことをやらかしてしまったと理解した。
しかし理解したからと言って、どうすれば良いのか分からない。混乱してとにかく助けを求めようと、無意識にダスティンさんが待機しているはずの方に振り向くと……そこには眉間に皺を寄せ、深くため息を吐くダスティンさんがいた。
「なんて、威力だ」
「今のは精霊魔法なのか……?」
近くにいたシュゼットとカディオ団長からは、そんな呟きが聞こえてくる。
この出来事がきっかけで、私は怖い存在だと認識されたりしないかな……不安だ、不安しかない。
さっきまでの高揚感は跡形もなく消し去り、冷たくなった指先をギュッと握りしめていると、ダスティンさんがこちらに歩いてきてくれた。
「レーナ、今の精霊魔法はどんな指示をしたんだ? 威力は指定しなかったのか?」
「……周囲を気にせず攻撃魔法を放てるのは初めてだったので、楽しくなっちゃって、その……うきうきと、ただあの的に火球を当てて欲しいとだけ」
説明している間にこれじゃあ初めてのおもちゃを手にした子供と同じだと恥ずかしくなり、頬が少し赤くなるのを感じた。
的が壊れない程度にって一言添えれば良かったのに。ルーちゃんごめん、これは私の失敗だよ。
せっかく張り切って魔法を使ってくれたのに、皆に衝撃を与えて困惑させてしまった現状に申し訳なさを感じて謝ると、ルーちゃんはふよふよと私の頬あたりに飛んできてくれた。
もしかして、慰めようとしてくれてる……?
ルーちゃん良い子……! 実体があったらぎゅっと抱きしめたい!
そんなことを考えていたら、ダスティンさんが顎に手を当てて冷静な声を発した。
「今回の事象から分かることは、金色の精霊はレーナの心情も理解している可能性があるということだな。いや、この場合はレーナの心情に同調しているのか?」
そんないつも通りのダスティンさんによって、緊張感が漂っていた訓練場の空気が少し緩む。ダスティンさん、ありがとうございます。
心の中で感謝を伝えていると、シュゼットも私の肩に手を置いて声を掛けてくれた。
「レーナ、やっぱり創造神様の加護は凄いのだな!」
「……そうみたい。私も驚いているわ」
「ははっ、レーナもか」
「ええ、攻撃魔法なんてほとんど使ったことがなかったもの」
「これは訓練すれば、かなり強い魔法師になれるはずだ。レーナがゲートへの遠征に来てくれたら心強いな」
この力を怖がるんじゃなくて味方として心強いと言ってくれるシュゼットに、一部のまだ恐怖を感じていた騎士たちも体の力を抜いてくれたように見えた。
シュゼットも本当にありがとう……!
ダスティンさんとシュゼット、二人のおかげでこの場は和やかなムードに戻ってくれた。
私は本当に、人に恵まれてるよね。
「騎士団の遠征に同行させてもらえるのなら、ぜひ行きたいわ。この能力をただ寝かせておくなんて惜しいもの」
シュゼットの何気ない提案を拾って答えると、シュゼットは嬉しそうに表情を明るくした。ゲートでの戦いには興味があったから、騎士団側から誘ってもらえるのはありがたい。
「本当か! 団長、レーナはこう言ってるぞ」
「ああ、聞いていた。確かにこの威力の魔法が放てるレーナがいてくれたら、かなり討伐が楽になるが……許可されるかどうかだな。ただレーナが望むのなら要望を出してみよう」
「カディオ団長、ありがとう。ぜひお願いするわ」
二人とそんな話をしていたら、瓦礫の山を見に向かっていたダスティンさんが戻ってきた。そこで私はやっと怪我人がいなかったのかという部分にまで意識が回り、慌てて尋ねる。
「あの、巻き込まれた人は……」
「その心配はいらない。騎士団の訓練場の周辺は万が一のために基本的に立ち入り禁止で、何もない空間になっているからな。一応確認したが大丈夫だ」
「そうなんですね……ありがとうございます。良かったです」
ダスティンさんの返答に安心して、へにゃりと力ない笑みを浮かべてしまう。この強い力で人を傷つけないよう、そこだけは最大限の注意を払わないと。
「レーナ、まずは騎士たちとの合同訓練というよりも、攻撃魔法を一通り試してみてほしい。それによってレーナの能力を把握してから合同で訓練をするべきだろう。カディオ団長もその流れで問題ないか?」
ダスティンさんがこの後の訓練の流れについて提案すると、それにカディオ団長は頷き、まずは私が一通りの攻撃魔法を発動することになった。