166、嬉しい時間
「そんなことしても良いの……?」
リオネルに顔を近づけて小声で問いかけると、リオネルはすぐに笑顔で頷いてくれた。
「もちろん問題ないよ。ここはオードラン公爵家なんだから、レーナは自由にして良いんだ。もちろん配慮は必要だけどね」
「リオネル……ありがとう!」
思わずリオネルの手を握って、身を乗り出し感謝を伝えると、リオネルは苦笑を浮かべながらも嬉しそうな笑みを見せてくれた。
リオネルと話してると、ついつい素に戻っちゃうから気をつけないと。
「人との縁は大切にした方が良いからね。じゃあアリアンヌ、エルヴィール、私たちは私室に戻ろうか。少し疲れただろう?」
「分かりました」
「戻ります!」
そうして皆が部屋から出ていき、パメラ、レジーヌ、ヴァネッサにも応接室の外で待つように伝えたところで、部屋の中には私とロペス商会の四人だけになった。
そこで私はお嬢様モードは完全にオフにして、ソファーに手を付いて身を乗り出す。
「ギャスパー様、ジャックさん、ニナさん、ポールさん、お久しぶりです……! 他の皆はいないので、今まで通りで良いですよ!」
嬉しさを全く隠せず緩んだ頬のままそう伝えると、まず答えてくれたのはジャックさんだった。
「ははっ、お前は変わらないな」
「そんなにすぐ変わらないよ。ジャックさんも変わらずカッコいいね!」
「そうか? でも貴族にはもっとかっこいい人がいるだろ」
「うーん、ジャックさんみたいなタイプはあんまりいないんだよね」
貴族にいるかっこいい人って、貴公子って感じで色白細身なタイプがほとんどだ。ジャックさんみたいな、日に焼けてるちょっとワイルド系な感じの人はあんまりいない。
兵士になると今度はガタイが良くなりすぎるんだよね。ジャックさんは絶妙に供給が少ないところを突いている気がする。
「そうなのか。じゃあ今を維持しないとだな」
「そうだね。貴族のご婦人・ご令嬢に好意的に見ていただければ、かなりのアドバンテージになる」
笑顔でそう言ったギャスパー様に、ジャックさんは苦笑いだ。
「かしこまりました。ケアを怠らないようにします」
「ふふっ、ギャスパー様も変わりませんね。そうだ、急に呼び出す形になってしまってすみませんでした。準備は忙しくなかったですか?」
「ああ、問題ないよ。それよりもレーナ、本当にありがとう。オードラン公爵家と縁ができたのは、ロペス商会にとって凄く大きいことだ」
「お役に立てたのならば良かったです」
ギャスパー様の表情を見るに、私はロペス商会に恩返しができたみたいだ。ずっといつか恩を返したいと思ってたから、それだけで嬉しい。
「ニナさんとポールさんも変わりませんね。いや、ポールさんは少しだけ痩せましたか……?」
「おっ、分かってくれる? そうなんだよ〜、ちょっとだけお腹周りのお肉が減ったんだ。僕の頑張りかな?」
嬉しそうに口端を緩めながらそう伝えてくれたポールさんに、ニナさんが呆れた表情を向けた。
「今日の訪問に緊張しすぎて、食事が喉を通らなかっただけでしょう?」
「そうだったんですか?」
「ええ、体は大きいのに小心者なのよ」
ニナさんに痩せた理由をバラされて、ポールさんはちょっとだけ拗ね顔だ。
「本当のことを言わなくても良いのに」
「あら、レーナちゃんに隠し事なんてダメよ」
「そうですよ〜」
「ね〜。それよりもレーナちゃん、そのドレスが信じられないほどに似合っているわ! やっぱりレーナちゃんは最高に可愛いわね」
ニナさんが感動の面持ちでそう伝えてくれたのが嬉しくて、私は口元がニヨニヨと動いてしまう。
「ありがとうございます。嬉しいです……!」
「ドレスはたくさん持っているの?」
「はい。信じられないほどにたくさん用意してもらっています。そうだ、ノルバンディス学院の制服も凄く可愛いんですよ。今度ニナさんが来る時には制服で買い物をしますね!」
「それは楽しみだわ」
「定期購入してもらえることになったから、これからもここには来るもんな」
嬉しそうにそう言ったジャックさんに、私は満面の笑みで頷いた。
「うん。それに定期購入だけじゃなくて、普通に果物が美味しい季節とか、他のタイミングでも呼ぶね。ギャスパー様、良いですか?」
「もちろんだよ。こちらからお願いしたいぐらいだ」
「では遠慮なく呼ばせていただきます」
「楽しみにしているよ」
それからも私は皆と楽しく話をして、心がほっこりと温まったところで応接室を後にした。とっても幸せな時間だったな……また皆と定期的に会えるのが楽しみだ。