表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
119/293

119、王宮へ

 リューカ車に乗って進むこと半刻ほど。私たちは貴族街に入り、窓から洗練された街並みを呆然と見つめていた。

 平民街の第二区から第一区に入っただけでも街の様子が変わったことに驚いたのに、平民街の第一区と貴族街は全く様子が異なっている。


 貴族街には綺麗で広い庭を持つ大きなお屋敷がたくさん立ち並び、道路にはほとんど人が歩いていない。お店のようなものも見えず、とても静かな街だ。


「凄いわね……」

「あんなに広い家、何人住んでるんだ?」

「それにあの庭、もったいないよな。野菜でも育てればいいのに」


 貴族街にある広い庭を半分ぐらい削ってスペースを開ければ、スラムに住む人たち全員が街中に入れる気がする。


「あっ、他の車があるぞ」


 お兄ちゃんが指差した先を見てみると、そこにはちょうどお屋敷の門前に泊まっているリューカ車があった。あの紋章って……有名な商会のものだったよね。


 貴族は買い物をしたいときに商人を屋敷に呼ぶから、貴族街にはお店がないのかな。


「だんだんと屋敷が大きくなっていくわね」

「王宮に近いほど高位の貴族が住んでるらしいからね」


 それからも皆で街並みを眺めつつリューカ車に揺られていると、王宮を囲む城壁が見えてきた。王宮は周囲が深い堀に囲まれていて、その堀に掛かる橋を通って門に向かうらしい。


 私たちが来ることは事前に伝わっていたからか、馬車が橋に差し掛かると、大門が低い音を立ててゆっくりと開いていく。


「ついに王宮だな」

「き、緊張するわね」

「この後のことは何も聞いてないからね……」


 まずは何をするんだろう。ダスティンさんの話では王家で保護してくれて、そのあと貴族にって話だったけど、詳しい流れは分からないということだった。


「中に入るぞ」


 いつもより強張ったお兄ちゃんのその言葉のすぐ後に、少しの間だけ日の光が遮られ門を通った。


 門の先には――とにかく広くて美しい庭園が広がっていた。そしてその庭園の先には巨大な王宮が鎮座していて、それ以外にもいくつもの建物があるのが見える。


「王宮って宮殿だけじゃないんだね」

「いくつも建物が見えるわね」

「俺たちが向かうところは目の前の建物だよな?」

「あんなにデカい建物、なんのために必要なんだ?」


 皆で窓に額をくっつけて外を眺めていたら、近くでリューカに乗っていた騎士の一人に、やんわりとあまり顔を出さないようにと言われてしまった。


「すみません」


 聞こえてるかは分からないけど謝ると、その騎士の人は笑みを浮かべて頭を下げてくれる。


「皆、大人しくしてようか」

「そうね。はしゃぎすぎたわ」

「この後のために体力を残しておかないとだもんな」

「外も気になるけどな……!」


 お兄ちゃんのその言葉に皆で笑みを浮かべ、それからは静かにリューカ車に揺られた。


 それから少しして、ついにリューカ車が減速してピタッと動きを止める。窓から外を覗くのを我慢していると、外で騎士たちがリューカから降りているのか、鎧が動く音が聞こえてきた。


「皆様、到着いたしました。扉をお開けしてもよろしいでしょうか?」

「は、はい。よろしくお願いします」


 騎士の声に返答すると、リューカ車の扉がゆっくりと開かれた。車から降りると……王宮のエントランスには、ビシッとお仕着せを着こなしたたくさんの使用人が並んでいる。


「す、凄いな」


 お兄ちゃんが困惑の声音で呟いたのが聞こえてきた。

 この人数での出迎えは驚くよね……たださすがにこの場に王族や貴族の方々はいなそうだ。それだけは良かった。


「「「レーナ様とそのご家族様、お待ちしておりました。お会いできましたこと、使用人一同心より嬉しく思っております」」」

「……っ」


 び、びっくりした。突然一糸乱れぬ動きで頭を下げるのはやめてほしい。それに声も完全に揃ってるし。


 王宮で働く人たちって大変なんだね。凄いという感想よりも、私があの中に入って働いたらという想像をしてしまう。


「あの……出迎え、ありがとうございます」


 私が何かを言わないと進みそうになかったので緊張を抑え込んで口を開くと、正解だったのか一番先頭にいる男性が顔を上げてくれた。


「さっそくですが、中へ案内させていただきます。どうぞこちらへ」

「ありがとうございます」


 男性に付き従って中に入ると、まず目に飛び込んできたのはとにかく荘厳なエントランスだ。天井がとても高く壁一面に装飾が施されていて、目の前には大きな階段が鎮座している。


 しかしその階段は登らないようで、男性は進路を右に変えてエントランスから広い廊下に入った。目的地は比較的近く、その廊下の中ほどにある部屋らしい。


「こちらへお入りください」

「失礼いたします……」

「奥のソファーに腰掛けていただければと思います」


 奥のソファーって、そっちが上座だよね。いいのかなと思いつつ意見を言う勇気はなかったので、素直に頷いて腰掛けた。

 するとここまで案内してくれていた男性が私たちの向かいに腰掛け、その後ろに数人の使用人が待機する形になる。騎士は二人だけ室内に残り、ドアの前で警備をするようだ。

本日から2章の投稿を開始します!

舞台が貴族街に移りましたが、この先のレーナの物語も楽しんでいただけたら嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 身分がどんどん上がりすぎて、前世の記憶がない特に家族が対応出来るものなのか疑問。
[一言] この歳になって初めて「お仕着せ」が、所謂、王様とか上位貴族のような偉い人から支給された衣服からきてるのを初めて知りました。 ひょっとしたら、偉い人からの無茶ぶりが変化して「おしきせがましい」…
[良い点] レーナと家族がとことん難民平民目線の言動でナチュラルに体制批判になりかかっているところ。 [一言] レーナとその家族それぞれの立場での家族愛のカタチを見届けたい。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ