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116、別れの挨拶と金色の精霊

 話し合いを終えて商会長室を後にしたところで、私は皆に少し待っていてもらい、ジャックさん、ニナさん、ポールさんの三人に少しだけ時間を作ってもらった。


「忙しいのにすみません。実は今日の儀式でこんな指輪を賜りまして……ここで働くことができなくなってしまいました。そこで皆さんにご挨拶をと」


 手っ取り早く理解してもらうために指輪を見せると、皆は瞳を見開いて私の指を凝視した。


「そ、創造神様の、加護か……?」


 ジャックさんのその言葉に頷くと、皆が一斉に大きく息を吐き出す。


「び、びっくりしたよ……」

「本当にそんな加護があるのね。確かにこれはうちで働き続けてる場合じゃないわ」

「そうなんです。……今まで、本当にありがとうございました」

「レーナちゃん……これから絶対に会えないわけじゃないわよね?」


 ニナさんは瞳に涙を浮かべながら、私をギュッと抱きしめてくれた。私はそんなニナさんを抱きしめ返して、しっかりと頷く。


「はい。これからのことはまだよく分かりませんが、私はロペス商会のお得意様になる予定です」

「ふふっ、それは楽しみだわ。レーナちゃんが好きなものを揃えておかないとね。……また会える時を楽しみにしているわ」

「私もです。ニナさん、今までありがとうございました」


 ニナさんが私から体を離すと、今度はポールさんが私に一歩近づいてくれた。


「レーナちゃん、大変なこともあると思うけど頑張ってね。疲れた時は美味しいものを食べるに限るよ」

「ふふっ、そうしますね。ポールさん、今までありがとうございました。そうだ、エリクさんに私のことを伝えてもらっても良いですか?」

「もちろんだよ。任せておいて」

「ありがとうございます」


 ポールさんと話を終えたら、最後はジャックさんだ。ジャックさんとは一番付き合いが長いから、しばらく会えなくなるのはかなり寂しい。


「ジャックさん、今まで本当にありがとう。ジャックさんがいなかったら、私はロペス商会で働くこともできなかったと思う。本当に本当に感謝してる」

「ああ、俺もレーナがいなかったら、今でもスラム支店で働いてたかもしれない。レーナと出会えて良かった」

「私も会えて良かったよ。……これからは同僚じゃなくなっちゃうけど、友達としてよろしくね」

「ははっ、そうだな。また会える時を楽しみにしてる」


 ジャックさんは私の顔を見てクシャッと笑みを浮かべると、頭をポンポンと軽く撫でてくれた。


「そうだ、スラム街支店で働く人に伝言を頼んでも良い? 私のスラムにいる友達に連絡をして欲しいの。私の身に起こったことと、しばらく連絡が取れないことを」

「分かった。任せておけ」

「ありがとう。――じゃあ、またね」


 寂しいけど笑顔で手を振ると、三人も私と同じように笑みを浮かべて手を振ってくれた。私はそんな三人の姿を目に焼き付けて、家族とダスティンさんのところに戻った。


「もう良いのか?」

「はい。永遠の別れでもないですから」

「そうか。では工房に行くぞ」


 それから皆でダスティンさんの工房に戻り、テーブルに腰掛けて一息ついた。なんだか怒涛の展開で疲れたな。でもしばらくここでゆっくりできる。


 そう思って大きく息を吐き出したところで、お兄ちゃんが素っ頓狂な声を上げた。


「なっ、え、は……そ、それ!」


 お兄ちゃんが指さす方向を振り返ってみると――そこにいたのは、金色に輝く精霊だ。


「……っ」


 思っていたよりも近くにいた精霊に、驚いて言葉を発せない。創造神様の加護を得たらどの精霊と契約できるのだろうと思ってたけど……まさか、金色の精霊がいるなんて。


「ど、どうすれば……」


 辛うじてその言葉を発すると、この中で一番冷静なダスティンさんが私の指輪を示した。


「精霊との契約は、精霊が指輪に触れることで成立する。指輪を差し出してみると良い」

「分かり、ました」


 緊張しつつも恐る恐る左手を持ち上げて、金色に輝く精霊に近づけていくと……精霊が意志を持って私の指輪に近づき、宝石と精霊が触れ合った。


 するとその瞬間、なんとも言えない感覚が私の体を襲う。この精霊と繋がりができたような、糸のようなものでつながったような、そんな感覚だ。


「どうだ、何か感じるか?」


 ダスティンさんのその言葉に感じたままを伝えると、それは精霊魔法に適性がある証拠だと言われた。


「精霊と契約して何も感じない者は、ほぼ確実に精霊魔法が上手く使えない。逆に少しでも繋がりを感じ取れる者は、日常生活で使用できるほどには精霊魔法を使いこなせる。そして明確な繋がりを感じ取れた者は、稀にいる精霊魔法が得意な者の証だ」

「……では私は、少なくとも日常生活では使用できるのですね」

「そうだな。しかし先ほどの話を聞いた限りでは、かなり強い繋がりを感じられているように思う」


 そうなんだ……それは、素直に嬉しいな。魔法を華麗に使いこなすのが密かな夢だったのだ。


「この金色の精霊は、どんな魔法を使えるのでしょうか。確か御伽話では他の精霊が使える魔法全てと、空間を操ったり他人の力を向上させたりできるということでしたが」


 幼少期に聞かされていた話を思い出しながら呟くと、ダスティンさんを始め家族皆も頷いた。


「そのお話は誰でも知ってることよね」

「レーナ、何か試してみたらいいんじゃないか?」


 父さんに促され、私は金色の精霊に視線を向けた。精霊は私の周りにふわふわと浮いていて、心なしか嬉しそうに見える。


「魔法を発動してくれる?」


 なんだか話しかけたら通じるような気がして、思わずそう声を発した。すると金色の精霊は、上下にふわふわと動いて頷いてくれている……ように見えた。

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