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165、定期購入とサウ

「これは絶品ですね。甘さが他の果物とは違う種類で、口の中にしつこくなく残ります。また果肉の食感がとても独特で……」


 料理長はさらにメイカを口に含んで咀嚼してから、言葉を選ぶようにして口を開いた。


「少し空気が含まれているような、滑らかではないのですが噛み心地が良い食感がします。これはジュースにするのも美味しいですし、前菜などにも使えるのではないでしょうか。特に葉物野菜などと合う気がいたします。また少し癖の強いオイルなどとも……」


 絶賛しながら料理人スイッチが完全に入ってしまったらしい料理長に、リオネルが苦笑しつつ声をかけた。


「料理長、アレンジを考えるのは後でにしよう。とりあえず、メイカは購入しても良いかな?」

「もちろんでございます! 購入していただけると嬉しいです」

「ではギャスパー、本日持ってきているメイカを全て購入しよう」

「かしこまりました。ご購入ありがとうございます。毎年オードラン公爵家様のために必要な数を確保するため、定期購入という契約もできますがいかがいたしますか?」


 ギャスパー様が何気なく提案した定期購入に、リオネルはすぐに頷いた。ギャスパー様はさすが、こういうところが抜け目ないよね。


「では契約の方は最後に取り交わさせていただきます。続けて他の商品もご覧ください」

「ああ、他も見せてもらおう」

「お兄様! 私はその黒いやつが気になる、です!」


 リオネルが木箱の中に視線を戻したところで、エルヴィールが瞳を輝かせながら黒い枝を指差した。それはサウという、かなりの高級食材だ。


 日本にあったものに例えると……ちょっと違うかもしれないけど、塩と鰹節とトリュフを混ぜて固めたみたいな、塩味と旨味と独特な風味がある調味料だ。


 これが美味しいんだよね。私もほとんど食べたことがないけど、ダスティンさんと魔物素材を買いに行った時に、クレールさんが作ってくれたラスート包みに入っていたのを覚えている。


 公爵家の料理にも入ってるのかな……今まであまり感じたことはない。


「ギャスパー、それはなんだ?」

「サウという調味料でございます。削って少し入れることで、料理がとても美味しくなります。しかし独特な風味があり、特に大人の方に人気の調味料となっております」

「そうか、料理長。うちでは使っているか?」

「いえ、ほとんど使うことはございません。お坊ちゃん方のご年齢ですと、独特の風味を好まない方が多いのです。したがって私が使うときには、基本的に旦那様と奥様の料理にのみ入れるようにしております。そろそろお坊ちゃんの料理には、入れてみてもとは思っていたのですが……」


 料理長のその言葉を聞いて、アリアンヌとエルヴィールが不満げに口を尖らせた。


「私たちも食べたいですわ」

「私もー!」

「ギャスパー、そちらのサウを購入するわ。料理長はサウが合う試食を作りなさい」


 アリアンヌのその言葉にギャスパー様は綺麗な笑みを浮かべ、料理長は苦笑を浮かべつつ頷いた。


「ありがとうございます」

「かしこまりました」


 それから他の品物を見つつ少し待っていると、料理長がワゴンに四つのお皿を載せて戻ってきた。


「お待たせいたしました。アネをサウのみで味付けして焼いたものでございます」


 アネとは肉厚のパプリカみたいなもので、公爵家の食事では素焼きにしたものや、ソルで焼いたものがよく出てくる。皆も食べ慣れているものだ。


「実はアネのソル焼きは、旦那様と奥様のものには少しサウも掛けているのです。今回はいつもお二方が召し上がっているものをお持ちいたしました」

「そうだったのか。……確かにいつもとは少し香りが違うな。いただこう」


 リオネルのその言葉に従って皆でアネを口に運ぶと……私たちの反応は二分された。私はもちろんサウは好きなので、いつものよりも深みがあって好きだ。リオネルも少し首を傾げながら、受け入れてるみたいだった。


 でもアリアンヌとエリヴィールは、かなり苦手らしい。アリアンヌは頑張って咀嚼しているけど、エルヴィールは食べられなかったようで口に含んだアネをそのまま外に戻した。そして侍女がすぐに片付けている。


「……あんまり美味しくない」

「エルヴィールには早かったか。私は美味しく食べられそうだけど、レーナも問題ないかな?」

「ええ、私は元々好きなの」

「そうか。アリアンヌは……無理はしなくても良いんだよ?」


 顔色が悪いアリアンヌにリオネルが声をかけると、アリアンヌは首を横に振って、なんとか飲み込んだ。しかしすぐに侍女によって、口直しのお茶を手渡されている。


「アリアンヌ、メイカも食べたら良いわ」

「お姉様、ありがとうございます……」


 それからアリアンヌが回復したところで、サウの試食は終わりとなった。これからは私とリオネルの食事にも、サウを使ってくれるらしい。アリアンヌとエルヴィールはもう少し大人になってからだ。


「美味しく食べることができなくて、悔しいわ……ギャスパー、次はそちらの調味料はどのようなものなの?」


 それからはアリアンヌが調味料の試食にハマり、私たちはたくさんの料理を食べつつ、端からロペス商会の商品を購入していった。

 そして調味料と野菜、さらにはお肉まで定期購入の契約をしたところで、買い物は終了だ。


 ギャスパー様は予想以上の成果だったのだろう、最初よりも深い笑みになっている。これからロペス商会は、貴族に引っ張りだこになるかもしれないね……なにせオードラン公爵家贔屓の商会になったんだから。


「ではギャスパー、本日はありがとう。とても楽しかった」

「こちらこそ、我が商会をお引き立てくださりありがとうございました。これからもよろしくお願いいたします」

「これからも期待しているよ」


 そこでリオネルはギャスパー様から私に視線を向けると、公爵家子息の笑顔というよりは、素に近い笑みを浮かべた。


「じゃあレーナ、私たちはここで退席するから、昔の仲間と話をしたら良いよ。侍女と護衛は外にいれば十分じゃないかな?」


 それって……皆と私だけこの部屋に残って、自由に話して良いってこと!?

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