128、初日の終わりと忙しい日々の始まり
「私は此度のお話をいただいた時、嬉しくて心が震えました。創造神様の加護を賜られたレーナお嬢様は、とてもお強い精霊魔法が使えるとか。そんなレーナお嬢様といつか手合わせしたいと思っております……!」
……うん。私の護衛になったことを喜んでくれてるみたいで良かった。でもヴァネッサ、ちょっと血の気が多そうだね。
「まだ使いこなせていないから、もう少し後になると思うけど……」
「もちろん構いません。それまでにもっと強くなれるよう、鍛錬に励んでおきます」
「ありがとう。頑張ってね」
そこでヴァネッサとの話は終わり、最後はレジーヌだ。レジーヌはキリッとした表情をそのままに、ポニーテイルを僅かに揺らしながら口を開いた。
「私はペイエ男爵家の三女でございます。男爵家の三女ですから自ら生きていく手段を見つけなければならず、幸いにも私には剣の才能があったことから騎士となりました。此度はレーナお嬢様の護衛という大役を任せられ、とても嬉しく思っております。これからよろしくお願いいたします」
おおっ、レジーヌは男爵家なんだね。三人ともが高位貴族出身じゃなくて、なんだか少しだけ安心した。自分で生きていく術を見つけなければならないというのにも親近感だ。
「教えてくれてありがとう。これからよろしくね。パメラとヴァネッサも、これからよろしく」
「はい。レーナお嬢様」
「御身は絶対にお守りいたします」
「ご安心ください」
私の言葉に三人はそれぞれ言葉をかけてくれた。皆タイプは違うけど、凄く良い人たちな気がする。
侍女の仕事が大好きで真面目な綺麗系侍女のパメラ、見た目はふわふわしていて可愛いのに血の気が多い護衛のヴァネッサ、そしてキリッとしていてカッコいい護衛のレジーヌ。
これからもっと仲良くなれるように頑張ろう。
「お嬢様、ハク茶のおかわりはいかがいたしますか?」
「うーん、今はいらないかな。それよりもお部屋を見て回っても良い? まだ軽く説明を受けただけだから」
「もちろんでございます。お好きな場所をご覧になられてください」
「ありがとう」
それから私は部屋中を見学して回り、運ばれてきた美味しい食事を食べたりお茶を飲んで休んだりと、この部屋に慣れるようにゆっくりと一日を過ごした。
最後にお風呂に入ったら、少し早めに就寝だ。ちなみにお風呂は一人で入ることができた。しかしお風呂後の髪を乾かしたり肌に香油を塗ったり、さらには爪を整えたりなどのケアは全てパメラだ。
「お嬢様、おやすみなさいませ」
「うん、おやすみ。また明日ね」
慣れないベッドで眠りにつけるかどうか少しだけ不安だったけど、お風呂で温まった体と適度に満たされた満腹感によって、知らないうちに眠りに落ちていた。
次の日の朝。パメラの声によって目が覚めた。
「お嬢様、起床のお時間でございます」
「うぅ……ふわぁ、もう朝?」
ぐっすり寝過ぎたのか、まだ頭がぼーっとしている。やっぱり慣れない場所で寝ると疲れが残るのかな。
「はい。ご朝食の前にお支度を整えていただきますので、そろそろ準備を始めたく思っております」
「分かった……起きるね」
それからはパメラがテキパキと動いてくれて、なんだかよく分からないまま着替えを含めた諸々の準備が終わっていた。パメラ、凄く手際が良い。
「この服って、私のものなの?」
「はい。レーナお嬢様に合うものを、旦那様と奥様が数着ご用意してくださいました。これからしっかりと採寸してたくさんの衣装を注文されることになりますが、それまでの間に着ていただくお洋服でございます」
「数着あるのにまだ注文するんだ……」
「公爵家の子女となれば、季節ごとに数十着は服を持つのが当たり前でございます」
そうなんだね……季節ごとに数十着ってことは、全部で百着ぐらいの服を持つってことだ。すぐに成長しちゃうのにもったいない……と思っちゃうのは、貴族家の娘として相応しくないんだろうな。
「ではレーナお嬢様、あちらのテーブルへ移動していただけますでしょうか。そろそろご朝食のお時間です」
パメラに促されて椅子に腰掛けると、すぐに部屋の扉がノックされた。レジーヌとヴァネッサが扉を開けて、部屋の中に使用人服の女性が入ってくる。
女性が押しているのは、朝食が載ったワゴンだ。かなりの量に見えるから、やっぱりこの国の貴族社会では、たくさんの料理から好きな分だけを食べて、残りは使用人に下げ渡すのが普通らしい。
「レーナお嬢様、本日のご朝食の説明をさせていただきます。サラダは三種類ございまして、一番左のものが……」
それからワゴンを運んできてくれた女性が料理の説明を、そしてパメラが選んだ料理の盛り付けをしてくれて、朝食は開始となった。