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163、久しぶりのロペス商会

 入学から数日が経過し、学院での生活にやっと少し慣れてきた頃。私は学院の講義が終わると、リオネルと一緒に急いで屋敷へと戻った。


 なぜなら今日は……ロペス商会がオードラン公爵家にやってくる日なのだ。久しぶりに会える嬉しさと、立場が変わってしまった寂しさと、短期間で準備が整えられたのかに対する心配と、そんな気持ちが混ざってなぜかとても緊張している。


「レーナお嬢様、お召し物はこちらでよろしいでしょうか」


 パメラが示してくれたのは、派手すぎないけどとても品の良いドレスだ。大人っぽい印象で、着るとレーナの美人が際立つやつ。


「うん。大丈夫」

「かしこまりました。ではお召し替えをいたしましょう」


 制服からドレスに着替えて髪型も整え直してもらったら、後はロペス商会がやって来る時間を待つだけだ。まだ少し余裕があったのでパメラにお茶を淹れてもらい、皆と話をして緊張を紛らわせることにした。


「平民街の第二区にある新興の商会が、公爵家に呼ばれるって普通はあること?」

「いえ、私は聞いたことがございません」


 そう答えてくれたのはパメラだ。続いて入り口の近くに待機しているヴァネッサが、顎に手を当てて昔のことを思い出しながら答えてくれた。


「確か私の実家では、以前に一度だけあったはずです。しかしそれはラングマン侯爵家が贔屓にしていた商会の手配によるものでしたので、今回とは少し違うかもしれません」


 やっぱり普通はあんまりないことだよね。ギャスパー様たち今頃緊張してるのかな……というか、今日って誰が来るんだろう。

 ジャックさんやニナさん、ポールさんが来てくれたら嬉しいな。


「そういえば、ロペス商会の人たちにはどうやって接すれば良いのかな。やっぱり公爵家子女として?」

「はい。公爵家子女としてのレーナお嬢様と、公爵家に呼び寄せられた商会の者たちという関係性で話されるべきでしょう。特に本日はお嬢様だけではなく、皆様も同席されますので」


 確かにそうだよね。リオネルとアリアンヌ、エルヴィールもいる予定なんだから、公的な場としてしっかりしないと。その方がギャスパー様たちも混乱しないはずだ。


 ギャスパー様たちに敬語を使わない、ジャックさんに親しく話しかけすぎない。そんなことを心の中で唱えつつ待っていると、ついに時間がやってきたらしい。


 パメラ、レジーヌ、ヴァネッサの三人を連れて私室を出て、まずはリオネルたちと合流するために談話室へと向かう。


「あっ、お姉様」

「レーナ、やっと来たね」

「待ってたよ!」


 中に入るとすでに三人とも準備万端で待っていて、期待に瞳を輝かせていた。私の元職場の人たちに会うのをここまで楽しみにしてくれるなんて、可愛い子たちだよね……なんだか兄妹というよりも、母目線になってしまう。


「待たせてごめんね」

「もう、遅いですわ。早く行きましょう」

「アリアンヌは凄く楽しみにしていたんだ。レーナのことをもっと知りたいんだよ」


 リオネルが小声で伝えてくれた言葉は僅かにアリアンヌの耳にも届いたようで、アリアンヌは頬を赤くすると私に対して首を何度も横に振った。


「べ、別にそういうわけではありません。ただ少し気になるというか、新しい商会に期待しているだけですわ」

「ふふっ、そうなのね。ロペス商会を気に入ってもらえたら嬉しいわ」


 なんだかほっこりするそんなやりとりをしてから、私たちはロペス商会の皆が待っているという応接室に向かった。

 入り口から入ってすぐの場所に、四人が跪いているのが視界に映る。まだ顔を上げてないけど、ギャスパー様とジャックさん、ニナさん、ポールさんだ。


 そこまで長い間会ってないわけじゃないけど、凄く久しぶりで懐かしい気がして頬が緩む。

 部屋の奥にある上座のソファーに皆で腰掛けたら、私が代表して声をかけた。


「待たせたわね。顔を上げて良いわ」


 その声に従って顔を上げた皆は少し緊張しているようだったけど、記憶にある通りだった。ジャックさんは僅かに笑みを浮かべてくれている。


「急に呼んでしまってごめんなさい。来てくれて嬉しいわ」

「いえ、当商会にお声がけ下さり、大変光栄に思っております」

「今日は皆のことを紹介したいのと、商品もいくつか見せてもらおうと思っているわ。まずは……紹介からしましょうか。皆、一番前にいる方がギャスパーと言って、ロペス商会の商会長よ」


 私のその言葉に、ギャスパー様が柔らかい笑みを浮かべながら頭を下げた。


「ギャスパーと申します。よろしくお願いいたします」

「君が商会長か。随分と若いんだね」

「ロペス商会は私が立ち上げた商会でして、まだ新しい組織でございます。しかし新しいからこそ既存の枠に囚われない、皆様に喜んでいただける商品を取り揃えていると自負しております」


 リオネルの言葉に、ギャスパー様はさらっと完璧な返しをした。ギャスパー様って優秀な人だとは思ってたけど、公爵家に来てもこうして振る舞えるんだから思っていた以上なのかも。やっぱりギャスパー様は凄いね。


「それは楽しみにしているよ」

「では次の方を紹介するわね。次はギャスパーの隣にいる男性で、名はジャック。私と一番関わりが深かった商会員よ」

「そうなのですね。ジャック、商会で働いてる時のお姉様はどのような様子だったのかしら」

「レーナ様は……とても優秀で、ロペス商会にはなくてはならない存在となっておりました」

「そうなのね! お姉様がしていたお仕事は、具体的にはどのようなものか教えて欲しいわ」


 それからはいつになく楽しそうなアリアンヌがジャックさんにたくさんの質問をして、ニナさん、ポールさんのことも皆に紹介した。

 そしてエルヴィールもロペス商会の皆と話をしたところで、やっと全員の紹介は終了だ。

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― 新着の感想 ―
[一言] やっとのロペス商会、楽しみです。
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