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143、リオネルと秘密の話

 リオネルの寂しそうな表情はすぐに消えて、にこやかな笑みに戻ってしまった。しかし私の瞳には、さっきの表情がバッチリと記憶されている。


 もしかして、好きな人がいるのかな……!


 自分の恋バナには戸惑うくせに他人の恋バナは楽しいので、一気に気分が浮上した。あんまり聞かれたくないかもしれないけど……少しなら良いよね?

 だって婚約者になるなら、避けては通れない話だ。


「私はレーナと婚約するとしても、全く問題ないよ」

「……本当に? 今ちょっと寂しそうな表情をしなかった?」


 何気なく聞こうと思ったけど、どうしてもワクワクしてしまい声音が少し上擦った。するとそんな私の声に気づいたのか、リオネルが苦笑を浮かべつつ口を開く。


「レーナ、楽しんでない?」

「そ、そんなことないよ。ただちょっと気になったというか、誰かに話したら楽になるんじゃないかなと思ったというか……」


 お嬢様らしさなんて完全に消えてしどろもどろにそう答えると、リオネルは楽しそうに笑い始めた。


「ははっ、レーナ、今までと態度がかなり違うけど」

「うぅ……それはちょっと見逃してくれない? これが素の私なの。いつもは公爵家の子女らしくあろうと頑張ってるんだけど、今ぐらいは良いよね? リオネルの話が気になっちゃって!」

「まあ、公の場じゃなければ良いと思うよ。そっちの方が可愛らしいし」


 そう言って笑うリオネルは、なんだかとても大人びている。これは学院でモテるだろうな……この顔に性格に、さらには公爵家の嫡男だ。


 私にとってはやっぱり、まだまだ子供だなと思ってしまうんだけど。


「ありがとう。それで、私に話してくれるの?」

「何の話を?」

「もう、はぐらかすのは無しだよ」

「……これ、誰にも話したことないんだ」

「誰にも話したことない片想いってこと……!?」


 アリアンヌたちに聞こえないよう小声で叫び、リオネルに顔を近づけた。

 すっごく気になる。気になりすぎる。


「そういうこと、になるのかな?」

「なるよ、なる」

「でも、これが恋心なのかは微妙なんだけど……」

「ううん、それは恋心だよ。好きな人って聞いて頭の中に思い浮かんだ人がいたら、思いの強さはあれどその人は好きな人だから」


 そんな持論を伝えつつリオネルの瞳を覗き込むと、リオネルは少しだけ照れくさそうに人差し指で頬を掻いた。


「……そうなんだ」

「うん、私の持論だけど結構当たってると思うよ。……それで、頭に思い浮かぶ人はどんな人なの?」


 もう一度しっかりと問いかけると、リオネルは躊躇いつつも口を開いてくれた。


「誰にも言わない?」

「もちろん!」

「じゃあレーナにだけ教えるけど……この屋敷に私兵がいるのを知っているでしょう? その中の一人なんだ」

「え! 私兵なの!?」


 まさかこの屋敷にいる人なんてと驚き声を上げると、リオネルにシーっと顔をより近づけられた。


「ごめんごめん。それで……女の人だよね?」

「そうだよ。リディ・ラルエットって名前。綺麗な青髪をポニーテイルにしてるんだけど、見たことあるんじゃないかな」

「……分かった、あの人かも。キリッとした目元で胸が大きくて、背が高くてカッコいい人? 素敵な女性だなって目を惹いたんだよね」

「多分その人」


 そうかぁ……あの人か。リオネルはかっこいい女性がタイプなんだね。貴族女性にはあまりいないタイプな気がする。

 あっ、でも家名があるってことは、あの人も貴族家の生まれなのか。


「ラルエットって爵位は?」

「伯爵家だよ。そこの三女なんだって」

「おおっ、色々と知ってるんだね」

「……それは、まあ」


 リオネルは照れたように頬を赤くすると、私から少しだけ視線を逸らした。


 リオネルが可愛い……!


「何歳なの?」

「十八歳だと思う」

「じゃあ六歳差だね。全然ありだよ!」

「え、応援してくれるの?」


 瞳を見開いたリオネルの表情を見て、公爵家嫡男と私兵になっている伯爵家三女の恋は、普通は応援されないものなのだと分かった。


 でも平民の女性じゃないんだし、まだ可能性はありそうだって思っちゃうけど……


「私は応援したくなっちゃうんだけど、ダメなのかな?」

「うーん、かなり難しいことは確かかな。伯爵家は少し爵位が低すぎるのと、私の妻になってもらうには公爵夫人になってもらわないといけないから……」


 確かにそうか。もしリオネルの恋が実るとすれば、その時はリディさんが私兵をやめないといけないんだ。


「リディさんは私兵になりたくてなったのかな」

「それは分からないけど、戦うのが好きだとは聞いたかな。誰かを守る仕事にはやりがいがあるって」

「……カッコ良い人だね」

「そうなんだ」


 リオネルは私の言葉に、嬉しそうに頬を緩ませ頷いた。色々と難しいんだろうけど、リオネルの恋が実ったら良いな。


「これからどうなるかは分からないけど、私は応援するよ! もしかしたらリディさんが、公爵夫人になっても良いってほどにリオネルのことを好きになってくれるかもしれないし」

「……ありがとう。嬉しいよ」


 そう言って照れくさそうに笑うリオネルは、年相応の少年だった。なんだか思わぬ話からリオネルと仲良くなれたね。


「リオネル、学院でもよろしくね」

「こちらこそ、これから長い付き合いになると思うけどよろしく」


 私とリオネルは秘密を共有したことで一気に距離が近づき、笑顔で握手を交わした。

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