168、シュゼットの研究室へ
リクタール魔法研究院の中は煌びやかな雰囲気はあまりなくて、どちらかというと実用性重視という内装だった。
私的には、なんだか落ち着く建物だ。
「シュゼットは私の案内を申し付けられたの?」
「いや、違うんだ。実はレーナが来るにあたってリクタール魔法研究院にある全ての研究室が集まって、代表者がくじ引きをした。それで当たりを引いたのが私で、優先的にレーナを研究室に招待する権利を得たんだ。だから今向かってるのは、私の研究室だな」
まさかそんなことが繰り広げられてたなんて……ここに来るの面倒だなとか思っててごめんなさい。そんなに待ち望まれてたなんて、ちょっと予想外だ。
「今日は私たちの研究を見て、もし手伝ってくれる気になったら所属してくれたら嬉しい。嫌だと思ったら後ろにずらっと他の研究室が並んでるから、そっちに行くのももちろん構わない」
「分かったわ。どんな研究内容なのか楽しみにしているわね」
「ああ、レーナも絶対にワクワクすると思うんだ!」
確かに第一騎士団の副団長であるシュゼットが、騎士として働いた後にわざわざ研究していることだ。凄く面白そうな予感がする。
「そういえば、シュゼットはどの女神様から加護を得ているの?」
宙に浮かぶ精霊がいくつも目に入ったところで気になって問いかけると、シュゼットは指輪が嵌められた手を掲げて見せてくれた。
「私は火の女神様だ」
「そうなのね……女神様の加護と髪色って、関係があるのかしら」
お父さんとお兄ちゃんは火属性で赤髪で、シュゼットの髪も鮮やかな赤なので、思わずそんなことを呟いてしまった。
「加護と髪色の関係性か……いや、それはないと思うぞ。私はたまたま赤色だが、騎士団には火の女神様の加護を得ていて別の髪色の者も多くいる」
まあ、そうだよね。そんな法則があれば、今までに誰かが気づかないわけがない。
「加護と髪色に相関関係があるなら、分かりやすくて良かったんだけどな。誰がどの精霊魔法を使えるのか、覚えなくても一目で判断できる。騎士になりたての者にはありがたいだろう」
「騎士となったばかりの方以外は、誰がどのような魔法を使えるのか覚えているの?」
「もちろん覚えてるぞ。そうじゃないと、上手く連携もできないだろう?」
確かにそうか……やっぱり騎士って凄いね。今まで漠然と凄い存在だと思ってたけど、実際に第一騎士団の副団長であるシュゼットとこうして話をした事で、より尊敬の気持ちが強くなった。
そんな騎士団との魔法訓練、真剣に頑張ろう。
胸の内で決意を固めていると、横目に映ったレジーヌがシュゼットにキラキラとした眼差しを向けていることに気づいた。
そういえば、シュゼットはレジーヌの憧れの人なんだっけ。私の護衛であるレジーヌが無駄口を叩く事はないから、ここは私が二人の架け橋にならないと、せっかくの機会を逃してしまう。
「シュゼット、実は私の護衛なのだけれど、シュゼットに憧れているのよ。レジーヌと言うの」
レジーヌに視線を向けてシュゼットにそう伝えると、シュゼットの視線が初めてレジーヌに向いた。するとそれだけで、レジーヌは動揺した様子で僅かに頬を紅潮させる。
レジーヌが仕事中にこんなに分かりやすく表情を変えるの、初めて見たかも。
「私に憧れているのか? それは嬉しいな」
「はい! トゥシャール第一騎士団副団長は、とても強くてカッコよくさらに優しく、皆の憧れでございます!」
「ははっ、ありがとう。そう言ってもらえると嬉しいよ」
シュゼットは強いんだ……でもそうだよね。騎士団って実力主義だろうから、そこで副団長まで上り詰めた人が弱いわけがない。
「そろそろ研究室に着くぞ。あそこだ」
レジーヌのことをシュゼットに紹介していたら、研究室に到着したらしい。シュゼットがノックもなしに扉を開くと、中には数人の白衣を着た研究員がいた。
「皆、レーナを連れてきたぞ」
「……おおっ、金色の精霊です!」
「ついに、この目で見ることが叶いました……!」
「レーナ様、ようこそお越しくださいました。さあさあこちらへ」
皆は私のことを待ち望んでくれていたのか、金色の精霊を待ち望んでいたのか、大歓迎で研究室の中へと案内してくれた。
「あっ、ありがとう」
研究室の中は結構広く、しかし大きなテーブルやソファー、棚などには物が雑然と置かれていた。ダスティンさんの工房や研究室もそうだけど、何かを研究してる人たちって片付けが苦手な人が多いのかな……熱中しすぎて片付けを忘れるのかもしれない。
「そこのソファーに座ってくれ。書類は横に退かしてくれればいい」
「分かったわ」
「じゃあさっそくだが、私が研究していることを説明するな」
シュゼットは楽しそうな笑みを浮かべながらそう言って、私の向かいに腰掛けた。