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141、兄弟でおやつの時間

 今日はアリアンヌたちと約束をした、クルネを楽しむお茶会の日だ。

 数日前にアリアンヌからとても可愛らしい招待状が届き、私は朝からお茶会のために準備をしている。


「お茶会の時にはここまで豪華に着飾るのね」

「はい。お茶会とは社交の場ですから。兄弟間でのお茶会ではもっとラフなものもありますが、今回はレーナお嬢様のためにアリアンヌお嬢様が招待状を用意してくださいましたから、しっかりと準備をいたしましょう」


 そういうものなんだ……お茶会での社交、これからやる機会が増えるんだろうな。私にできるのか不安だけど、頑張らないと。


「ノルバンディス学院でもお茶会が開かれることはあるの?」

「そうですね……学院内には侍女や侍従など使用人は連れていけませんので、中でお茶会が開かれることはあまりございません。しかし学院で招待状をやりとりし、それぞれの屋敷でお茶会が開かれることはあるでしょう」

「屋敷に招待する形なんだ」


 私も招待状をもらうことがたくさんあるんだろうな……フィス夫人の授業によると、どのお茶会に出席するのかどうか、そこからすでに社交は始まっているとのことだった。


 まだ私では完璧な判断はできないから、持ち帰ってお養母様やお養父様に聞かないと。その場で返事を求められたら躱せるようにしないとね……。


 学院内では考えないといけないことが多くて大変だ。


「お嬢様、お髪はこちらでよろしいでしょうか」

「うん。ありがとう」

「ではそろそろお時間ですので、庭園へと向かいましょう」

「分かったわ」


 お嬢様モードにするためにも口調を変えて、優雅さを意識して立ち上がった。

 今日のお茶会の会場は屋敷の庭園にある東屋だ。とても綺麗な花が咲き誇る中にある東屋は、何度か散歩で行ったけどとても綺麗だった。


 あそこで皆と話をしながら美味しいお菓子を食べるなんて、絶対に楽しいと思う。皆ともっと仲良くなれると良いな。


「ヴァネッサ、レジーヌ、護衛をよろしくね」

「かしこまりました。安心してお楽しみくださいませ」

「ありがとう」


 三人を連れて庭園に向かうと、そこには既に主催者のアリアンヌが待っていた。私とほぼ同じタイミングでリオネルもやって来て、エルヴィールはまだみたいだ。


「レーナお姉様、リオネルお兄様、ようこそお越しくださいました」

「アリアンヌ、本日は素敵なお茶会への招待をありがとう」

「とても素敵な東屋だね。このテーブルクロスが目を惹くよ」


 私とリオネルの言葉を聞いて、アリアンヌはとても綺麗な笑みを浮かべて席を勧めてくれた。


「本日のお茶会はムーリンの青花をテーマにしておりますの。楽しんでいただけると嬉しいですわ」

「とても綺麗なお花だわ」

「よく咲いているものを最後にお持ち帰りください」


 頭をフル回転させ習ったことを総動員して、なんとかアリアンヌとリオネルに付いていけるように、会話を進めていく。


 それからも二人と雑談を交わしていると、少し遅れてエルヴィールがやって来た。エルヴィールは私たちとのお茶会がよほど嬉しいのか、頬を赤く染めて瞳を輝かせている。


「おまたせしました! とっても綺麗!」


 エルヴィールが来たことで本格的なお茶会の雰囲気を変えることにしたのか、アリアンヌがピシッと伸ばしていた背筋から力を抜いた。


「……お姉様、少しはお茶会の勉強になりましたか?」


 もしかして、そのために会話までしっかりとこなしてくれたのだろうか……アリアンヌ、本当に良い子だ。

 そしてそれに乗ってくれるリオネルも、もちろんエルヴィールも。


「ありがとう。とても役に立ったわ」

「……そ、それなら良かったです」


 私のストレートな言葉が恥ずかしかったのか、アリアンヌはふいっと横を向いてそんな言葉を口にした。


「じゃあ、ここからは兄弟だけだしのんびりとお茶会をしようか。さっそくクルネを食べる?」


 リオネルが穏やかな笑顔でそう告げたことで、アリアンヌが侍女に指示を出してすぐにお茶やお菓子が運ばれて来た。

 テーブルいっぱいに並べられるお菓子は、思わず叫びたくなるほどに壮観で可愛らしい。


 この様子を写真に収めたい……! 久しぶりにそんなことを思った。


「ではそれぞれ好きなものから食べましょう。お姉様、実際の社交のために開かれるお茶会では、食べる順番も大切ですからね」

「うん、そこはフィス夫人に教えてもらったから、また復習しておくよ」


 丁寧にお茶会の作法を教えてくれるアリアンヌに感謝を伝えるために笑いかけ、それからテーブルの上のお菓子にまた視線を向けた。


 まずはクルネにするのは確定だけど、上に掛けるジャムは迷うな……どれもとても美味しそうだ。でも今は爽やかな風味を味わいたい気分だから、少し酸味があるものが良いかもしれない。


「私はクルネにミルカのジャムを掛けるわ。アリアンヌはどうするの?」


 ミルカとは蜜柑に似た柑橘系の果物だ。爽やかな甘さがとても美味しい。


「私はベルリのジャムにします。……お姉様がお好きだと仰っていたので」


 え、私が好きだからそれを食べてみるってこと……? どうしよう、アリアンヌが可愛すぎる。今すぐに抱きついて頭を撫で撫でしたい。


 でもそんなことをしたら、また近づいて来てくれなくなっちゃうかもしれないから……ここは強い心で我慢だ。私頑張れ! 辛いけど我慢だよ!


「ありがとう。私もミルカの後にアリアンヌのおすすめジャムを食べようかしら」

「私はどれも好きですが、よく食べるのはカミュのジャムです」

「そうなのね。では次はカミュにするわ」


 カミュのジャムって、今まで食べた経験がないかもしれない。葡萄に似た味だけどジャムにしても美味しいのだろうか。

 よくジャムにされるのは、いちごに似た果物のベルリが多い。


「私はメーリクを食べようかな」

「私はクッキーにする!」


 リオネルとエルヴィールも好きなお菓子を取ったところで、楽しいお茶会は開始された。

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