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139、久しぶりのダスティンさん

「これからレーナの精霊魔法について話をするため、皆は下がってくれるか?」


 王太子殿下のその言葉一つで、部屋の中にいた私たち三人以外の皆が一斉に部屋から出ていった。人払いなんてできるんだと感心していると、ダスティンさんが大きく息を吐き出す。


「はぁ……やはり疲れるな」

「まだ王宮に戻ってきて数日だからだろう。そのうち慣れる」

「そうだと良いんだが……これだと体が保たん」


 二人は仲が良い様子でそう会話をすると、ほぼ同じタイミングで私に視線を向けた。


「レーナ、久しぶりだな。兄上は全てを知っているから、この場ではいつも通りで良いぞ」

「……良いのですか?」


 素直に受け入れても良いのか悩みながら王太子殿下に視線を向けると、殿下はにっこりと笑みを浮かべながら頷いてくれた。


「もちろん構わないよ。二人は仲が良かっただろう? ダスティンが誰かと親しくなるなんて珍しいから、二人のやりとりを見てみたかったんだ」

「とりあえず、そういうことだから気にしなくて良い」

「……分かりました。では今まで通りにしますね。ダスティンさん、お久しぶりです」


 私がそう言って挨拶をすると、ダスティンさんはじっと私の顔を凝視してから僅かに微笑んでくれた。


「まずは元気そうで良かった。特に問題は起きていないか?」

「はい。すっっっごく大変ってこと以外には起きてないです」


 ことさら大変だということを強調すると、ダスティンさんは面食らった表情を浮かべて首を傾げた。


「そんなに大変なのか? レーナならそこまで苦労はしないと思うが」

「します! ダスティンさんの中で私がどれほど凄い人認定されてるのか分かりませんが、私はスラム生まれスラム育ち、街中にいたのだって二年弱なんです。そんな私に貴族の子息子女が何年もかけて学ぶことを、たった十日と少しで身に付けろって言われても……普通無理ですよね! 礼儀作法だって敬語だって今までの癖もあるし、直すのは一苦労なんです……!」


 ここ数日、誰にも言えなかった不満を思わずぶちまけてしまった。するとダスティンさんは珍しく分かりやすい苦笑を浮かべ、立ち上がって私の頭をポンっと一度だけ撫でてくれる。


「まあ、頑張れ。なんだかんだ言いつつ、レーナならできるだろう」

「うぅ……無責任なはずなのに、褒められて嬉しい自分が嫌だ」


 それにダスティンさんにできるって言われると、本当にできる気がしてくるから不思議だ。


「はははっ、二人は本当に仲が良いんだね。ダスティンの笑顔なんて久しぶりに見たよ」

「あっ……王太子殿下、お見苦しいところをお見せして、申し訳ございません」

「いや、気にしないで。私のことも私的な場ではベルトランで良いよ。ダスティンばかり仲が良いのも悔しいからね」


 王太子殿下……改めベルトラン様はそう言うと、私に向けて完璧な笑みを浮かべた。なんだかこの人って優しくて物腰柔らかいんだけど、本心が分かりづらい人だね。

 いや、将来の国王としては大切なポイントなんだろうけど。


「では、ベルトラン様とお呼びさせていただきます」

「……あれ、なんだか警戒されてる?」


 え、そんなことまで分かるの!?


「兄上はその笑顔が怖いんだ。私の無表情より兄上の感情が読めない笑顔の方が怖いはずだ」


 ダスティンさんの指摘に、思わず頷いてしまった。ベルトラン様の笑顔なら、ダスティンさんの無表情の方がマシだ。


「これは癖なんだよね……これで良いかな」


 おおっ、今度は本当の柔らかい笑顔になった。さっきまでの怖い感じも全くない。


「それならば、怖さは感じないです」


 不敬にならないかと不安に思いながらそう伝えると、ベルトラン様は特に怒ることもなく嬉しそうに頷いてくださった。


「ではさっそくだけど、魔法の検証について日程を決めようか。検証場所も決めないとね」

「そうだな。レーナはいつが暇なんだ?」

「私に暇な時間があまりないんですけど……あと数日ほど経てば勉強方針にも目処がつくと思いますので、その後にしていただけるとありがたいです」


 アリアンヌたちとのお茶会予定は二日後だから、それを過ぎれば動かせない予定はないはずだ。


「分かった。では初回の検証は五日後でどうだ? その日は私も一日空けられる」

「五日後ですね。分かりました」


 帰ったらすぐパメラに話をして、予定を調節してもらおう。


「場所はどこになりますか?」

「そうだな……やはり王宮にある騎士団の訓練場が一番だろう。小さな訓練場を借りておく」

「ありがとうございます。私はリューカ車で王宮に来れば良いのでしょうか」

「ああ、入り口にクレールを行かせるから、その案内に従って訓練場まで来てくれ」

「クレールさん! またお話しできるでしょうか」


 さっきまでダスティンさんの後ろに控えていたけど、侍従に視線を向けるわけにもいかず、声を交わすどころか会釈することもできなかったのだ。

 そこまで仲良しってわけじゃないけど、平民街にいた私を知っている数少ない人物だし、また話をできたら嬉しい。


「できるんじゃないか? 魔法の検証は私とレーナ、それからクレールの三人で行う予定だ。レーナの侍女と護衛には外で待機をしてもらう」

「そうなのですね。検証が楽しみです」


 また三人で話をできる時間があるなんて嬉しいな。今のこの時間を作ってくださったのも陛下だし、私に対して色々と配慮してくれてるのだろう。本当にありがたい。

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