150、クラス発表
ダスティンさんは緊張しているのか教授になるのが嫌なのかよく分からないけど、眉間に皺を寄せてなんだか怖い表情だった。
「ふふっ……」
その顔に思わず笑いが溢れてしまい、慌てて口を押さえる。
ダスティンさんって笑顔は分かりづらいけど、不満げな表情は一発で分かるよね。平民街で長年暮らしていたから、表情を隠す精度が下がっていたりするのだろうか。
「では左端から挨拶をお願いします」
「分かりました。私は王国史が専門で――」
それから何人もの教授たちが名前と自分の専門分野に関する紹介をして、ついにダスティンさんの順番が回ってきた。
「私はダスティン・アレンドールだ。魔道具研究を専門にしていて、皆には魔道具作成の講義で会うことになるだろう。よろしく頼む」
仏頂面の少し怖い雰囲気のまま挨拶を終えたダスティンさんだったけど、アレンドールという名前が発された瞬間に、生徒たちの間でざわめきが生まれた。
今までずっと公の場に姿を現さなかったから、ほとんどの人たちは顔を知らなかったんだろう。でもこれで皆に顔が知られることになったから、もうどこに行っても注目を浴びることになるね。
ダスティンさん……頑張ってください。
「レーナは第二王子殿下に魔法の検証をしていただいてるんだったよね?」
「そうだよ。ちょうど数日前に一回目の検証をしたところ」
「怖い人では……ない?」
「ふふっ。うん、大丈夫だよ。全然怖くない」
心配そうな表情のリオネルに思わず笑ってしまい、安心してもらおうとすぐに頷いた。やっぱりダスティンさんは初対面の印象だけだと、ちょっと怖く見られちゃうんだね。
「そっか。あっ……こちらをご覧になってるかも」
急にリオネルが緊張の面持ちで背筋を伸ばしたので壇上に視線を戻すと、ダスティンさんが私たちのテーブルに視線を向けていた。
確かに……交流がなくて第二王子殿下というほぼトップの身分で、さらにあの表情だと怖がられちゃうのも無理はないか。
ダスティンさんが学生たちに怖がられないように、もう少し笑顔を作るようにと伝える意味も込めて笑いかけてみると、ダスティンさんの眉間の皺が少しだけ濃くなった。
違う違う、逆ですダスティンさん。
私の笑顔を見て眉間に皺を寄せるなんて酷いよね……そう思って少しだけ不満げな表情を作ると、今度はダスティンさんの表情が少しだけ柔らかくなった。
だから、なんで逆なんですか!
そんなことをしていると他の教授たちの挨拶も終わったようで、壇上にずらりと並んでいた数十人の教授たちは自分の席に戻っていった。
副学長がまた壇上に上がり、今度はなんだか大きなボードが壇上に設置される。そのボードには布が掛かっていて……
「次はクラス分けの発表を行います。ノルバンディス学院は各学年ごとに二つのクラスがあり、AクラスとBクラスと呼ばれます。クラスに上下はないので、どちらに配属されても落ち込む必要はありません。基本的に講義はクラス単位で受けることが多いため、クラスの仲間たちとは交流を深めるようにお願いします。……ではさっそくクラス分けを発表します」
副学長のその言葉でボードの後ろに控えていた数人の男女が布を引き、ボードに貼られた紙が露わになった。
「後ろの方たちは見えないと思うので、私が上から名前を読み上げます。まずはAクラスから」
私とリオネルは……あっ、あった。Aクラスみたいだ。他の同級生の名前も端から見ていくけど、家名に聞き覚えがある程度で、名前を見ただけでは何も分からない。
やっぱり実際に接してみないとだよね。まずは高位貴族の子たちから話をするとして、確かあの家名は侯爵家であっちは伯爵家だから、この二人から仲良くなれるのか挑戦してみようかな。
「……以上でクラス分けの発表は終わりです。では今後の予定ですが、まず皆さんには食堂で昼食をとっていただきます。そして午後は各クラスの教室で担当教授から学院の説明を聞いてもらい、今後の講義に関する話、また生徒それぞれの自己紹介や生徒同士の交流などもしてもらうことになるでしょう。そのつもりでいてください」
これからも予定が盛りだくさんだね……というか、どちらかというと本番はこれからだ。
「では食堂の場所を説明しますが、この建物を出ていただいて――」
それから食堂の場所を聞き、入学式は完全に終わりとなった。なんとなく暗黙の了解のような形で高位の貴族から大ホールを出ることになったので、一番は私とリオネルだ。
凄い数の視線を感じながら優雅さを意識して歩き、ホールから出たところでほうっと息を吐いた。
「大丈夫?」
「うん、なんとか……でもやっぱり多くの人に注目されるのは慣れないよ」
「食堂では注目されながら食事をしないといけないよ?」
うわぁぁ、確かにそうだよね。しばらくは味を感じられない食事になりそうだ。
というか私の食事作法、大丈夫かな。ここまで見られるとなると細かいところまで粗探しをされそうで、自分の作法が心配になってくる。
「リオネル、もし私が変なことをしてたら教えてね」
「分かった。でもレーナは大丈夫だよ」
リオネルのその言葉に少し勇気をもらい、私たちは食堂に向かって歩みを進めた。