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13、異端な少女(ジャック視点)

 俺は暗くなってきたところで今日の店は終わりにして、手早く荷物を片付けたら荷車を引いて外門に向かった。外門で市民権を持っていることを証明するカードを見せて中に入ると、もうすっかり空は暗い。


「今日はギャスパー様に話があるから早く帰らねぇと。ギャスパー様がいなかったら、本店で働く先輩達に話をすればいいよな」


 それにしても面白い女の子だったよな……レーナだったか。ギャスパー様がどんな反応をされるのか楽しみだ。あの計算能力は本当に凄かった。俺としては働いてくれたらありがたいな……俺は計算が苦手なんだ。


 レーナのことを考えつつ門前広場を抜けて大通りに入り、人々の流れに乗って街中を進んでいく。ロペス商会はまだ新興の商会だから外壁に近い場所に本店があるけど、大通りに面しているいい立地だ。

 こんなに立派な商会に雇ってもらえたなんて、俺も運がいいよな。ギャスパー様には感謝してもしきれねぇ。


 そこかしこに魔道具である光花が設置されていることから明るい大通りを順調に進んでいくと、一際明るい建物が目に入った。ロペス商会の本店だ。街中のお店はまだしばらく開いているので、明るくてお客さんも大勢入店しているのが見える。


 俺はそんな様子を横目に本店の裏口に回り、荷車から荷物を下ろして裏口のドアを開けた。


「ただいま戻りましたー」

「お、ジャックお疲れ。今日はどうだった?」


 同僚の一人がちょうど休憩中だったようで、俺に気づいて話しかけてくれた。


「今日もかなりの売れ行きだったぜ。ただギャスパー様に一つ報告があってよ、今日はいらっしゃるかな?」

「そうなのか? 確かギャスパー様ならさっき商談から帰られて、商会長室にいると思うぞ」

「そうなのか。じゃあちょっと行ってみる」


 俺は荷物を倉庫に片付けてから、階段を上がって二階にある商会長室に向かった。ドアをノックすると中から声が聞こえてくる。


「ジャックです。ご報告があるのですが……」

「入って良いよ」

「ありがとうございます。失礼します」


 快い返事をいただけたのでドアを開けると、ギャスパー様は机に向かって何か書き物をされていた。いつも忙しそうで凄いよな。


「どうしたんだい? 何か問題でも起こったかな?」

「いえ、そうではないのですが、スラムの女の子が一人お店に来まして、自分を雇ってほしいと売り込んできたんです」

「――ほう、面白いね」


 ギャスパー様はペンを走らせていた手を止めると、楽しそうな笑みを浮かべて私を見上げた。


「その少女は計算が得意なようで、確かに複雑な計算を一瞬でこなしていました。なので雇えるかどうかはギャスパー様に確認すると伝えたのですが……給料はポーツ一つの現物支給でもいいから雇ってほしいそうです」

「……その少女はなんで働きたいのか言っていたかい?」

「スラムから出るチャンスが少しでも多い環境にいたいとか」


 ギャスパー様は俺の言葉を聞いて何度か納得するように頷くと、机から一枚の紙を取り出してペンを走らせた。


「明日、この契約書にサインをもらってきなさい。その少女を雇うとしよう。少女の名前は?」

「本当ですか! れ、レーナと言っていました」

「レーナだね。報酬は六の刻から八の刻までで銅貨一枚で良いかな。後は今後の働きを見て変更すると伝えてくれるかい?」

「かしこまりました! あの、ありがとうございます!」


 俺が感謝の言葉を伝えると、ギャスパー様は意味深な笑みを浮かべて頷いた。


「たった銅貨一枚で有望な才能を雇えるのなら拒否する理由はないよ。もし凡才だったとしても、銅貨一枚なら私に痛手はない。ジャック、良い人材を連れてきてくれてありがとう」

「い、いえ、お役に立てたのであれば良かったです!」


 ギャスパー様はお優しい方だけど厳しい面もあるんだよな……だからこそ、立ち上げて数年にしてロペス商会はどんどん力を増してるんだろうけど。雇い主としてはこれ以上ないほどに頼もしい。


「しばらく一緒に働いてジャックが有能な少女だと思ったら、一度ここに連れてきてくれるかい? 入街税はこちら持ちで良いから」

「かしこまりました。私が見極めさせていただきます」

「楽しみにしているよ」


 まだ少ししか話してないけど、レーナならここに連れてくることになるだろう。スラムから抜け出したいって言ってたし、絶対に喜ぶはずだ。

 俺は喜ぶレーナの顔を思い浮かべて、自然と笑顔になった。




―ギャスパー視点―


「計算が得意なスラムの少女か……」


 ジャックからレーナという少女が暗算した計算内容を聞いてみたら、うちで雇われている本店の従業員と同じレベルの計算能力だった。

 ジャックが嘘をつくとは思えないし、本当にあの内容の計算を一瞬で暗算したのなら思わぬ掘り出し物だ。スラム街にも才能のある者がいるんだな……


「これからはスラムの人材にも目を向けるべきかもしれない」


 有能な人材が眠っているのなら、誰も掘り起こしていない金鉱脈と一緒だ。一番に手を出せば大きな利益を生むだろう。

 スラム街支店は下っ端の訓練のためにやってるだけだったが、もっと力を入れても良いかもしれないな。


 とりあえずレーナの動向に注視しておこう。ジャックがここに連れてきたら、その時に能力を見極めるとしようか。私はこれから予想される利益を見越して、自然と笑顔になった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 私は数学、いや算数の頃からかな?苦手意識があったので、分数分からなくて昔、校長やってた伯父さんに習いに行ってました。 ま、そんなことはさておき 暗算ができる脳内で計算できる人は尊敬します。そ…
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