151、教室へ
豪華な食堂で昼食を食べてから、私とリオネルは指定された教室へ向かった。
食堂のご飯はそこまで豪華ではなかったけど、とても美味しくて量も十分で、大満足の内容だった。公爵家の食事より華やかさは劣るけど、味はあまり変わらないって感じかな。
「食堂のご飯、美味しかったね。意外と楽しめたよ」
食べる前は皆に注目されて緊張で味を感じないんじゃないかと思っていたけど、皆も食事に集中していたのでそこまで居心地は悪くなかったのだ。
「そうだな。いくつかの中から選べるのも楽しくて良かった」
「毎日違うものを食べて、全種類制覇したいよね」
日本の大学の学食感がほんの少しだけあって、なんだか懐かしさを摂取できたのも良かった。まあ食堂内の内装は豪華すぎて、大学とはかけ離れていたんだけど。
「レーナ、そこを右だ」
「はーい。もう皆は教室にいるのかな」
「下位貴族の者たちは素早く食事を終えて食堂を出ていたから、すでに教室で待機しているだろう」
「やっぱりそうだよね」
最後に食堂に入って最初に教室へ向かわないといけないなんて、大変だよね……別に気にしなくて良いよって言ってあげたいけど、これが貴族社会の慣習なら仕方がない。
「あっ、あそこかな」
「そうだな」
「ここからはお嬢様モードにしないと――よしっ、リオネル、行きましょう」
優雅な微笑みを浮かべてリオネルに視線を向けると、リオネルは私の顔をじっと見つめてから、楽しそうに笑い出した。
「ふふっ、はははっ、なんだかもう、そっちのレーナに違和感を覚えるようになってしまったな」
「ちょっとリオネル……教室では笑わないでよね? 頑張ってるんだから」
「それはもちろん、ちゃんとするよ」
「よろしくね?」
リオネルは分かったと頷きつつ、まだ笑いを噛み殺している。確かに私も、お嬢様モードは違和感あるなと思ってるけどさ……
「というかリオネルも、最近は結構素を出してるよね? 最初はもっといかにも良い子です! って感じだったよ」
「……そうかな? もしかしたらレーナの影響を受けてるのかも。でも私は大丈夫、ちゃんと公爵家の嫡男になれるから」
そう言って下を向いたリオネルは、顔を上げたらもう、優しげな笑みを浮かべた完璧な公爵家嫡男になっていた。
「ではレーナ、皆が待っているよ。行こうか」
「……ええ、そうね。待たせるのは良くないわ」
私もリオネルに乗ってお嬢様モードになり、笑顔で頷いた。
そうして私たちが教室に向かうと、すでに他のクラスメイトは全員が集まっていたようだ。
テーブルに誰の席なのか名前が書かれた紙が置いてあり、私とリオネルの席は一番前の真ん中だとすぐに分かる。
リオネルの左隣の席に腰掛けると、椅子のクッション性に驚いて思わず体をビクッと動かしてしまった。
学校の椅子って固いものだと思ってたけど、よく考えたら貴族が通う学校なんだから椅子にもお金を掛けるよね。
「本当に金色の精霊だ」
「創造神様の加護を得たというのは本当なのね……」
「話しかけても良いのかしら」
「俺たちみたいな下位貴族はダメだろ」
席に腰掛けて落ち着くと、クラスメイトたちの囁き声が耳に届いてきた。大きな声で騒いでいる人はいないけど、小さな声で隣の席の人と会話をしている人は多くいるらしい。
やっぱり話題は私だよね……このクラスで浮かずに皆と仲良くなれたら良いんだけど。
「レーナ様、お初にお目にかかります。お声がけしてもよろしいでしょうか?」
これからのことを考えて少し緊張していたら、リオネルとは反対の左隣に腰掛けている女の子が声を掛けてくれた。
ふわふわの長い茶髪を可愛らしく飾っている、花のようなという形容詞が似合うような可憐な子だ。
「もちろんよ」
「ありがとうございます。私はグーベルタン伯爵が娘、メロディと申します。よろしくお願いいたします」
「私はレーナ・オードランよ。仲良くしてもらえると嬉しいわ」
確かグーベルタン伯爵家は、オードラン公爵家と良好な関係だったはず。この子とは仲良くなれるかも。
「レーナ様のお噂はたくさん聞いておりましたが、とても可愛らしいお方だったのですね。金色の精霊とレーナ様の金髪がとても合っておりますわ」
「ありがとう。メロディもとても可愛いわ」
私のその言葉を聞いて、メロディはふんわりと微笑んだ。こういう笑顔が貴族子女として求められてるんだろうね……
「ありがとうございます。ノルバンディス学院の入学初日だということで、侍女たちが張り切ってくれたのです」
嬉しそうな笑みを浮かべて頬に手を添えたメロディの可愛さに感心していると、教室の扉が開いて四十代ぐらいに見える女性が入ってきた。
この人がAクラスの担当教授なのかな……なんだか安心するような、優しい雰囲気が漂っている人だ。