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170、異空間収納の詳しい検証

 ノルバンディス学院に入学して、初めての休日がやってきた。二日あるうちの休日一日目は、王宮に向かってダスティンさんと精霊魔法の検証の続きをして、さらに騎士団との魔法の訓練だ。


 朝食後に少し休憩をしてから動きやすい格好に着替え、パメラ、ヴァネッサ、レジーヌと共にリューカ車に乗り、王宮へ向かった。

 王宮に着くと前回と同じようにクレールさんが迎えにきてくれていて、ダスティンさんが貸し切っているという小さな訓練場に向かう。三人には訓練場の前で待機していてもらい、中に入るのは私とクレールさんだけだ。


「ダスティンさん、おはようございます」

「おはよう。やっと来たか」

「今日は何の検証をするのでしょうか」

「異空間収納に入れた物質の変質に関する検証を行う予定だ」


 そういえば、前回の時には詳しく調べることはしなかったんだっけ。何個かダスティンさんに言われるがまま物を入れた記憶がある。


「分かりました。さっそくやりましょう!」

「……今日はやけに乗り気だな」


 ダスティンさんに訝しげな顔を向けられ、少しだけ恥ずかしくなって視線を逸らした。


「その……騎士団との魔法の訓練が、楽しみで」


 騎士団の訓練を見るのがまず楽しみだし、攻撃魔法も日常生活ではまず使うことがないので、思いっきり撃ってみたかったのだ。

 それに騎士が移動によく使う、ノークも近くで見られるかなという期待もある。


 そんなことを考えていると、ダスティンさんは瞳を細めながら私のことを見つめた。


「そうか」


 騎士に憧れる子供たちを温かく見守る親のような眼差しに、一気に頬が熱くなる。


 というかダスティンさん、そんな表情もできたんですね!


「そ、そんなことより、早く検証をしましょう。この前収納したものをテーブルの上に出せば良いですか」


 話を無理やり検証に戻すと、ダスティンさんの意識も検証に向いてくれたようで、いつもの表情になり頷いた。


「ああ、そこに頼む」


 作りたてだった食べ物や生の肉、魚、木材や金属、宝石、水、土、植物など前回収納した全ての物を、ルーちゃんに頼んでテーブルの上に取り出していく。

 ちなみに前回虫なども試したけど、生きているものはルーちゃんに頼んでも、困ったように私の周りをふわふわと飛び回るだけで収納はできないようだった。


「これで全部です。生の肉や魚、腐ってませんか……?」


 鼻につく刺激臭に思わず顔を顰めると、ダスティンさんも眉間に皺を寄せつつ手袋をして肉に触れた。


「……クレール、これは腐っているか?」


 ダスティンさんに呼ばれたクレールさんは全く表情を変えずに、なんなら頼られたことが少し嬉しいのか僅かに頬を緩めながら、腐っていると思われる肉や魚に顔を近づけた。

 クレールさんって、ブレないね。侍従の鏡だ。


「そうですね。確実に腐っております」

「前回の検証日から十日と少し経過しているが、それでこの状態になるというのは現実と比較してどうだ。差異はあるか?」

「……いえ、ほとんどないと思われます。ただ気温が高く直射日光が当たっているような場所に置かれていたというよりは、比較的涼しい気温で暗所に置かれていたのと同程度です」

「分かった。ありがとう」


 異空間収納に入れておいたものは基本的に少しひんやりとしているし、涼しめな気温で暗所というのは今までの経験通りだ。異空間収納の中はこの世界と同じ法則で、比較的涼しい季節の夜って感じなのかな。


「他のものも見ていこう。まずは木材だが、強度や性質に問題がないかを確認する」


 そう言ったダスティンさんは、近くに置いてあったノコギリを手に持った。


「手始めにこれで木材を切断する。ちなみにこっちに準備してある同じ大きさの木材は、レーナの異空間収納に入れてもらっていた木材と、同じ木の隣合った部分から作られたものだ」


 細身な見た目の割に力があるダスティンさんは、涼しい顔をしてノコギリで木材を切っていく。魔道具研究で力が必要な場面でもよく思うけど、この力の強さは見た目とのギャップがあるよね……。


 すぐに二つの木材を切り終えて、その結果を紙に記入した。


「強度は変化なしだな。では次は燃える速度を検証する」

「分かりました。火はルーちゃんに任せてください」

「いえ、火は私がお役に立てるかと」


 私が何気なく発した言葉に、クレールさんがキリッとした表情で被せてきた。そういえば、クレールさんは火の女神様からの加護を得てたんだったね。


 ダスティンさんの役に立ちたいクレールさんの邪魔をする意思はないので、火おこしはクレールさんに譲ることにする。

 そんなクレールさんにダスティンさんはもう慣れ切っているので、完全に無反応だ。


「じゃあクレール、そこに準備してある木材を燃やしておいてくれ」

「かしこまりました」

「レーナはそっちの桶に水を」

「はい」


 それから木材をいくつかに切って、燃やしてみたり水につけてみたり凍らせてみたり、さまざまな検証を行った結果――異空間収納に入れておいても、木材は一切変質しないということが分かった。


「異空間は我々が暮らしている場所と、変わりない法則がある可能性が高いな。では次は……」


 それから金属や宝石、土など他の物質でも同じように性質が変化していないかの検証を行い、異空間収納内はこの世界と同じ法則が成り立つという結論に達した。

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― 新着の感想 ―
[気になる点]  凍らせたものを収納すると、どうなるんでしょうね?  他作品で時間経過するタイプのソレ系は、凍らせて収納すると長期保存できるってパターンが多いですし。  でも涼しめな所に置いといた程…
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