123、公爵家との顔合わせ
謁見の間を後にしてから休憩する暇はなく、そのまま公爵家の皆さんとの顔合わせが行われる応接室へ向かうことになった。
応接室は謁見の間から歩いて数分の場所にあり、すでに公爵家の皆さんは中で待機してくれているらしい。
「レーナ様とご家族様がご到着されました」
ここまで案内してくれた使用人の男性がドアをノックして声をかけると、中からよく通る声が聞こえてきて入室が許可された。
ドアが開くと中には、豪華な衣装を身に纏った公爵家の皆様がいる。四人がけのソファにゆったりとお二人で座られているのは、公爵様と公爵夫人だろう。
その後ろには謁見の間にはいなかった子供たちが三人座っていて、右端にいる男の子が私と同い年だというご子息だと思う。
隣に座る二人の女の子はまだ小さく、六、七歳ぐらいに見える綺麗な子と、三歳ほどに見える可愛らしい子だ。
「よく来たね。レーナはそちらのソファーに腰掛けて欲しい。ご家族は後ろのソファーに」
「かしこまりました。失礼いたします」
勧められたソファーにそれぞれ腰掛けると、公爵様は私たちの顔を順に見回してからにっこりと微笑んで口を開いた。
「私はジェレミー・オードラン。オードラン公爵家の当主であり、王宮で財務大臣の任も賜っている。これからよろしく頼むよ。創造神様の加護を得たというレーナの今後は大変なことになるかもしれないけれど、できる限り守りたいと思っている。もちろんご家族も」
「ありがとうございます。よろしくお願いいたします」
「ではこれから家族になることだし、お互いの紹介から始めようか」
ジェレミー様はそう言うと横に視線を向け、まずは奥さんである公爵夫人を紹介してくれた。
「こちらは私の妻でヴィオレーヌ。レーナにはこれから公爵家子女として相応しい教養を身につけてもらうけど、ヴィオレーヌは良い手本になると思う」
「レーナさん、初めまして。ヴィオレーヌ・オードランよ。可愛らしい娘が増えて嬉しく思っているわ。これからよろしくね」
ヴィオレーヌ様は豪奢な金髪が印象的な、とても綺麗な方だ。ふんわりと微笑んでくれているので、歓迎されてないわけじゃないと思う……これが貴族的な笑顔じゃなければ。
今更だけど、公爵家の方々は私を受け入れることをどう思っているんだろう。創造神様の加護を持つ者ということで歓迎してくれているのか、厄介な人を引き取る羽目になったと思っているのか……
「よろしくお願いいたします。……ヴィオレーヌ様とお呼びすれば良いのでしょうか」
「いいえ、私のことはお養母様と。そして旦那様のことはお養父様よ」
「かしこまりました。よろしくお願いいたします。お養父様、お養母様」
「それで良いわ。これからよろしくね」
ジェレミー様がお養父様、ヴィオレーヌ様がお養母様。忘れないように何度か頭の中で名前を繰り返して記憶に定着させた。
これからしばらくは新たに覚えなければいけない名前が増えるだろうし、頑張らないと。
「では次は私の子供たちだが、右からリオネル、アリアンヌ、エルヴィールだ。リオネルがレーナと同い年で十二歳なので、仲良くしてくれたら嬉しい。アリアンヌとエルヴィールも新たに姉ができるということで、喜んでいるだろう。では皆、挨拶を」
「はい。私はリオネル・オードラン。オードラン公爵家の嫡男です。これからよろしく」
「私はアリアンヌよ。……よろしく」
「私はエルヴィール、です。よろしくね!」
三人の挨拶はそれぞれ雰囲気が異なっていた。リオネル様はとても穏やかな印象で、アリアンヌ様は……あんまり歓迎してくれてない気がする。そしてエルヴィール様はとにかく元気で可愛らしい。
「よろしくお願いいたします。リオネル様、アリアンヌ様、エルヴィール様」
「レーナ、血は繋がっていないとはいえ家族になるのだから、兄妹に敬称はいらない。リオネルも同い年なので、全員呼び捨てで構わない。アリアンヌとエルヴィールはレーナのことをお姉様と呼ぶように」
「……かしこまりました」
お養父様の言葉にアリアンヌ様……様はいらないのか。アリアンヌはなんだか不服そうだ。エルヴィールは「レーナおねえさま!」と素直に呼んでくれている。
これはアリアンヌと仲良くなるには、根気が必要かもしれない。
「リオネル、アリアンヌ、エルヴィール、これからよろしくね」
そうして公爵家側の紹介が終わったところで、私も家族の紹介をすることになった。
「私の家族で父がアクセル、母がルビナ、兄がラルスです」
「あ、アクセルと、申します。よろしくお願いします」
「ルビナです……よろしくお願いいたします」
「ラルスです。よろしく、お願いします」
三人がガチガチに緊張している様子で挨拶をすると、お養父様はぎこちない様子を指摘せずに微笑んでくれた。
「挨拶ありがとう。アクセル、ルビナ、ラルス、これからよろしく。ご家族はレーナ専属の使用人ということにして自由に過ごしてもらおうと思っていたけど、公爵家の使用人として働きたいんだったかな?」
「は、はい。……私たちではお役に立てるか分かりませんが、雑用でも構いませんので、雇っていただけたら嬉しいです」
一番敬語が得意なお母さんがそう返答すると、お養父様はすぐに頷いてくれた。
「分かった。では三人はうちの使用人として雇おう。その場合はレーナの家族だからという贔屓は一切ないけど良いかな?」
「はい、構いません」
「では三人の所属先は、屋敷に戻ってから執事と相談しよう」
そこで家族皆との話は終わり、お養父様はまた私に視線を戻した。