169、研究内容
シュゼットがまず手に取ったのは、テーブルに置かれていた一枚の紙だった。そこには研究の記録のようなものが記されている……みたいだけど、私には何が書かれているのかよく分からない。
「気温や匂い、天気って……何を研究しているの?」
書かれている言葉が精霊魔法にはあまり関係がなさそうなことばかりで、思わず首を傾げてしまうと、シュゼットは楽しそうに説明してくれた。
「私が研究してるのは、精霊に多様な好みがあるのかどうかなんだ。例えばここに書かれているように気温や匂い、天気、魔力濃度、または人の数や自然の数、地面との距離などで、精霊魔法の精度や強さ、魔力消費量が変わるのかどうかを研究している」
そういうことか。今まで考えたこともなかったけど、確かに言われてみると気になるね。
ルーちゃんと意思疎通をしている限りは明らかに精霊には意思があるようだし、ルーちゃんは特別だとしても、他の精霊だって少なからず意思を持つはずだ。だって精霊はただその辺に浮いてるだけじゃなく、自分の好きな環境がある場所に集まるのだから。
今までも言われていたような、青色の精霊は水場を好むとかの単純な環境への好みだけじゃなくて、多様な好みがあってもおかしくない。
そしてその好みによって魔法に対する力の入れ具合が変わるのだとしたら、シュゼットの研究は成果が出そうだ。
「興味を持ってくれたか?」
私が色々と考えていることが分かったのか、シュゼットは口端を持ち上げながら私の顔を覗き込むようにした。
「……ええ、楽しそうな研究ね」
その言葉に、研究室内が活気づく。
「では、我らの研究の手伝いをしてくださるのでしょうか!」
「ぜひお願いします!」
「分かったわ。私にできることなら」
皆を見回してからシュゼットに視線を合わせてそう伝えると、シュゼットは嬉しそうに頬を緩めた。
「レーナ、ありがとう。これで研究が進みそうだ」
「今のところ研究はどこまで進んでいるの? 今までも分かっていたような単純な好みによる精霊魔法の変化はないのかしら」
「実は今までも軽く研究されたことがあったんだ。例えば火がある場所で火魔法を使えば水場で使うよりも強い火魔法になるんじゃないか、などの研究だな。しかし結論として変化はないとされていた」
今までも研究されてたんだ。そこで変化がないとなったのに、また研究しようと思ったシュゼットは凄いね。
「改めて研究をした成果は……」
私が問いかけると、シュゼットは自信ありげに頷いた。
「確実に変化はある。ただそこで、他の要因も精霊魔法には絡むことが判明した。先ほど私が述べたような事柄だ。したがってまったくの同じ条件で、一つの条件だけを変更して検証をするというのが難しいのだ。その影響で以前の研究では正確な検証ができず、誤差の範囲ということで変化なしになってしまったのだと推測できる」
確かに気温や匂い、天気なども絡んでくるとなると、検証はかなり難航しそうだ。室内でやるとしても……例えば湿度は日によってかなり変わるし、匂いも人の匂いは食べ物などで変わってしまう。
それこそ条件を揃えるためにできる限り密閉された狭い部屋で、短い時間で何度も精霊魔法を発動できない限り――そういうことか。だから私に手伝って欲しいんだね。
ルーちゃんなら他の精霊と比べ物にならないほど、同じ魔力量でたくさんの魔法を行使できるから、検証には最適なんだ。
それに特別であるルーちゃんに好みがなければ、他の精霊にある可能性は低くなるだろう。ルーちゃんは他とは比べ物にならないほど、意思があるように見えるから。
「これからは他の要因を一つずつ検証していきたいと思っていて、すでに検証を始めている。しかし先ほど述べたようにかなり難易度が高いので、レーナと金色の精霊に検証を手伝ってもらえると凄くありがたい。これからよろしく頼む」
「何をやるべきかは分かったわ。私とルーちゃんで役に立ちましょう」
それからシュゼットを含めた研究員たちに大歓迎を受けた私は、まずは来週以降でリクタール魔法研究院に顔を出す日を決めることになった。
基本的にはシュゼットがここに顔を出す日と合わせて、週に一度ほどだ。シュゼットは週に数回は来るみたいだけど、私はここにもその頻度で来ていたら自分の時間が皆無になってしまうので、週一に抑えてもらった。
「皆は毎日来ているの?」
「はい。シュゼット様が来られない時にも検証を進めたり書類の整理をしたりと、仕事はたくさんございますので」
「そうなのね。ではシュゼットがいない日にここへ来ても大丈夫かしら」
お互いに急用などで予定が合わない時もあるだろうと思ってそう聞くと、研究員の皆はすぐに頷いてくれた。
「もちろんでございます」
それからこの先しばらくの予定を擦り合わせたところで、シュゼットは期待の眼差しをルーちゃんに向けた。
「今日は検証をするというよりも、金色の精霊の魔法を見せてもらってもいいだろうか!」
「ええ、もちろん良いわよ」
断る理由はないのですぐに頷くと、研究室の中が色めき立つ。
「本当か! では向こうの検証部屋に行こう」
それから私とルーちゃんは皆に一通りの精霊魔法を披露して、少し戸惑ってしまうほどの大絶賛を受けた。
そしてリクタール魔法研究院への初登院は、無事に終わりとなった。これからの研究が楽しみだ。
皆様おはようございます。
本日は書籍1巻の発売日ということで、珍しく朝に更新させていただきました!
皆様のおかげで書籍を出すことができました。本当にありがとうございます。
web版を読まれている方は書籍版はどう違うのかが気になると思いますので、書籍版の内容を少し説明させていただこうと思います。
まずは当たり前ですが、全体を通してとても読みやすく改稿されています。
そしてここが重要だと思いますが、書籍でしか読めない書き下ろし番外編が収録されています!
内容はレーナのお父さんとジャックさんが初めて対面するお話です。実はwebではこの二人が会う場面は書いていなくて、この度書籍で書かせていただきました。
結構なボリュームの上、レーナ大好きお父さんが面白いことになっていますので、楽しんでいただけると思います!笑
それから書籍をご購入してくださった方は、購入者限定の特典SSもお読みいただくことができます!
帯裏に付いているQRコードから読めますので、こちらもぜひお楽しみください。内容は規格外なレーナに驚くギャスパー様視点でお届けしています!
またこちらは言うまでもありませんが、素敵すぎるイラストを楽しんでいただけます……!
もう本当にイラストが良すぎて、ぜひ皆様に見ていただきたいです。カラーの表紙や口絵も最高なのですが、挿絵も一つ一つが素晴らしくて……詳しいことは言えませんが、家族皆が尊くてジャックさんがかっこよくてレーナが可愛くてダスティンさんに萌えます笑
ぜひご覧ください!
レーナの物語を書籍でも楽しんでいただけたら嬉しいです。
皆様ぜひ、よろしくお願いいたします!
蒼井美紗